【防犯/後編】子どもが「知らない人」ともコミュニケーションを取るべき理由

【防犯/後編】子どもが「知らない人」ともコミュニケーションを取るべき理由

世界的に安全な国として位置づけられている日本の防犯対策とは?小学生をはじめとする子どもの誘拐や連れ去り、性犯罪被害のニュースは後を絶たない。この連載では、親として認識すべき安全対策、子どもへの安全教育について紹介する。第4回は、日本こどもの安全教育総合研究所理事長の宮田美恵子氏に話を聞いた。

<連載企画>子どもの防犯新常識
2018年、それまで教科外であった道徳が「特別の教科」として加わった。

道徳では「困っている人がいたら親切にしましょう」と教えるが、「その親切心があるばかりに犯罪に巻き込まれるのではないか……」と心配する保護者もいるかもしれない。

このジレンマを「防犯モラルジレンマ」と名付けた、日本こどもの安全教育総合研究所理事長の宮田美恵子さん(以下、宮田さん)。

前編では、行為で危険かどうかを判断するという話を聞いてきた。後編では、防犯モラルジレンマが生じたときの具体的な対処法を聞いていく。

他人に「助け」を求められたとき、どうする?

人によりますが、日本人はNOと言えないタイプが多いですよね。道徳性の発達段階に照らしても子どもは、よりその傾向があります。

とりわけ小学生の低学年から中学年は、他者から「良い子」と評価されたい段階にあります。
宮田美恵子(みやた・みえこ)/日本こどもの安全教育総合研究所理事長(特定非営利活動法人)。日本女子大学総合研究所市民安全学研究センター研究員、日本女子大学人間社会学部客員准教授を経て日本こどもの安全教育総合研究所を設立。現在は、放送大学非常勤講師ほか、当研究所理事長として、大学で学生への講義のほか、児童・生徒のための安全体験学習プログラムの推進、成人を対象とした市民安全のための生涯学習活動支援にも注力。
宮田美恵子(みやた・みえこ)/日本こどもの安全教育総合研究所理事長(特定非営利活動法人)。日本女子大学総合研究所市民安全学研究センター研究員、日本女子大学人間社会学部客員准教授を経て日本こどもの安全教育総合研究所を設立。現在は、放送大学非常勤講師ほか、当研究所理事長として、大学で学生への講義のほか、児童・生徒のための安全体験学習プログラムの推進、成人を対象とした市民安全のための生涯学習活動支援にも注力。
断りにくい日本人の特性に、良い子に思われたいという気持ちが重なって、つい断れずに応じてしまう。

自分が困っている時に「車に乗せてあげようか?」という言葉を断ることができても、「道に迷ったからいっしょに来て」「お財布を落としたからいっしょに探してくれない?」「猫がいなくなっちゃったからいっしょに探して」という言葉は捨て置けないのです。

――助けを求められているのに断るのは、大人でも難しい局面かもしれません。子どもにとってはなおさらですよね。

相手といっしょに行かない、その場から移動しないということが重要です。

保護者から事前に言われているわけでもないのに、帰路に就いている最中で、急に車に乗って移動するなど、予期しない変更はほとんど起こらないはずです。
iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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もしもそのようなことがあった時のポイントは、「一度帰宅して保護者に確認する」という約束ひとつに留めること。相手にどんなに強く言われたとしても、我が家の約束を守り相手の依頼には応じさせない。

幼い子どもほど守ることがひとつであれば、守りやすくなるのです。反対に同じ誘いでも「この場合はこう」「あの場合はこっち」といろいろな約束事があると咄嗟に判断できなくなってしまいます。

どうすればよいのかわからなければ自分で判断せざるを得ないから、悪い大人のうまい言葉に言いくるめられて、連れ去られてしまう怖れがある。
 
 
だからこそ親子でしっかりと約束をしておくことが大事。一度でも約束を交わしておくと、誘いを断る子どもの背中を押してくれるはずです。

子どもにとってお父さん、お母さんなどおうちの方との約束は一番です。折に触れて確認し合うことで、緊急時にパッと浮かぶ天の声になると思いますよ。

――保護者との約束が、断る勇気を与えるのですね。約束の内容として「知らない人」なら無視する、逃げるといった対応がいけないのはなぜですか?
家庭でも「一切他人と関わってはいけない」とは教えられないですよね。これから成長とともに善意や悪意の見極めができるよう、少しずつコミュニケーションスキルを高めていく必要もあります。おうちの人と一緒に子どもが様々な人とふれあう経験することも大切です。

