【ブルーライト】子どもの体も生活も蝕む現代の脅威

【ブルーライト】子どもの体も生活も蝕む現代の脅威

ネット環境が整った時代に生まれ、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスの進化とともに成長してきた現代の子どもたち。親世代の子ども時代とは、社会環境や生活の仕方が変化した今、子どもたちの心身には新たな問題が起きている。今回は、ブルーライト研究の第一人者である、おおたけ眼科つきみ野医院(神奈川県大和市)院長の綾木雅彦先生に話を聞いた。

<連載企画>子どもの体と向き合う

“使い過ぎ”で子どもの眼はどうなるのか

学習から遊び、暇つぶしまですべてがかなうスマートフォンやタブレットは今や育児には欠かせない存在。

内閣府の令和元年の「青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、0歳~9歳までの低年齢層の子どもの57.2%がインターネットを利用しており、中でもスマートフォン(31.2%)、タブレット(27.4%)、携帯ゲーム機(15.1%)の順で使用率が多いことが分かっている。

その一方で、子どもの視力が悪くなるのではないか、またはブルーライトの影響はどうか、と心配する人も少なくないだろう。

「ブルーライトと視力低下は直接関係していません。ブルーライトが怖いのは、生活リズムを破綻させてしまうということ」と話すのは、慶應義塾大学医学部 眼科学教室 特任准教授であり、おおたけ眼科つきみ野医院の綾木雅彦先生。(以下、綾木先生)

デジタルデバイスの子どもへの影響や、日ごろからできる工夫を聞いた。

デジタルデバイス中心の生活が子どもの視力を低下させる

子どもがスマホを使うことによって、眼にどのような影響があるのか。まずは、近年の子どもの視力について調査したデータを見てみよう。
出典:「令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」(文部科学省)を加工して作成
出典:「令和元年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」(文部科学省)を加工して作成
裸眼視力が1.0未満の割合は小学生が34.57%、中学生が57.47%、高校生が67.64%といずれも過去最多に。近くのものが見えて遠くのものが見えない“近視”の原因は複数ある。
綾木雅彦/医学博士。眼科専門医。抗加齢医学専門医。睡眠健康指導士。おおたけ眼科つきみ野医院院長、慶應義塾大学医学部准教授。ブルーライト、疲れ目、近視、ドライアイなど身近なテーマで海外の医学雑誌から週刊誌まで多数のメディアに情報発信し、花粉症に関する記事はヤフーニュース科学部門の第一位に。
綾木雅彦/医学博士。眼科専門医。抗加齢医学専門医。睡眠健康指導士。おおたけ眼科つきみ野医院院長、慶應義塾大学医学部准教授。ブルーライト、疲れ目、近視、ドライアイなど身近なテーマで海外の医学雑誌から週刊誌まで多数のメディアに情報発信し、花粉症に関する記事はヤフーニュース科学部門の第一位に。
「近視は遺伝の影響もありますが、スマートフォンが普及したことによって、近くでものを見る“近業”の時間が長くなったことと、外遊びが減少したことが背景にある。太陽の光に含まれるバイオレット光には近視の進行を抑える作用があるからです。世界的にも問題視されていて、屋外での活動時間が長い子どもほど近視が進みにくいというデータもあります。

近視は背が伸びるのと並行して進むので、小学校入学前から中学校にかけてぐっと増える。視機能の発達は、8歳でほぼ大人と同じくらいになり、12歳ごろまで発達が続きます。この時期が弱視の治療や近視の抑制に大切なのです。学校入学前の就学時検診で異常が見つかっても、視機能を改善するのが遅い場合もあるので、3歳児検診で早期発見することが大切です」

テクノロジーの産物、ブルーライトとは

スマホやゲーム、パソコンを、いつでもどこでも、特に“夜に”使えるようになったことで深刻になったのが、ブルーライトの影響だ。

「ブルーライトは、太陽光やLED照明にも含まれていますが、目に近い距離で使用する機器ほど、ブルーライトの影響が強くでます。目に最も近く使用するのは、スマートフォン。次いでゲーム機、パソコン、液晶テレビ、ブラウン管テレビです。

