【ニュージーランドの子育て】国全体で“家族最優先社会”をつくる

【ニュージーランドの子育て】国全体で“家族最優先社会”をつくる

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、ご自身の子育てのためにニュージーランドへ移住し、現地プログラムやワークショップなどを行う及川孝信さんに話を聞きました。

<連載企画>世界の教育と子育て

国全体でファミリーファースト社会を実現

1893年に世界で初めて女性の参政権(投票権)を認めた国であり、以降、政治・経済界においても多数の女性リーダーを輩出したニュージーランド。

2017年、当時37歳で首相に就任した同国3人目の女性首相、ジャシンダ・アーダーン氏は現職の首相として世界初となる6週間の産休を取得したり、国連会合に幼児を連れて行ったりしたことでも話題になりました。さらに今年3月以降、同国の新型コロナウィルス感染対策において、Stay home, Be kind.という国民への呼びかけと寄り添いによって、ロックダウンを乗り越えた彼女のリーダーシップは、世界的に称賛を受けたことも記憶に新しいです(2020年7月末現在)。

「人口500万人のニュージーランドは、ラグビー王国や羊の国として有名ですが、昨今、圧倒的な家族最優先主義社会が魅力のひとつです」と話すのは、自身の子育てのためにニュージーランドへ移住した及川孝信さん。

Kiwi-J-Ana Ltd.(キウィジェイアナ社)を創業し、ニュージーランドでの体験プログラムの提供や、日本全国でニュージーランドをテーマにしたワークショップを毎年開催する及川さんに子育て事情についてくわしく聞きました。
At Roys Peak in Wanaka, NZ. ©Kiwi-J-Ana Ltd. 2010-2020
At Roys Peak in Wanaka, NZ. ©Kiwi-J-Ana Ltd. 2010-2020

及川孝信/企業&公共コンサルタント。次世代教育コーディネーター。息子が5歳の時に家族三人でニュージーランド・クライストチャーチに渡り11年目。働き方・家族・教育・公共の4つの視点から日本流×NZ流=次世代価値創造をメソッドとした次世代ソリューション & ラーニングカンパニー Kiwi-J-Ana Ltd.(キウィジェイアナ社)を現地で創業し、その後永住権を取得。現在は、ニュージーランドと日本を往来し、インバウンド・アウトバウンド双方向のホームステイ型のカスタムメイド・スタディツアー・ビジネスを展開している。

子どもの時間から逆算して大人が行動する

自身の子育てがスタートしたころから、“世界のどこで子育てをするか?”ということをリサーチした末、ニュージーランドにたどり着いたという及川さん。ニュージーランドで子育てをすることを決めた背景には、ファミリー・ファースト社会(Family-prior society:家族最優先社会)という特徴があると話します。

「私が命名した家族最優先社会とは、社会内と家庭内の2つの条件が揃っていることです。

1つ目は、法律や制度、そして風土・雰囲気という社会システム全体が『子育て家庭』を最優先する形成になっていること。2つ目は、ママもパパも子どもたちも、家族の構成員全員が毎日、『家族事』を最優先する行動&タイムマネジメントの努力をすることです。

ニュージーランドでは、全世帯数の約40%を占める子育て家族を“最優先”するという社会システム(法律・制度・風土)が、既に完成し、変化し続けています。ですから、あとは自分と家族の行動次第で、楽しい子育てエンジョイ・ライフができそうだと感じたことが、ニュージーランドを“子育ての地”に選んだ最大の理由です。

実際に暮らし始めてみると、学校任せではない家庭や地域の役割、その子育て家庭を支える風土や制度など企業の働き方、個人の責任と政府の責任が明確な社会保障制度など、学校・家庭・企業・政府の四位一体の子育て環境がそろってこその“最(優先)”を、既に多くの地域や家庭で実践できていることに驚きました。ストレスフリーな子育て環境こそがニュージーランド最大の魅力です。

さらにニュージーランドでは、平日の17時から19時までがファミリータイムと呼ばれ、家族がそろって毎日夕食を共にする努力をします。食卓を囲む際の会話に登場してくる人物たちが大切です。子どもの学校の友だちの話、先生の話、ママ・パパ友の話、仕事の同僚の話、など些細な出来事の共有を積み重ねていくことで、自分たち家族の周りに存在する“多様なコミュニティ”について親子で理解を深めていくのです。この地道な平日の連続こそが、子育ての本質であり、当たり前のことである、とニュージーランドのママ・パパ友だちから教わりました」
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
「幼稚園生は18時半頃、小学生でも20時半頃には寝ます。親は子どもが寝てからが自分の時間であり、フリーになります。つまり、親も決して子ども中心生活の犠牲になるだけでなく、個人として自分自身の生活志向も尊重される。親がいきいきと生きてこそ、子どもはすくすく成長するからです。

たとえば、その時間から、ママとパパが曜日によって役割分担し、飲みに出かけたり、学校に通ったり、PTA会合が開かれたり、仕事が残っていれば個人的に残業したりと、ファミリータイムが終わってからが大人のタイムマネジメント。

