【小川大介/後編】 VUCA時代の学校選び「よい学校に入れたら安心」?

【小川大介/後編】 VUCA時代の学校選び「よい学校に入れたら安心」?

2020.10.30

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世界中がVUCA(ブーカ=不安定性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代に突入した現代、子どもの学校選びを考え直すべきなのでしょうか。本連載では、教育家で中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員である小川大介さんに、これからの教育や学校、受験の考え方について聞きます。

世界中がVUCA(ブーカ=不安定性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代に突入した現代。教育改革やコロナ禍でのオンライン教育、センター試験の廃止や9月入学、公立の小中一貫校の増加など、これからどうなるの?と思うような変化が目まぐるしく起こっている。

前編では、最新の中学受験の傾向や名門校と新興校の比較、そしてこの時代に「偏差値以外の価値とは何か」について聞いてきた。後編では、特に「コロナ禍で保護者の子どもに対する考え方が変わったのではないか」と話す小川さんに、子どもたちに必要な教育のあり方やスキルについて聞いていく。

【小川大介/前編】VUCA時代の学校選び「偏差値以外の価値」とは?

【小川大介】VUCA時代の学校選び「偏差値以外の価値」とは?

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小川大介(おがわ・だいすけ)/教育家。中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。京大法を卒業後、社会人プロ講師によるコーチング主体の中学受験専門個別指導塾を創設。子どもそれぞれの持ち味や強みを生かし、短期間で成績向上を実現する独自ノウハウを確立。塾運営を後進に譲った後、教育家として講演、人材育成、文筆業と多方面で活動。自らも「見守る子育て」を実践し、一人息子は趣味に熱中しながらも中学受験で灘、開成、筑駒すべてに合格。「見守る子育て研究所」を立ち上げfacebookやYouTubeで発信中。

コロナでやっと「目の前の子ども」を見つめた

――コロナによって親は教育をどう捉えなおしたのでしょうか。

教育家として日々さまざまな親子と接していますが、新型コロナウイルスが流行する前後で特に大きく変わったことといえば、親たちが自分の子どもを「再発見」したことだと思います。

これまで子どもを預けて忙しく働きに出ていた親たちがリモートワークをするようになり、緊急事態宣言下で休校となった子どもたちと長い時間を過ごすことが増え、必然的に目の前の子どもと向き合わざるを得ない状況になった。

戸惑いながらも、「この子の育ち方ってこんな感じかな」と立ち止まって考える時間と余裕ができたのです。

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特に、これまでインターネットやSNS、書籍、周囲の人々の声など、外の情報を追いかけて教育方針を決めていた家庭は、「この子にとってこの環境は合わないかもしれない」「この子はこういうところでがんばれるんだ」と、目の前の子ども基準で教育を考え始めたように感じます。

子どもたち自身も、学校や塾が休みになったことで、改めて「自分なりの勉強や楽しみ方って何?」と考えたようです。

教育現場が混乱し、地域によって学習環境もさまざまだった中で、もちろん全体の平均としては学力は下がったというデータも出ていますし、自信を失ったり大変な思いをした親や子どもも多いと思います。

しかしそれと同時に、同調圧力から解放され、「自分」という存在を強く意識できたという点もあった。

コロナ禍でかえって自立が進み、自分を発揮できる子どもたちも現れている。これは大きな変化です。

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iStock.com/kohei_hara

この機会に考えたいのは、コロナはただ逆風ではなく変革の追い風でもあるということ。今後さまざまなことが変化していく中で、まず親自身が意識を変え、成長しなければなりません。

親が、自分たちが育ってきたこれまでの価値観、「いい大学に入ったらとりあえず安心」という考えから抜け出し、これからの時代を見据えた考え方へと一歩踏み出さねばならないと私は思っています。

学校選びで子どもの将来は変わらない

――一流の一貫校や、偏差値の高い大学への進学を目指して受験勉強をがんばる、という像はこれからなくなっていくのでしょうか?

近年、特に首都圏では小学校受験や中学校受験を選択するご家庭も増えています。

そんな中でまず、学校選びの前に根本から見直すべきなのが、「学校選びによって、子どもの将来が変わるのではないか」という考えは淡い期待に過ぎないということ。

この発想は、すでに時代遅れです。

そもそも子どもたちの教育は学校だけでは成り立ちません。本来は、学校教育のほかに、家庭教育、地域教育といった三位一体のなかで子どもは育ちます。

このことを親が理解しておらず、すべてを「学校まかせ」にしている方が多すぎるように思います。

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たしかに近年、家庭教育を強く意識している家庭は増えているように感じますが、共働き家庭が増えたこともあり、まだまだ時間的にも、意識的にも、圧倒的多数の家庭では難しいという印象です。

