「おもちゃに性別はない、あるのは偏見だけ」レゴ®フレンズデザイナーに聞くジェンダーインクルーシブの重要性

「おもちゃに性別はない、あるのは偏見だけ」レゴ®フレンズデザイナーに聞くジェンダーインクルーシブの重要性

男の子に人気の玩具としてのイメージが強いレゴ®ブロック。女の子にも遊びやすいおもちゃを目指し、制作調査に約4年が費やされた「レゴ®フレンズ」シリーズは、今年で10周年。性別や人種にとらわれないキャラクター展開や色使いを特徴とし、女の子にも愛されています。今回KIDSNAでは、クリエイティブ・ディレクターであるフェネラ・チャリティー氏にメールインタビューを行いました。性別にとらわれないおもちゃの重要性や、子どもたちが自由に羽ばたくために大人ができることなどを伺いました。

今年で10周年を迎える「レゴ フレンズ」は、性別や人種にとらわれないキャラクター展開や色使いが女の子にも受け入れられ、レゴ ブロックで遊ぶ子どもの裾野を拡げています。

日本でもおもちゃは「男の子向け」「女の子向け」と分類されてきましたが、最近は性別によって対象が絞られない商品や宣伝が増えています。

その年の優れたおもちゃを表彰する「日本おもちゃ大賞」でも、「ボーイズ・トイ部門」「ガールズ・トイ部門」が2021年に廃止されました。

「レゴ フレンズ」クリエイティブ・ディレクターのフェネラ・チャリティー氏に、開発から10年の間に起きた社会の変化、性別にとらわれないおもちゃの重要性、さらには子どもたちの可能性を保護者が邪魔しないためのアドバイスを伺いました。

 
フェネラ・チャリティー 2007年にレゴ®クリエイターのデザイナーとしてレゴグループに入社。2008年にデザイナーとしてレゴ・フロントエンド・チームに異動、レゴ フレンズの開発に携わる。「レゴ フレンズ」制作のためのデザインチームの一員として、フランチャイズの拡大に取り組み、新しいピースやビルディングセットのデザインを担当。その後、ブランドの運営に携わり、デザインチームを指揮、レゴ フレンズの世界を築き上げている。

開発のきっかけは「もっと多くの女の子にレゴ ブロックで遊んでほしい」

レゴ社は「レゴ フレンズ」の発売以前から女の子に対しても商品PRをしてきましたが、なかなか成果が現れませんでした。

レゴ®クラシックやレゴ®ニンジャゴー、レゴ®シティなどで遊ぶのが大好きな女の子は当時からいました。でも、もっとたくさんの女の子たちから支持を集めるシリーズを作りたい。そこで開発されることになったのが「レゴ フレンズ」です。

レゴ ブロックに興味を示さなかった女の子たちは、一体どんなことに興味を持っているのか。私たちは徹底的に調べることにしました。

約4年をかけた膨大な調査の結果、彼女たちの多くは日常を丁寧に再現したおもちゃに興味を持っていることがわかりました。

その結果を受けて、「レゴ フレンズ」では日常的な世界を細部までしっかりと作りこんでいます。日常生活、家族、友情の物語に命を吹き込むのが私たちの仕事です。

開発からこの10年間、「レゴ フレンズ」のブランドと体験は、消費者とともに成長し発展してきました。

 
チャリティー氏もお気に入りという「レゴ フレンズ ハートレイクシティ アパートメント」。「この作品は、素晴らしいキャラクターが勢ぞろいした素晴らしいモデルで、色彩設計も実にモダンで、過去10年間のレゴフレンズの進化を完璧に表現しています」

おもちゃを男女で分けない流れが生まれた

「レゴ フレンズ」をスタートして以降、多くの子どもたち、特により多くの女の子にレゴ ブロックを楽しんでもらえるようになりました。

世の中全体としても、おもちゃそのものだけではなく、男の子用と女の子用の場所を分けないおもちゃ売場も増えています。子どもが性別に関係なく自分の興味を惹くおもちゃを手に取れる環境ができつつあり、大変喜ばしいことです。

子どもが情熱を感じるもの、率直に興味を惹くおもちゃを手にするための手助けをすることは、保護者やギフトを渡すすべての大人の役目です。

 
「レゴ フレンズ ドルフィンクルーザー」もチャリティー氏にとって思い入れのある商品。「レゴ ブロックの既存のピースを使いながら、船の前部に海賊船のエレメントを使うなど、新しい方法で船をデザインするのはとても満足のいくものでした」

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大人の固定観念が子どもの可能性を邪魔する

先にもお伝えした通り「レゴ フレンズ」の開発には消費者の見ている世界とニーズを理解するための調査に多大な時間を費やしました。

その調査では、性別を理由とした偏見が続々と明るみに出てきました。

 
出典:Girls are ready to overcome gender norms but society continues to enforce biases that hamper their creative potential

この数字は、大人たちの持つ固定観念が子どもたちの自由な選択を邪魔していることを示しています。

「男の子だから車のおもちゃを」「女の子だから着せ替え人形を」と無意識に決めつけていては、子どもの可能性を奪いかねません。

※写真はイメージ(iStock.com/galitskaya)

私たちに必要なのは、子どもたちが日々触れるおもちゃから性別による固定観念を感じて内面化させない努力です。性別による分断で誰かを排除することがないよう、これらのデザインやマーケティングにおいて強く意識して判断を行っています。

私たちには次世代を刺激し、育成する大きな責任があります。製品をデザインする際に、子どもたちの見ている世界を起点として物事を考えることで、誰かを排除することなく、共感を持った思いやりのある世界を築く手助けができると信じています。 

