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サンタさんってどこからくるの?子どもに教えたくなる世界のサンタ事情
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編集者/ライター
編集者/ライター
1985年(昭和60年)佐賀県生まれ・都内在住。一児の父。本職は、編集者・ライター。他にも小説やゲームシナリオの執筆を手掛ける。
「サンタさんってどこからくるの?」「本当にいるの?」と子どもに訊かれ、答えに悩む方も多いでしょう。『12月25日の怪物:謎に満ちた「サンタクロース」の実像を追う』(髙橋大輔/草思社文庫)は、著者がサンタのルーツをもとめ、各国を旅したノンフィクション。子どもにもつい教えたくなること間違いなしの、各国のサンタ事情を紹介します。
サンタのモデルがいた国にはクリスマスがない
サンタのモデルは聖ニコラウス
サンタのモデルといえば、「昔、聖ニコラウスというキリスト教の司教が、貧しい隣人の家に金塊を投げ込んだことに起源がある」と耳にした方も多いのではないでしょうか。
その司教の姿は、サンタクロースとは似ていません。5、6世紀以後に描かれた絵にあるのは、どれも痩せた老人。遺骨を調査しても推定167センチ、彼が生きたローマ帝国時代においては高身長で細身だったことが、解剖学者によって明らかにされています。サンタが太ったイメージで広まったのはコカコーラ社の宣伝によるものだというのも、また有名な話でしょう。
聖ニコラウスはトルコ出身
聖ニコラウスの出身地は、トルコ。現在はイスラム教徒が多い国家で、クリスマスを祝う習慣はないそうです。
彼が信仰されるようになったのは、イスラム王国が勢力を拡大した11世紀後半、遺骨がトルコからイタリアへ持ち出された後のこと。キリスト教の国ではそれ以降、聖ニコラウス祭が行われるようになりました。
一方トルコは、現代に至るまでその風習は入ってこなかったのでしょう。トルコのミュラに聖ニコラウスを祀る教会があり、かつて遺骨を求めたイタリアの騎士たちはそこへ入ったといいます。彼らによって開かれた大理石の石棺を見たとき様子を、著者はこう描写しています。
“大きく破損していて、辛うじて原型をとどめている程度だ。”
聖ニコラウスが失われたトルコ。彼を表す「ノエル・ババ」という名前は広まっていても、彼が子どもにプレゼントを配る風習までは、さほど広まっていないようです。
オランダのサンタは馬に乗り、12月6日にやってくる
12月6日の「シンタクラース」
前述した聖ニコラウス祭について、これがそのままクリスマスへと姿を変えたわけではありません。そもそもクリスマスはキリストの生誕を祝う日。聖ニコラウス祭は、司教の命日である12月6日に行われていたそうです。この二つが合体したのは、プロテスタントが聖人や偶像など形あるものの信仰を禁止したことに理由があるそう。
聖ニコラウス祭もプロテスタント教会から抑圧されながら、教会の力では子どもたちへプレゼントを贈る習慣まではなくなりませんでした。苦肉の策で、ドイツをはじめとするプロテスタントの国では、プレゼントがもらえる日をクリスマスへ変更したのです。
一方、イタリアやスペインなどカトリックの国では、12月6日の祭りに現れる聖ニコラウスがプレゼントを配ります。
かつてスペインの領土だったオランダにも、その名残が。祭りに登場する白髭の老人はサンタではなく「シンタクラース」と呼ばれ、スペインから船に乗って上陸し、白馬に乗って国内を回ると伝えられているそうです。子どもたちもクリスマスイブにからっぽの靴下を用意するのではなく、12月5日の夜、暖炉の前へ馬のエサとなるニンジンやレタスが入った靴を置いて眠ります。
悪い子にはプレゼントを与えない……
また聖ニコラウス祭は、かつては子どもにとって楽しい日というばかりではありませんでした。祭りに現れる聖ニコラウスは、子どもの名前と過去1年間の行いを書かれた帳面を持ち、悪い子にはプレゼントを与えないばかりか鞭で打ったそうです。
「善人は天国へ、悪人は地獄へ」というキリスト教の善悪二元論に基づいた風習。宗教色がうすれた今のオランダでは、聖ニコラウスもプレゼントを与えるだけの存在になったとのことです。
フィンランドのサンタのルーツは、冬至に現れる怪物
サンタさんはオフィスにいる
サンタのルーツには、聖ニコラウスだけでなくもう一つあると本書は述べます。サンタが暮らす村があり、世界中から子どもたちの手紙が届けられるというフィンランドでは、サンタはオフィスにいるそう。
オフィスを訪ねた著者は、サンタへ子どもたちが抱きがちな質問を投げかけています。
「クリスマス・イブの夜の間だけで、どうやって世界中の子どもたちにプレゼントを配れるのか?」
「一年でたくさん届く子どもたちのメッセージを、どう処理しているのか?」
その答えは本書で読んでいただくとして、ここではフィンランドのサンタのルーツについて紹介しましょう。
サンタのルーツはヤギの怪物?
それは聖ニコラウスではなく、「ヨールプッキ」と呼ばれるヤギの怪物。
“毛皮に穴を開けただけの仮面をかぶり、頭には先の尖った角が伸びている。全身が野獣の毛でおおわれているが、二本足で直立歩行する。”
本書には、その不気味な写真も掲載されています。起源は1,000年も前にさかのぼるという人もいるそうで、事実なら聖ニコラウス信仰が広まるよりも以前のことになります。
「ヨールプッキ」が現れるのは、クリスマスの日ではなく冬至のこと。その性格は、恐ろしい見た目に反して慈悲深く、寒さが厳しい中、プレゼントを携え家々を回ったとされます。これが聖ニコラウスの影響を受け、徐々に今のサンタクロースへと変わっていったのです。
終わりに
フィンランドの「ヨールプッキ」のように、キリスト教とは無関係の冬の来訪者を祝う習慣がある国は、ほかにも。たとえば日本の秋田にもナマハゲがおり、著者はそれについても言及し、詳しく取材しています。
聖ニコラウスを始まりとするルーツと、土着文化を起源とする二つ目のルーツ。本書を読めばそれらを詳しく学べるとともに、サンタクロースの奥深さに気づかされます。
“サンタクロースが来るクリスマスとは、絵本を読んで想像を膨らませるだけではなく、むしろ子どもといっしょにサンタクロースを家に迎え、ちょっと神秘的なことを体験する人生のひとコマなのだ。親になるということは、再び、自分にも新しいサンタの物語が始まることでもあった。”
あとがきからの引用です。「サンタさんって、いるの?」と子どもから質問されたときどう答えるのか、本書を読んで改めて考えてみては。
ライター:平原 学
小説家、コラムニスト。1児の父。
第3回ツイッター小説大賞佳作受賞。
著書:単行本『ゴオルデンフィッシュ』(文芸社)