果たして「家庭教育」にちゃんと向き合っている家庭は、どれくらいあるのでしょうか。

一見、教育熱心に見えても、「よい学校に入れておけば子どもの将来は安心だ」と学校だけに教育の場を求めて、家庭教育の大切さを真剣に考えていない家庭が増えていることは残念に感じています。

また、忘れられがちなのが「地域教育」です。

自治体や子ども会など地域のつながりもそうですが、学校と家庭以外の子どもの居場所という位置付けですので、地域教育には習い事なども入ります。

最近では、オンラインの習い事やYouTubeなどのコンテンツもこのカテゴリに該当します。

子どもにとって習い事やオンラインコンテンツは、学校・家庭以外の大切な居場所のひとつです。この価値に目を向けられているかそうでないかで、学校の選び方も変わってきます。

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子どもは、学校教育、家庭教育、地域教育、この3つの組み合わせの中で育っていきます。

この3つすべてがバランスよくきれいな形を描いていなくてもかまいません。もし学校の比重が小さいなら、ほかの2つを大きく膨らませたらいいのです。それぞれの子どもやご家庭で異なるのが自然です。

「学校に預ければ子どもを伸ばしてくれるから安心」ではなく、「うちの家庭教育はこうで、地域教育がこうだから、学校教育にはこれを期待したい」と、3つの教育を総合的に考えて学校を選ぶべきなのです。

コロナ禍でのオンライン教育や教育改革をはじめ、今後もさまざまな変化が起こると思います。

この変化をポジティブに捉え、伸ばしていこうとする親であれば、未曾有のできごとが何度訪れようと、既存の価値観にとらわれず、「目の前の子どもを見つめる」ことで、先行き不透明な時代を柔軟に生きていけるのではないかと思います。

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子どもは成長するのに親は成長しない

「子どもは成長するけど親は成長しない」

これが、私がこの仕事をしてきて数千組の親子を面談していて行き着いた結果です。

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あれがいいと聞けばやらせて、これがいいと聞けばやらせて、とやっていれば、行き詰って当然なのです。

幼児のうちから、目の前のこの子にとってのいい環境とはどのようなところだろうかと考えながら子どもを観察している家庭からは、「やっぱり水泳はやらせた方がいいの?」なんて質問は出ないんです。

「うちの子はこういう子だから、水泳よりサッカーかな」と思えること。幼児期から家庭教育を始めることの何がいいかというと、子どものためというよりは親が親として成長するための意識づけという側面があるから。

子どもは成長します、しかも早く。親が成長しないのは、「親なんだからなんでも自分たちで決めて自分たちでやらなきゃいけない」という間違った全能感が原因です。

自分たちがどういう経験を積んで努力すれば、この子の親をやっていけるだろうかと親が自分自身を育てる感覚でいれば、たとえば、英語をやらせたいけど夫婦は英語ができないのなら、外部の力を借りようと思える。

子どもの個性に合わせて、自分たちが何をできるかと考えて取り組めるんです。

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――これは時代が変わってきたことで小川さん自身が気づかれたことなのでしょうか。

私自身、大学生だった約25年前は進学塾の講師の仕事をしていて、生徒を合格させることで精一杯。

それでも結果が出て親御さんや生徒から喜んでもらえ、評価してもらえました。当時はそうやって、より偏差値の高い学校に受かることを目指して競争し、誰かに勝つことが自信につながる時代。

その後、中学受験の個別指導塾を開き、6000組以上の親子と面談してきて、「子ども一人ひとりに向き合う」ということの奥深さを痛感したんです。

集団指導でクラス40人だったらその中の何%が合格するかという見方をするけれども、個別指導は一人ひとりの結果が100%。比べる対象がない。

この子が、この子の親が、どうやって結果を出すかと考えたら、週1回の授業を担当するという意識ではなく、この子がこれまでどのように育ってきていて、いまどんな1週間を過ごしていて、科目ごとの学習時間のバランスはどうなっていて、親御さんが手伝える範囲としては何があるか、といったことを個別に考えていかなくてはならないわけです。

一般論として「一人ひとり違う」と口にするのではなく、一人ひとりをリアルに捉えていく。

その後、自分自身も子どもを授かり、幼児期からおそらく人の何倍も息子を、奥さんを、そして父である自分自身を観察して深く考えるようになった。「その子なりの何か」を見つけることに集中しました。

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私はいま「見守る子育て」を提唱していますが、これこそが先行き見えないVUCA時代の子育てなのではないかと考えています。

VUCA時代の子どもに必要な「Being」

――学校選びがすべてではなくなる時代、子どもたちが身につけるべきスキルは何でしょうか。

教育改革で、多様性であったり個の力を重視する動きが見えてきていますが、今までとちがうのは、VUCA時代はこれらの大元となる自分の存在への自信(Being)が必要だということ。自分を知るということです。