ニュージーランドの子育て社会の一丁目一番地は、大人の時間に子どもたちを合わせるのではなく、子どもが寝る時間から逆算して大人が行動するというプライオリティを父親と母親自身が実践するだけでなく、それを実践できる企業風土・制度が整っていることなのです。

有給休暇、育児休暇を増やすことも大切ですが、平日の17時にママとパパが毎日揃っている、ということが子育て期の約15年間×平日250日ほど続けられるか、というのがニュージーランド社会が教えてくれる社会変革のヒントであると、私は捉えています。案外、地味なことを淡々と続けることで新常識ができあがっていくのだと思いますよ」
クライストチャーチにある子どもの遊び場「マーガレット・マヒー・プレイグラウンド」。(At Margaret Mahy Playground in Christchurch, NZ. ©Kiwi-J-Ana Ltd. 2010-2020)
クライストチャーチにある子どもの遊び場「マーガレット・マヒー・プレイグラウンド」。(At Margaret Mahy Playground in Christchurch, NZ. ©Kiwi-J-Ana Ltd. 2010-2020)

“夫婦そろって参加”が当たり前

ニュージーランドの共働き子育て夫婦は70%以上。平日の17時から19時のファミリータイムで子どもとのコミュニケーションを日常的にとるだけでなく、食卓の会話で登場してくる子どもの友達やその親とも顔見知りで、逆に、子どもも親の仕事相手を知っているというほど家族ぐるみのコミュニケーションが当たり前です。

「私の子どもが通った小学校は15時に終わるんですが、そのあとすぐにタッチラグビーやバスケットボールなどの地域スポーツタイムがはじまります。ここでも子どもが寝る時間からの逆算がなされています。平日にも関わらず、競技場に子どもの倍くらいの数の大人が試合を見に来ているんです。よく見ると、ママ・パパ友たちの多くがボランティア・コーチとして活躍しています。

そもそも平日の15時半や16時に、夫婦そろって子どもの応援をしているんですよ。最初は『この人たちは働いていないのか』と驚きましたが、中にはスーツを着た方もいます。よく聞いてみると、仕事と子育てをうまくやりくりしているんです。たとえば普段は朝9時に家を出るところを7時に前倒しして、早めに帰れるようにするとか。

逆に、土日の交流試合でも、夫婦がそろって来ていないと心配されるくらいで、『仕事があるので来られない』ということ自体が理由にならないんです。

これは嫌々そうしているわけではなく、自分がやりたいからやっている。基本姿勢は、義務感ではなく子どもの試合を見られるのが楽しい、応援したいという気持ちなんです。さらにそれを実現可能にするための会社の制度や法律のバックアップが整っている。
※写真はイメージです(iStock.com/SDI Productions)
※写真はイメージです(iStock.com/SDI Productions)
ニュージーランドの子育て夫婦の現場から学べるタイム・マネジメントのコツがいくつかあります。

たとえば、15~30分くらいのちょっとした送り迎えをママパパ友たちでシェアする『カープール』や、上の子はママ、下の子はパパ、行きはパパ、帰りはママといった夫婦役割をシェアすることなどです。

30分以内のちょっとした時間を、家庭の内でも外でもブロック行動化(生産性向上)することが上手であり、そのためには、共働き夫婦の仕事場、家庭、学校、習い事の4つの場所の移動時間が30分以内になるような家を探したり仕事を変えたりする、という考え方を大切にしています。子どもの成長や子育てライフスタイルに合わせて引っ越しする、ということも重要な『家族の最適化』なのです。

また、逆な意味合いでも、ニュージーランドは多離婚社会でステップファミリーも多い国。夫婦仲が芳しくなければ別居、別離するのは当たり前でもあります。しかし、子どもの親であることと男女関係は別だという考え方が浸透しているため、何らかの問題がない限り親権はシェアすることも多いです。

ですから、離婚や別居した夫婦でも、週末の試合観戦は揃ってサイドラインに立って応援する、というのが当たり前なんです。チームによってはそのような夫婦が3分の1くらいを占めますので、これもまた普通の子育て風景なんです。あまりにも開けっ広げで最初は戸惑いましたが、陰でコソコソ噂話する人も少なく、かえって健全な人間関係なんだと感じられるようになりました」

仕事と育児は“両立”するものではない

家族を最優先にする社会、そしてそのための企業の風土や制度、社会保障など、学校・家庭・企業・政府の四位一体の環境が整っているニュージーランド。仕事と子育てをうまくやりくりする秘訣は、どこにあるのでしょうか。

「『仕事と子育てを両立する』という感覚はニュージーランドではありませんね。

どちらを“優先”するか、というと、もちろん『子育て期の夫婦は子育てである』と80%以上の夫婦が答えるでしょう。その背景には、Work minimum, Life maximum(仕事は最小化、人生は最大化)という国民性、価値観があり、子どもを放ったらかしにして仕事している人は、仕事が優秀であろうがなかろうが軽蔑される、という文化や雰囲気があると感じます。