また、Geena Davis Institute on Gender in Media(俳優のジーナ・デイヴィス氏が家族向けエンタメメディアでのネガティブなステレオタイプ表現をなくすために設立した研究所)やUNICEFと密接に連携し、製品やマーケティング・コミュニケーションにおいて有害なステレオタイプや偏見を排除するよう努めています。

ピンクや青を使う時に考えること

私たちは、レゴ ブロックのセットを「ジェンダーニュートラル」(性別的に中立であること)にデザインするのではなく、「ジェンダーインクルーシブ」(性別を理由に誰かを排除をしないこと)にデザインしています。

ジェンダーイメージが刷り込まれた青やピンクを使用する代わりに、中性的な印象のあるグレーや白を採用するのが正しいかといえば、そうではありません。

「レゴ フレンズ」チームでは、デザインを通して現実の世界にひねりを加えた、色彩豊かな世界を表現しています。私たちは、紫や青などレゴのパレットにあるすべての色を使うことを好んでいます。

 
2022年に発売された「レゴ フレンズ フレンドシップ ツリーハウス」。ピンクや青もあくまで豊かな配色のひとつとして用いられている。

色に性別はありませんが、社会が植え付けたさまざまな色に対する認識には性別があり、これが本当の課題です。

ある色が特定の性別を象徴していることを誰かに教えられるまでは、子どもたちが色を性別として見ることはありません。

製品のデザインやストーリーテリングを通じて、子どもたちが性別にとらわれてはいけないと思えるようなインスピレーションを与えたいと考えています。

ジェンダーバイアスから子どもを守るため、親ができること

ジェンダーの固定観念は私たちの中に深く刻み込まれているものです。

いくら意識しているつもりでも、無意識に根付いた偏見はふとした時に顔を出します。自分の中の偏見に気づくためには、ひたむきな努力が必要です。

私たちは先述のGeena Davis Instituteと共同で、インクルーシブな遊びを実現するための保護者用ガイドラインを開発しました。 その一部をご紹介します。

 
※写真はイメージ(iStock.com/Rawpixel)

新しい遊びを積極的に取り入れる

子どもが典型的なジェンダー意識にとらわれずジェンダーインクルーシブであるためには、さまざまな活動に参加して自信を持つことが一番です。

たとえば料理や絵画、ガーデニング、遊び場を自分で作る。

これらの創造的な活動は、子どもが自分を表現するための練習の場にもなります。


性別にとらわれずに活躍する人を紹介する

将来の夢を自分の性別に合わせて決める必要はありません。

たとえば飛行機が好きな女の子であれば、女性パイロットとして活躍したベッシー・コールマン、アメリア・イアハート、マリーナ・ラスコバなどの本を一緒に読んでみましょう。きっと彼女たちの存在がインスピレーションを与えるはずです。

性別や人種を問わず、さまざまな人がさまざまな職業に就いている事実を教えましょう。「アイデンティティは自分で変えることのできない運命ではない」と知ることは、子どもが自分の興味に忠実でいるためにも重要なことです。

 
※写真はイメージ(iStock.com/DisobeyArt)

性別のちがう子とも遊ぶ機会をつくる

男女が一緒に遊ぶ場をつくることは、従来の性別によって当てはめられた仲良しグループや男の子らしい/女の子らしい遊びから子どもを自由にします。

男女混合の誕生日会を開く、課外活動に参加させるなど、異性の子どもたちとの遊びの機会を増やす工夫をしましょう。


固定観念の打破に挑戦する

子どもは大人たちの発する性別役割分担に敏感な反面、常識にとらわれないことに挑戦したがります。

好奇心と開放感を保つために、既存の性別の固定観念について率直に話しましょう。性別で役割が固定されていることに疑問を持ち続け、挑戦するよう促しましょう。


子どもの創造性をほめ、作ったものを批判しない

子どもが常識にとらわれない活動に興味を示したら、その創造性や創意工夫をほめましょう。

「キリンはふつう黄色だよ」「男の子はふつうこんな絵を描かないよ」などとアドバイスすれば、子どもは自由な発想を捨ててしまいます。

子どもを平凡で刺激のない従来の「常識的」な枠組みに押し込めることのないように気を付けてください。

 
※写真はイメージ(iStock.com/sanjeri)

メディアを慎重に選ぶ

子どもが目にする本、テレビ番組、映画を慎重に判断しましょう。それらは自分自身や他人、そして世界に対する認識に影響を与えます。

コンテンツはかつてないほど多様化し、アクセスしやすくなっています。偏見にとらわれないおすすめのコンテンツを見つけていきましょう。

そしてあと2つの項目は、保護者自身に心がけてほしいことです。


家庭のヒーローである自覚を持つ

あなたは子どもにとってのヒーローであり、未来の世代の教師役を担っています。

あなたがさまざまな活動に挑戦する姿を子どもが目の当たりにしていれば、家庭で性別にとらわれない活動をするモチベーションになります。


あえてアウェイな場所に出向く

親も子どもと同じように性別の役割を意識していることを忘れてはならず、意識的に努力をするようにしましょう。

自分の居心地の良い「コンフォートゾーン」(快適な空間)から一歩踏み出して新しいことに挑戦しましょう。慣れない場所に行くことにはストレスも伴いますが、新しい世界への挑戦はいつだってエキサイティングです。

保護者がいつまでもチャレンジャーで居続けることは、親子を単なる上下関係に押し込めず、対等な個人同士として絆を深めることにもつながるでしょう。

<執筆:KIDSNA STYLE編集部>

2022.05.26

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