お風呂ではじめる性教育。まずは「プライベートパーツ」を伝えよう!
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近年話題になることの多い、幼少期からの性教育。小さいうちからの取り組みが大切などと聞くけど、実際にはどうしたらいいのか分からない保護者も多いでしょう。今回は「お風呂ではじめる性教育」をテーマに、中学校や高校で性教育の講演活動を行う産婦人科医の遠見先生に、性教育への取り組み方について話を聞きました。
近年、乳幼児期からの性教育についてメディアでも取り上げられたり、話題にあがることが増えています。しかし実際には、「性教育ってどんなタイミングでしたらいいの?」「どのように伝えればいいの?」と、不安や疑問を抱えるママも多いでしょう。
今回は、全国の中学校・高校などで性教育の講演を行う産婦人科医の遠見先生に、「お風呂ではじめる性教育」をテーマに、プライベートパーツの教え方や、性教育への取り組み方について話を聞きました。
遠見 才希子
産婦人科専門医。大学時代より「えんみちゃん」のニックネームで全国900カ所以上の学校で性教育の講演活動を行う。近著に『だいじ だいじ どーこだ?はじめての「からだ」と「性」のえほん』(大泉書店)。
性教育のスタートは「お風呂タイム」がおすすめ
ーー乳幼児期からの性教育が注目されていますが、おうちで性教育を始める意味や気を付けたいことを教えてください。
遠見先生:昨今の性暴力・性犯罪などの社会問題に対して危機感を抱き、性教育に関心を持つ方もいると思います。「リスクを避けてほしい」という気持ちがあるからこそ、つい、「からだを触らせちゃだめよ」「自分のことを大切にしないとだめよ」とネガティブな声かけや説教ベースになってしまうことがあるかもしれません。
ですが、本来性教育の目的は、健康と幸せの実現であり、「自分のからだは自分のもの。相手のからだは相手のもの。人それぞれ違いがあるし、その違いを認め合って大切にしよう」というポジティブなものです。まずは、伝え方をネガティブな表現からポジティブに変換するだけでも、意味があるのかなと思いますよ。
「家庭で性教育なんて自信がない」という人も、そんなに難しく捉えなくても大丈夫です。たとえば、赤ちゃんのときにオムツをかえながら「大事なところきれいにするよ」と言ったり、いっしょにお風呂に入りながら「〇〇ちゃんのからだは大事だよ」と伝えることも、広い意味では立派な性教育ですから。
お風呂は、性教育をするのにとても良い場所だと思います。お風呂は大事なプライベートパーツを見せる場所、信頼関係があっての空間ですからね。また、生理中のママと入ることもあるので、性の話に触れやすい場所でもありますね。
「プライベートパーツ」を伝え、自分のからだを守れるように
ーー最近では、保育園でもプライベートパーツを教えるケースがあったり、言葉としても耳にする機会が増えてきているように思います。性教育の入口として、プライベートパーツから教え始めるのがよいですか?
遠見先生:そう思いますね。「男の子も女の子も、胸や性器やおしりなど下着や水着で隠れる場所と、口は大事なんだよ」というのは小さい子どもでも分かりやすいですからね。とても大事なところだから、見るのも触るのも自分だけ。勝手に見たり触ったりしてはいけないし、写真に撮ってもいけない。もし、そういうことをする人がいたら、知ってる人でも悪いことだよと、伝えるとよいですね。
ただし、伝えるときに「人に見せちゃだめ!」と自衛ばかりを強調すると、被害にあったときに見せた自分が悪かったと思わせてしまうかもしれません。「触ったり見たりする人がいたら、イヤだって言っていい。その場を離れていい。それを大人に話していい。でもそれができなくても○○ちゃんは悪くないよ」といっしょに考えながら会話をすることです。
日本では性暴力に関する認識が低いため、被害にあった子が長い間だれにも打ち明けられずにいたり、「なんで逃げなかったの?」という大人からの心ない言葉に傷ついてしまう二次被害も多いのが現状です。そうならないように、子どもを信じて、話をよく聞くこと。また、性暴力被害者ワンストップ支援センター(#8891)などの相談機関があることを事前に知っておきましょう。
プライベートパーツ」にまつわるQ&A
プライベートパーツを教えるのはなんのため?
ーー先ほどのお話では、子どもがプライベートパーツを知ることは、性暴力予防など自分を守ることに繋がると分かりました。他にはなにか目的はあるのでしょうか?
遠見先生:そうですね。プライベートパーツを伝えることは、「自分のからだを誰がどんなふうに触っていいかは自分が決める」という、からだの権利に気づくきっかけになります。
そして、被害の早期発見だけでなく、将来的な加害予防にもなります。「プライベートパーツは自分だけの大切なところ」ということを理解すると、おのずと「自分以外の人のプライベートパーツを勝手に見たり、触ったりしてはいけない」と分かると思うので。
また、小さい頃からプライベートパーツの大切さを知ることは、将来的に信頼関係のある人と、相手を尊重したセックスをすることにもつながるかもしれません。
遠見先生は子どもにどう伝えた?
