【図解/後編】脳科学者が教える「親子で外育をすると起こる効果」
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家庭学習の時間が増えている今、アウトドアでの自然体験を通して子どもが遊びながら学べる「外育」が注目されている。なんとなく外へ連れ出し、遊んでいる姿を見守るだけではなく、その効果を知り、よりよい学びにするためにはどうしたらいいのか?さまざまな専門家にその極意を聞いていく。第一回は、東北大学教授の瀧靖之先生に脳科学の視点から話を聞いた。
前編では0歳からの子どもの脳の発達がどのように進んでいくか、そして自然体験で知的好奇心を育む方法と、それによって学力が上がるという外育の効果が分かった。
後編では、自然体験によって、学力だけではなく自己肯定感も上がるメカニズムや、親子で外育をするメリットなどを聞いていく。
国立青少年教育振興機構のアンケート調査で、チョウや昆虫を捕まえる、海や川遊び、魚釣り、バードウォッチング、キャンプ、バーベキュー、山登り、ハイキングといった自然体験が多い子どもほど、自己肯定感が高いということが分かりました。
キャンプで初めて火おこしをしたり、登山で大変な思いをして山頂にたどり着いたときには、なんともいえない達成感に満たされます。「自分はできたんだ、やった!」という充実感に加えて、お父さんやお母さんが褒めてくれることが子どもの自己肯定感を高める。
自然はコントロールされた環境ではないため、こういった褒める場面が多くあるところが良いところです。脳科学的にも、褒める頻度が高いほど、精神疾患にも関わる領域である脳の後部島皮質という部位の灰白質体積が増えるというデータもあります。
また、自然の中では問題解決能力も育ちます。
小学生くらいから発達が大きく加速していくのが、ものごとの判断や思考を担い、実行機能を果たしている前頭葉(前頭前野)。自然の中では、突然雨が降ったりなど状況が刻一刻と変化するため、問題を回避したりしながら解決する能力が求められ、そういった体験によって脳の前頭葉が活性化され、実行機能が向上していくといわれています。
私が外育、自然体験を「親子で」いっしょにやることをおすすめするのは、先ほど話した褒めることで自己肯定感を上げることができることもひとつですが、もうひとつ理由があります。
子どもが「どうしてだろう、なんだろう、もっと知りたい」という知的好奇心を伸ばすためには、やはり無理やり連れだされたり、やりなさいといわれて嫌々やるのでは効果がないのですよね。
そこで、脳科学的の観点からできる工夫として、親自身が楽しんでいる姿を子どもに見せるのがおすすめです。
子どもが何かを学んだり、技術を習得するのは「模倣」、つまり真似をすることによって行われます。
それだけでなく、知的好奇心を高めると、子どもの学力や自己肯定感が上がるだけでなく大人にもよい効果があるといわれています。ものごとを考えたり判断する高次認知機能全般を高めることができ、大人の認知症予防にもなることが分かっているのです。
また、前編で子どもの脳の発達には年齢ごとに段階があり、知的好奇心は自他の区別ができるようになる2歳ごろから高まってくると話しましたが、2歳を過ぎたからといって遅いということではありません。
大人でも脳の能力が上がるということは、子どもでも何歳からやっても遅くないのです。
脳の可塑性のおかげで、3歳からやればすごく伸びるといわれている領域も、8歳からやっても30歳からやっても伸びるんです。
この可塑性は年齢を経るに少しずつ減少していきますが、いつになっても可塑性はあります。そのため、何かを習得するときは、努力の時間は少しずつ必要になっていきますが、何歳から始めても決して遅いと言う事はありません。
そうした理由から、早期から取り組むやり方も選択肢としてはあるかもしれません。しかしあまりにも小さく、脳の準備ができていない状態ではじめるとどうかというと、決して悪いことではないのですが脳の成長速度と、かけた時間やお金を天びんにかけたとき、費用対効果が悪くなるかもしれませんね。
しかし、自然体験では子どもが「熱中」しやすい環境が整っています。
脳には「汎化」という特徴もあるので、苦手なことを克服するよりも、何かに熱中することで好きなことや得意なことを伸ばすことで、脳を育てることもできるのです。
自然体験は、どこに行けばいい、どのくらい通えばいい、ということでは決してありません。
自然の中には子どもの好奇心を育む不思議や感動が無限にあるので、親は子どもとただ一緒に行けばいいのです。知的好奇心を持ち続けることは、単なる学校の成績や受験のためだけの勉強ではなく、一生涯かけて学ぶ姿勢につながっていくのだと思います。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部