子育てをしながら働き方を向上するために、ニュージーランドは『単価の高い仕事ができるスキル習得を常に目指す生涯学習の姿勢』が顕著です。若くして親になった場合、大学に入り直すという選択肢を選ぶママ・パパ学生も少なくありません。国立高等教育機関は全て幼児施設が付設義務なので、ママ・パパ学生もママ・パパ教授も困りません。
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
※写真はイメージです(iStock.com/skynesher)
さらに、学生期間中の生活保障や子ども手当などの社会保障制度が伴う必要がありますが、ニュージーランドはその制度がしっかりしています。

こういう環境下で、子どもと過ごす時間をたっぷりとるには、短い労働時間で単価の高い仕事、つまり付加価値の高い仕事へ転職するために何回でも教育を受け直す、という意識が求められるのです」

一度会社をやめたら不利になるという価値観のある日本に比べ、ニュージーランドでは『子どもとの時間が取れない働き方を続けていることそのものがアウト』という価値観。コストの高い都市部で子育てするのも、共働きか専業主婦・主夫かという選択も、正解はなく“夫婦の納得解”が重要だと及川さんはいいます。

正解ではなく夫婦の納得解

「『子育てにはみんな一緒の唯一の正解なんてない』ということをニュージーランドは教えてくれます。大切なのは自分とパートナーの夫婦ふたりの納得解を常に考え、行動することである、ということ。

あるニュージーランド国内統計では、子育て中の女性の働き方は、フルタイム・パートタイム・専業主婦がそれぞれ3分の1ずつという結果を示しています。これは、国際的に見ても、男女の働く環境の差異が少ないニュージーランドにおいて、子育てママの働き方に唯一の正解がない、ということを裏付けています。ワーキングママでもいいし、ハウスホールドママでもいいし、夫婦の納得解が大切なのです。
※写真はイメージです(iStock.com/kupicoo)
※写真はイメージです(iStock.com/kupicoo)
また、週末より平日を大切にすることも基本中の基本です。子育てはハレ(非日常)とケ(日常)で言えば、“ケ”であり、地道な毎日の積み重ねでしかありません。週末に遊園地に連れて行ったり、外食したりすることは子育ての本題ではなく追加項目。ニュージーランドでは『家族サービス』といった免罪符のような価値観はなく、子育て平日ライフそのものを、親自身が毎日楽しんでいます。

ホリデーの捉え方も独特で、4学期制の教育制度で年4回の春・夏・秋・冬休みに、ママ・パパも上手に有給休暇を合わせて、少しでも家族旅行の回数を増やす努力をする、お金をかけないで済むキャンプやイベントを増やす、というように、子どもと一緒に休むことがこの国の子育て家族の当たり前となっています。日本の子育てママ・パパたちは、働き方よりも、休み方を学んだ方が良いかもしれませんね。

そして全てにおいて、隣の家を気にするのではなく、夫婦が『こういう子育てをしたい』と話し合うことであり、100夫婦には100通りの答えがあるのだということをとても感じています」

父親の大切な姿勢は「Happy Wife, happy Life」

息子さんの学校や地域活動を通して、現地に約50人のパパ友を持つ及川さんは、ニュージーランドのパパたちから学べることは大きく2つあると話します。

「1つ目は、『子どもと良く遊ぶパパ』です。男の子であれ、女の子であれ、子どもと一緒にとことん遊ぶパパが多いです。それも、自らがエンジョイする、子ども以上に熱中するという印象です。多くのお金をかけずに済む遊びを開発したり、家事タスクもゲーム形式にしたりして工夫します。

2つ目は、『家事の一部の補完作業が得意なパパ』が多いです。たとえば、食事を作るのはママだけど、後片付けと食器洗いはパパの役割といったように。ママが何かをしている最中に、子どもをお風呂にいれたり、勉強を見たり、遊んだりして、ママの手と心を解放してあげることも重要な役割です。
※写真はイメージです(iStock.com/MaxRiesgo)
※写真はイメージです(iStock.com/MaxRiesgo)
もちろん、パパとママの役割が逆転する夫婦があっても良い訳です。それぞれが得意な分野を組み合わせることを心がけています。男女平等というよりは、人間公平という表現の方がしっくりいくかもしれませんね。

パパ友たちから学んだ姿勢は、Happy Wife, happy Life.ということ。Kiwi husband(キウイ・ハズバンド)と評されるパパたちは、定期的に、子どもを祖父母や友人宅に預けでディナーデートするなど、子育て中でも、夫婦の時間を大切にしています。

子どもにとって、両親の行動こそが、社会の人間関係の学びの基本であり、家庭内・夫婦仲でのありのままの姿こそが、子どもの成長を後押しするものだと感じます」

<取材・執筆>KIDSNA編集部

<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年08月18日

専門家のコメント
2
    かんな先生 保育士
    それぞれの国の文化は、一朝一夕にできたものではなく長い時間をかけてカタチづくられたものだと
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