ーー遠見先生も小さいお子さんがいらっしゃいますが、どのようにプライベートパーツを伝えているのでしょうか?
遠見先生:うちは娘が2歳のころに「おちんちん」とはしゃいだ時期があったので、お風呂で体を洗うときに、「〇〇ちゃんのからだは〇〇ちゃんのものだよー。全部大事大事だよー。」と言うようにしたんです。
それを繰り返していたら、ある日突然大泣きしたことがあったんです。「大事大事は自分で洗う。ママ触っちゃダメ」と言うので、「自分のからだは自分のもの」ということを認識したのかもしれないと驚きました。それ以降は「洗い残し、ママが洗っていい?」と聞いたり、お風呂あがりに裸で走り回っているときは「大事大事だから、早くお洋服着てね」などと伝えていきました。
すると娘は、「じゃあママのおっぱいも大事大事なの?」と聞いてきたんです。だから「ママのおっぱいはママのものだから、触っていいかはママが決めるよ。ママの大事なところだから、勝手に触ったらいけないんだよ」と伝えていきました。
そうすると今度は、足や背中などを指しながら「じゃあ、ここは?ここも大事大事?」と聞かれたので、ハッとして「からだは全て大事なんだ」という前提に気付かされたんですね。
胸や性器などのプライベートパーツは大切と説明していますが、そもそも、からだは全てが大切ですね。それに、人それぞれに触れられたくない場所や見られたくない場所、その人だけのプライベートパーツがあるかもしれません。一人一人のからだを尊重するということを、娘に教えられた気がします。
お風呂はいつまでいっしょに入っていいの?
ーーママの中には、子どもに生理の出血を見られるのがイヤ、小学生になったらお風呂にいっしょに入るのはイヤな気持ちになる人もいるようです。いつまで親子でいっしょに入るべきなのでしょうか?
遠見先生:バウンダリー(人との境界線)って人それぞれ違っていて、子どもには見せたくない、話したくない部分も人それぞれですよね。自分のからだのプライベートに関わることなので自分の気持ちを大切にしてください。
反対に、子どもがひとりで入りたいと思っても、親がいっしょに入りたがる家庭もあります。その場合、子どもが親に言いづらいということもあります。
ですので、子どもがプライベートパーツ含めて自分でしっかりと洗えるようになって、ひとりでも安全に入れると判断したら、一度そのことを話し合ってみてはいかがでしょうか。「自分だけの大事なからだだからひとりで入ってみる?」と聞いてみるのもよいかもしれません。
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子どもとのお風呂で、疑問に思うこと、心配なことは、性教育の他にもたくさんありますよね。
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性のはなし。子どもに聞かれたらどう答える?
ーー子どもから性の質問を突然されて、ドキっとしてしまうこと、ありますよね。
たとえば「なんで生理があるの?」「赤ちゃんはどうやってできるの?」「セックスってなに?」などと聞かれると、困ってしまう親が多いようです。どのように答えたらよいのでしょうか?
この質問はとても多いのですが、日々の親子のコミュニケーションや関係性がベースになるので、一概にどのような回答がベストだとは言えません。
大切なのは、そういった性の質問を子どもからされたときに、否定せずに、まずは受け止めることです。すぐに答えられなくても「いい質問だね。どうしてそう思ったの?」とオープンクエスチョンで会話をつなげながら、いっしょに考えてもよいでしょう。
「動揺しないですぐに答えなきゃ」「正しいことを言わなくては」と焦らずに、「すぐにうまく答えられないからいっしょに調べてみようか」などと言ってもよいと思うのです。
その質問をしてもらえるような関係性を築けていることがなにより素晴らしいし、すぐに答えを出せないとしても、その会話を通してコミュニケーションが取れていることが大切です。
ただ、インターネット上などにはアダルトコンテンツが溢れています。子どもがどんな情報に触れているかは気にしておきたいですね。そして、親自身も、性の知識をアップデートしておく必要があります。性教育を受けずに大人になったという親も多いと思いますが、子どもと同じ目線で一緒に考えていけるといいですね。
お風呂で性教育、はじめてみませんか?
遠見:性教育というと正しい知識を教えなければならないと、難しく感じる人もいるかもしれません。もちろん知識は大切ですが、家庭で最も大切なのは、日々の子どもとのコミュニケーションを積み重ねていくこと。
日頃からオープンなコミュニケーションを取り、子どもが困ったときに相談できたり、SOSを出せるような関係性を築いておくこと。それができていたら、それだけでも十分といえるかもしれません。
そのために「今日はどんな日だった?」と安心できる空間で会話をすること。お風呂はそんなコミュニケーションを取るのにも最適な場所かもしれません。
「性」はみんなに関わるもので、性教育は一生涯続くもの。遅すぎるということはありません。子どもと話すことをきっかけに、わたしたち大人が学びなおすのもよいでしょう。難しく考えずに、できることから始めてみませんか?
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