知らない人はすべて排除、という一方通行な教え方をすると、日常生活に支障が出てしまう。防犯意識とコミュニケーションの両方を学んでいかなければいけません。

その人が本当に困っていて自分の助けを必要としているのか見極める時に、助けの手を差し伸べるべきかジレンマが生じる。

「ここから動かない、移動しない」を原則として、「ここ」でできる親切をしてあげたら十分なんですよ。道を聞かれたらいっしょについて行かず、その場で親切に道を教えてあげればいいんです。
iStock.com/andresr
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善意か悪意かわからないのだから、たとえ知らない人であっても無視をしたり、走って逃げる必要はありません。「おうちの人と約束しているからいっしょに行くことはできません」と丁寧にはっきり伝えればいいのです。

人によって冷たく接していいということはなく、どのような人であれその行為には乗らない。「NO」と言うことはひとつのコミュニケーションであり、悪いことではありません。

自分の安全を守るために「NO」と言えるスキルは、あいさつや返事ができるスキルと同じように大事なものです。

誘拐にあいやすいのは、「ひとりでいる」「イヤなことをイヤと言えない」子であるケースがみられます。日頃から小さなことでも子どもの意思を尋ね、意思表示がスムーズにできるように導いてあげましょう。
iStock.com/JGalione
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突然声をかけられたら、大人でも咄嗟に何と返してよいかわからなくなることがありますよね。家庭でその時に返す言葉を決めておき、いざという時にサッとその言葉が出てくるよう練習してほしいと思います。

「防犯グッズを持たせているから大丈夫」ではない

その時こそ、防犯ブザーが役立つわけですね。

先の事件を受け、全国の小学校の84.5%に防犯ブザーが配布されています。小学校1年生の97%が持っているというデータもあります。

しかし2年生になると半数近くが壊れたり、所持していないというデータもあり、防犯ブザーを配らなくなった地域もあるようです。

防犯ブザーはたとえダミーであっても、付けていることがひとつの抑止力になります。悪意を持っている人にとっては「鳴らされたくない」という心理が働くからです。
iStock.com/anurakpong
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ただし、防犯ブザーを首から下げていると、遊具にひっかかって事故につながることやつかまれて引っ張られる危険があります。ランドセルの肩ベルトについているフックに付けましょう。

ランドセルの脇に付けるのは避けましょう。ランドセルの脇だと手を伸ばしづらく、いざという時に助けを求められない可能性があります。

ランドセルを置いてでかける時も身に付けられるように、複数準備しておくとよいかもしれませんね。
 
 
子どもが外に出かける直前に防犯ブザーを鳴らすようにすれば、子ども自身の気持ちを引き締め、電池切れや故障の確認にもなります。

それによって、これから鳴らす状況に遭遇する可能性があるという意識を改めて持たせることができます。

子どもってひとりで歩くとき心細いのです。身を守る術がひとつでもあると安心できるはず。子どものために家庭で準備してほしいアイテムです。

――小学生になると携帯電話を持つ子どももいますが、保護者としてはGPS機能が付いていると安心できます。

子どもにGPS付携帯電話を持たせていれば、子どもが今どこにいるかわかるので、保護者の方はひとまず安心できるかもしれません。
iStock.com/kokoroyuki
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けれど勘違いしがちなのは「安全」と「安心」は別ものということです。子どもの目の前に刃物を持った人が現れたら、子どもの居場所がわかっていても何かしてあげられるわけではありません。

子どもに危害を及ぼそうとする人も、そのことはよくわかっているでしょうから、取り上げて捨てられることや、偽装工作に使われることだってあり得ます。

防犯グッズや防犯アイテムは、あくまでも「モノ」。「GPSや防犯ブザーがあるから大丈夫」と考えるのではなく、モノは人間の行動を補ってくれる便利なモノ、役立つ道具という意識を持ちましょう。

おうちでGPSを見ながら子どもの帰りをドキドキして心配しているくらいなら、駅で合流したり、せめてひとり区間に入る手前まで迎えに行ってあげてほしいですね。
iStock.com/aluxum
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――日常生活の中に取り入れられる防犯対策として、防犯グッズの備え以外にできることはありますか?

いざというとき人に助けを求めるスキルはつきにくいもの。

前編でお話しした「自分のふうせん」(パーソナルスペース)の感覚を子どもが掴んだところで、少しずつ家族、友だち、それ以外の人と広がり、それぞれの関係性にふさわしい距離感を身に付けていきます。

また、何かあった時に、見ず知らずの通りすがりの人にでも助けを求められるコミュニケーション能力が必要です。

犯罪被害防止のためにもにも、子どもたちには善良な一般の人との関わりも視野に入れたコミュニケーションを学んでほしい。

いざというときの備えとして、日頃から意識的に顔見知りでない大人と話す経験を重ねる機会をたくさん作ってあげましょう。

たとえば子どもといっしょに買い物に行ったときに、子どもに会計を任せてみる。レジの前に立って「これください」というところから始めてみるといいかもしれません。
iStock.com/TAGSTOCK1
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子どもは保護者や先生など、身近な大人以外に話をする機会があまりない。だから異年齢の方々との交流の機会もあればいいですね。街中で困りごとがあったときに気にしてもらえますし、大人と接する機会が多いほど助けを求めるハードルが下がるはずです。