私たちの目の角膜や水晶体は、およそ350nm~800nmの波長を透過させますが、それより外側の電磁波(光)は透過できません。つまり、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達する光、そして紫外線にもっとも近い強いエネルギーを持つ光がブルーライトです」
引用:ブルーライト研究会(http://blue-light.biz/about_bluelight/)
引用:ブルーライト研究会(http://blue-light.biz/about_bluelight/)

常に身近にあるブルーライトが人間の機能を壊す

ヒトの目の網膜には、光の色を感知する「錐体」と、暗い所でも明暗を感知する「桿体」という2つの視細胞が存在する。近年、この2種類の他に、ブルーライトにだけ反応する「第3の視細胞」が発見され、“サーカディアンリズム”と呼ばれる、約24時間周期で変動する体内時計をコントロールしていることが分かってきた。

体内時計をコントロールするブルーライトには、睡眠を司るホルモンであるメラトニンの分泌を抑制する効果がある。ブルーライトは太陽光にも多く含まれているため、朝日を浴びることで脳は「朝だ」と判断し、睡眠ホルモンの分泌が抑制され覚醒し、体内時計がリセットされる。反対に、ブルーライトの量が減少すると「夜だ」と判断して、メラトニンの分泌が活発になる。

つまり私たちの体は、こういった目に入る光の量や、食事のタイミングなどによって、日の出とともに目覚めて活動し、日が沈むと脳と身体を休めるというリズムをつくっているのだ。

「その一方で現代は、LEDライトの照明によって夜も明るい環境や、夜遅くまでスマホやパソコンなどのLEDディスプレイでブルーライトを浴びる生活が当たり前。

朝は人間の体内時計をリセットしてくれて、シャキッとさせてくれるのに、脳と身体を休めて寝なければいけない夜にブルーライトを浴びると、目が冴えて寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりする。睡眠の質が低下してしまうという問題が非常に多いです。
睡眠の質が低下することで、朝すっきり起きれない子どもも多い。iStock.com/LeManna
睡眠の質が低下することで、朝すっきり起きれない子どもも多い。iStock.com/LeManna
今では子どもも小さいころからスマホやタブレットに接しているし、夜遅くまでスマホやゲームをしている子も多い。そうすると、いざベッドに入っても眠れず、朝起きれない。身体も疲れたままの状態で、体力や集中力が落ち、学校に行っても授業に身が入らず成績が悪くなる子どもが多いです」

こういったことが繰り返されることにより、悪い生活リズムができてしまうと綾木先生。成長段階にある子どもの身体にとっては、本人も身体が辛いし、学校など日中の生活もうまくいかなくなってしまう。

「悪い生活リズムというのはブルーライトによって体内時計が乱れてしまっている状態なので、たとえばスマホやパソコン、ゲームを一切遮断すれば、数週間で体内時計は正常に戻ります。

つまり、本来、身体を休めるべき夜の時間にブルーライトを浴びた次の日は、飛行機で移動した次の日の時差ボケと同じ状態です。そのため、社会的時間と体内時計の不一致によって生じるさまざまな不調を“社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)”と言うんです」

ブルーライトを夜のタイミングで浴びることにより不調が起こるのは睡眠だけではない。体内時計が乱れることで、体温や心拍、血圧、血糖値、ホルモンなどといった生理機能の変動リズムに影響し、自律神経系や内分泌系、免疫系の疾患や、糖尿病や高血圧、心筋梗塞といったメタボリックシンドロームのリスクも高めることが多くの研究で分かっている。

また、特にブルーライトのような明るく強い光のシグナルは、網膜から脳へとダイレクトに届けられ、アドレナリンやセロトニン、コルチゾールといった心の状態に影響するさまざまなホルモンを刺激することで、イライラする、怒りっぽくなるなどの精神面への影響もある。

子どもは大人よりブルーライトの影響を受けやすい

成長過程の子どもの眼が受ける刺激

太陽、電灯、電子画面からの光は、角膜、水晶体を通り網膜に像を結び、紫外線は水晶体に吸収される。一方、ブルーライトを含む可視光線は、角膜や水晶体で吸収されず、網膜に達する。
iStock.com/DragonTiger
iStock.com/DragonTiger
「スマホやパソコンなどのLEDディスプレイを見たときに、大人より子どもの方が約2倍強く、光のまぶしさを感じやすいという特徴があります。

