【図解/前編】脳科学者に聞く「外育で子どもの能力が伸びる理由」
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家庭学習の時間が増えている今、アウトドアでの自然体験を通して子どもが遊びながら学べる「外育」が注目されている。なんとなく外へ連れ出し、遊んでいる姿を見守るだけではなく、その効果を知り、よりよい学びにするためにはどうしたらいいのか?さまざまな専門家にその極意を聞いていく。第一回は、東北大学教授の瀧靖之先生に脳科学の視点から話を聞いた。
自然体験で知的好奇心が伸びる脳のメカニズムとは?
子どもの年齢ごとの脳の発達段階に合わせた適切なタイミングもふまえ聞いていく。
まず、自然体験に子どもを連れていく前に、子どもの脳がどんなメカニズムで発達しているのかをお教えします。
そもそも脳の発達は全体で同時に起こるものでなく、部分的に起こっていきます。脳のある領域は早い段階で発達、別の領域は遅れて発達するといったように領域によって異なっていることが明らかになっています。
このことを理解すると、発達の段階に合わせてどのタイミングでどんなことをしてあげると脳の発達により効果が出やすいのかが科学的に分かってきます。
脳に良い刺激を与え、働きを活性化させるには?
その原理は、人が産まれたときからつくられ始める「脳のネットワーク」が関係しています。
また、子どもの脳を刺激するには好奇心だけでなく「五感」も重要です。
自然はその点、両方を兼ね備えており、鳥のさえずり、川のせせらぎ、甘い花の香、集めた木の葉の緑色の違い、拾い上げた石の手触りの違い、風が樹木を揺する音、日の光の温かさ……あらゆるものが豊かに五感を刺激してくれますね。
アウトドアは、知的好奇心を伸ばすための「刺激」を得る良い環境であるとお話ししました。
では、知的好奇心がどう私たちに良いのかというと、子どもの学力が上がるといわれているんですね。
子どもが将来、人生を豊かにするために、学力が高いと進路選択の自由度が高まるので、結果的に自己実現しやすくなるということが脳科学だけでなく心理学や教育学の面でも明らかになっています。
知的好奇心が高いと学力が上がるというのはなぜかというと、「好きなことや気になることこそ覚えられるから」です。これには、脳の感情を司る領域と記憶を司る領域が関係しています。
つまり、暗記しなければいけないと嫌々やる勉強ほど覚えにくく、「好きだ」「知りたい」という感情こそが、記憶を定着しやすくしてくれるんですね。
更に、知的好奇心が高いと、様々なことに興味関心を持ち、それが脳をより多く刺激することで、神経細胞のネットワークの効率化を促進する可能性が考えられています。これが、知的好奇心が高いことで学力が高まる理由の一つと考えられています。
先ほどの「好きなこと、気になることほど覚える」という脳の仕組みを利用すると、アウトドアでぜひ親子でやってほしいのが、「バーチャルとリアルを結び付ける体験」です。
バーチャルというのは、図鑑などで得られる「知識」です。
母国語の獲得のピークがくる1歳くらいから、読み聞かせが有効になってきます。図鑑やガイドブックなどをいっしょに読んで魚や虫、植物などの写真やイラストで、知識を子どもに与えてください。
心理学で単純接触効果というものがありますが、同じものを何度も何度も見せるとそれが好きになるという原理ですね。
そうしたら今度は、自然の中に連れて行って、リアルな体験をしてもらいます。図鑑で見た「モンキチョウ」の実物が、目の前にある!という体験で、「それ知ってる」「僕にはわかる」という高揚感や満足感を得ることで、子どもの知的好奇心のレベルが一気に上がるといえるでしょう。
そのときのワクワク感や嬉しい、楽しい気持ち、そんな感情がモチベーションとなって、さらなる興味や疑問を持ち、家に帰ればまた図鑑に戻ってさらにレベルの高い知識を入れていく。
バーチャルとリアルをつなぐことで、子どもは世界の広がりや奥深さを知り、無限の学びへと進んでいきます。
この体験を繰り返すことで、知的好奇心はどんどん育まれ、学力も上がっていくということです。すばらしいことに、自然の中には子どもの好奇心をくすぐり、それを伸ばす素材が山ほどあります。
「どうしてだろう、なんだろう、もっと知りたい」という知的好奇心が探求心を生み、どっぷりとその世界やものごとにハマる体験につながる。これは子どもの学力だけではなく、自己肯定感などのメンタル面にも効果があるということが分かっています。
後編では、このメンタル面の効果と、アウトドアでの自然体験を「親子で」行う方がいい理由についてお話しします。
※後編は12月3日(水)に配信予定です。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部