親子でできることとしては、日頃から約束事を確認しあうこと。約束を守れることは、子どもの防犯教育でも大変重要です。

そして、子どもにとってここは安全地帯だという場所を作ってあげること。小学校入学前ならば、子どもといっしょに通学路を歩いてみてください。

それまで必ず誰かといっしょだったのに、入学と同時に「ひとり歩き」デビューです。子どもは経験のないことは不安に感じますが、信頼するおうちの人といっしょなら、安心して通学路の情報を受け入れることができ、それが子どもの自信にもなります。
iStock.com/Sasiistock
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大人の目では見えていても、子どもの目線では視界を遮る場合もあるため、同じ目の高さにしゃがんでチェックしてください。

人通りが少なさそうな道では「ここで何かあったらどうしようか?」とクイズを出しながら歩くといいですね。「家から離れているから、このお店に頼むことにしようね」と、事前に挨拶を交わしておくと、子どもも初めての場所ではないから頼りやすくなるでしょう。

それから、外遊びをしてもらいたいですね。最近はひとりでゲームの中の仮想空間に夢中になっている子どもが増えているようですが、ぜひ、友だちと鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びをするようにしてみてください。

昔からあるシンプルな遊びですが「走る」「叫ぶ」という動作が含まれており、いざというときに走って逃げたり、大声で助けを求める基礎訓練になる遊びなのです。
iStock.com/FatCamera
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「もういいかい」「まだだよ」と声を発したときに、自分の声がどれくらいの距離まで届いているかということが感覚として身に付きます。

つまり防犯グッズを身に付ける以外の備えをひとりで準備することって難しいんですね。人と関わり、つながりを作るというコミュニケーションこそが子どもたちの防犯対策になるのです。

地域の「目」は現代であっても欠かせないもの

――地域や人とのつながりこそが子どもを守る、と。

犯罪は、個人や社会の隙を突いて起こります。犯罪を企む者にとって大事なのは、ターゲットにうまく近づくことです。まわりに友だちや大人がいるときは近づいてもうまくいきません。

だからこそ、「ひとりになるところ」(ひとり区間)に人の目が必要なのです。子どもを守る「目」には二種類が必要です。
iStock.com/Hakase_
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ひとつは学校から子どもたちの自宅付近までを含めた地域、つまり小学校区の”サイクルウォッチ”。「こういう人たちがパトロールしているから近づきにくい」と思わせることが狙いです。

もうひとつは集団登下校で別れた後「ひとりになるところ」の空白をふさぐ”ラインウォッチ”です。家やお店の敷地内、または外にベンチを置いて、子どもたちの帰宅時間にそこに座って見守ってもらう。私はこれを”見守りベンチ”と名付けました。
 
 
このように、地域の方々の協力をあおぎ、人の目がない状況をつくらないことが重要です。

犯罪が起こる3つの条件のうち「監視者がいない」状況を作らないことです。

子どもが直感で怖いと感じる「行為」を向けられたら、「お母さんがそろそろ来るんですけど」など保護者の「目」をちらつかせることも有効です。

あとは、もしもの時に子どもが駆け込める場であることを示す「子ども110番」のステッカーを見たことはありませんか。これは「うちは店舗だからOK」「うちは外観的に貼りたくない」など大人の都合で貼られていることがほとんど。
 
 
そうではなく、本来は「どうしてもひとりでここを通らざるを得ない子どものために、この場所に110番の家がほしい」のです。

子どもを持つ保護者が中心になってボトムアップで意識的に「目」を作っていきましょう。

共働き世帯が多く難しい、という声が聞こえてきそうですが、見守りをしてくださっているのはご高齢の方がほとんどです。
iStock.com/PhilAugustavo
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大阪教育大学附属池田小学校に刃物を持った犯人が侵入し、無差別殺傷事件を起こしたのが2001年。その後2005年前後に奈良、広島、栃木で相次いで誘拐事件が起こりました。

ますます地域ぐるみで子どもを守っていかなければならない、と立ち上がったのが定年を迎えた当時60歳以上の方々です。あれから20年近く経ち、60歳だった方も80歳に。リーダーの方には90歳を越える方もいます。

自分の子どもや孫でもないのに、本当に熱心に見守ってくださっています。ただ、高齢化の問題は切実です。
 
 
そこに次の世代が入ってくればいいのだけれど、定年年齢は引き上げられ、保護者は共働きでどうしても見守りに穴が空いてしまいます。

それでも子どもが登下校中、危険に晒される状況は変わりません。だからこそ保護者の方々にも参加してほしいと思います。または保護者自身が難しくても「手を貸してほしい」と声をあげることで、社会そのものの意識が変わっていくといいと思います。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

※本記事の内容の無断による転載、転記等はご遠慮ください。
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2021年02月17日

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