ここで言う「自信」は、競争に勝つことや他人と比べての優越感ではありません。

ずっと負けていてもなぜか自信家の子がまわりにいませんか?勝ち負けという発想は他人の勝手とばかりに、自分自身を楽しめている子です。

「その手できたか。じゃあ自分はこの手でいく」と、目先の結果には動じずさっさと次の作戦を考えたり、負けたという「点」の視点ではなく、「いい線いった!」と面の広がりを持って捉えられたりする子。

自分の存在への自信がある子は、「ぼく/わたしはこういう人です」と説明することができます。

そこに、いい・悪い、強い・弱いなどの優劣はありません。これはまさに、禅やマインドフルネスの思想でいう「いま、ここに存在している」というBeingそのものですね。

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残念ながら私たち親世代は、「自信」というのは人より得意なことがあって、他人より優れていることだという比較優位の価値観で育ってきています。日本の教育ではBeingを尊重するという意味での「本当の自身」を育むことは後回しにされてきたのです。

ですから大半の人は、「自信」とは、人と競争して勝って得るものだと刷り込まれています。

でも、こんな「自信」はすごく脆い。比べるためには他人が必要で、誰かに負けてもらわなければならないからです。

自分の存在への自信を持っていると、自分が「好き」という基準だけでいい。この感覚は、VUCA時代を生き抜いていくためにとても重要だと思います。若い世代ですでに活躍している人の発信する内容を見ていると、この自分の存在への自信(Being)を持っていることがよく分かります。

既存の価値観がどんどん変化していく中では、学びのスタイルにしても、進路にしても万人受けする「正解」がなくなっていく。これまで、「〇〇大学だから」「大企業に勤めているから」「元〇〇社員だから」といった自分の“所属”によって得ていた自信が通用しなくなるということです。

そのとき子どもたちは、これまでより「自由」になり、「選択肢」が増えていくことになります。

そこで新たに大切になるのが、自由であることの責任が発生するということ。

自由だからこそ、小さいことから大きいことまで、ひとつひとつ自分で責任を持って選んでいかなければならなくなるのです。

肩書きが大事だったのはもう昔の話。これからはその子自身に、「自分はこういう人間なんだ」と言わせてあげる教育が必要不可欠なんです。

――子どもたちに求められる「Being」。家庭でどのように身につけるとよいでしょうか。

まず、子どもが好きなことは時間で区切らずに思いきりさせてあげてください。毎日じゃなくてもかまいません。

週に1回「思いきりデー」みたいなのを設けて、その日はひたすら砂場で遊ぶ、お絵かきをするなどその子の好きなことをさせてあげるのです。子どもが満足して、自分から「もういい」と言うまで、です。

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そうすることで、自分の好きなことを母親や父親に認められ、好きなだけやらせてもらえたという実感から、自己肯定感を養えるはずです。子どもは「ぼく/わたしは◯◯が好き」と堂々と言うことができるでしょう。

また、幼児期に家庭で毎日継続して行うことを持たせてあげることも大切です。手洗いうがい、靴揃えなどでもいいですし、5分だけ本を読むなどなんでもかまいません。「続けていること」があると自信のベースになります。

「ぼく/わたしはこんな人で、◯◯が好きで、毎日◯◯をしている」のように、「ぼく/わたし」の主語のあとにできるだけたくさん「こんな人」「◯◯が好き」「◯◯をしている」という話題を増やしてあげられるようにすることが自信につながります。

学校選びも、子どもの自分の存在への自信(Being)を育めるかどうかが大切な基準になります。

特に大切なのが「自信のフィードバック」。学校が子どもとの関わりの中で自信についてどうフィードバックしているのかは、しっかり確認しておく必要があります。

たとえばかけっこで、がんばったけど勝てなかったときに、「勝てなかったことは仕方ない。でも最後まで走りきった君はすごいよ」と伝えられるかどうかです。

人と比べて勝った/負けたではなく、「最後まで投げ出さないのが、君のすごいところだよ」と言われて育った子は、きっとその先もなにかを途中で投げ出すことはないでしょう。

このように、「教える」ではなく「育む」教育ができているか。これは、VUCA時代の学校選びに大切な基準のひとつです。

これに関しては、学校というより担任の先生次第かもしれません。担任がクラスをどういう雰囲気にするのか、ひいてはその担任自身が学校にどうサポートしてもらっているか。担任の先生の人柄や考え方は申し分ないのに、環境がその魅力を殺してしまっていることもあります。

「自信のフィードバック」ができる学校かどうかを親御さんは冷静に見る必要があります。

もし学校では自身が育まれないなと感じたら、家庭や地域での教育に取り入れてあげましょう。学校にすべてを期待するのではなく「学校ではこれ、家庭ではこれ、地域ではこれ」と先ほど話した3つの柱でバランスを考えることも忘れてはいけませんね。

【小川大介/前編】VUCA時代の学校選び「偏差値以外の価値」とは?

【小川大介】VUCA時代の学校選び「偏差値以外の価値」とは?

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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