それは、成長過程にある子どもの目の水晶体は、透明で濁りがないから。つまり、大人以上にブルーライトの影響を受けやすいのです」

子どもは疲れ目に気づかない

長時間にわたるパソコンなどの使用が眼精疲労やドライアイを招くVDT症候群(テクノストレス)は、近年、ディスプレイから発せられるブルーライトが大きな原因になっていることが分かってきている。
 
「ブルーライトは光が散乱しやすい性質があり、これがまぶしさの原因になります。そうすると脳はピント調節に苦労し、網膜への負担も大きくなる。

また、ブルーライトは瞳孔を縮める作用が強く目の筋肉も酷使され、眼の疲れや痛みなどに影響します。

こういったことにも、大人の場合、細かい活字を見るとゆがんだり、ボケたり、自分で目の異変に気づけるのですが、子どもの場合、特に乳幼児のお子さんは目に違和感があっても自分で気づきません。特に10歳前後までは見たい場所にピントを合わせる調節力が非常に強く、長時間近くを見続けていても疲れを感じないからです。

子どもが毎日12時間ゲームをやり、一時的に網膜の中心部にある黄斑という部分に水がたまる中心性漿液性脈絡網膜症にかかったという事例があります。子どもは放っておくとずっとやり続けることも少なくありません。

ブルーライトによる睡眠の質の低下や生活リズムの乱れも大きいですが、スマホやゲームをやり続けると、本当に目の病気になることもあるんです」

同院で小児の視能矯正や健診業務、見え方に不自由がある人の視力を最大限に生かすサポート、ロービジョンケアなどに取り組む視能訓練士の荒井美湖氏は、心因性の子どもの目のトラブルが増えていると話す。
おおたけ眼科つきみ野医院 視能訓練士。医療職に携わりたい気持ちから視能訓練士を志して学校に通い、国家資格を取得。真心と最新の検査機器を駆使して日々診察にあたっている。
おおたけ眼科つきみ野医院 視能訓練士。医療職に携わりたい気持ちから視能訓練士を志して学校に通い、国家資格を取得。真心と最新の検査機器を駆使して日々診察にあたっている。
「最近、授業中に目が疲れると眼精疲労を訴える小学生のお子さんがいます。学校の照明がLEDライトに切り替わったことで、黒板の文字が細かくなったことも影響があると思います。

私が問題視しているのは、クラス替えや引っ越し、両親の離婚や下に兄弟が生まれるなどの環境の変化によるストレスが視力低下につながるケース。

就学時検診や学校検診で、心因性の視覚障害が近年は見受けられます。一見、元気な様子で、見えにくそうにはしていません。しかし、視力を計ると視力不良や視力低下が判明することがあります。

たとえば、下にきょうだいが生まれてお母さんにかまって欲しいけど、言葉で上手く伝えられずにストレスが溜まってしまった子どもは、本人も本当に心から見えない、分からないと訴えます。

実際に軽度の近視が進行している場合は、近視を抑制する環境作りが大切です。心因性の視覚障害の場合は、お子さんの心のSOSに気づき、ストレスの原因を取り除いてあげることが必要です。検診で目に異常が見られた場合は、なるべく再検査に来ていただきたいです」

子どもの生活リズムを守るために家でできること

心身の不調や生活リズムを乱さないためには、ブルーライトを発するデジタルデバイスとうまく付き合っていく対策が急務だ。子どもたちが家庭でできることを綾木先生に聞いた。
 
「いかにブルーライトを減らせる使い方をできるか、また、いかに生活を乱さないための時間のコントロールをするかが大切です。

まずは、体内時計を乱さないために、夜はブルーライトを浴びるのを控えましょう。スマートフォン、ゲーム、パソコン、テレビの順番で、ブルーライト成分が多くなります。家族でのだんらん時間にテレビを見るのはそこまで影響はありません。特に就寝前のスマホやゲームに気を付けてください」
引用:ブルーライト研究会(http://blue-light.biz/about_bluelight/)
引用:ブルーライト研究会(http://blue-light.biz/about_bluelight/)
「また、スマホやタブレット、ゲーム機、パソコンは手動で明るさを落とせますし、決まった時間に自動で光量を下げるナイトモードなどの設定をすることをおすすめします。

画面との距離に関しても、子どもは特に夢中になったり集中しているときは顔と画面の距離が近づいてしまう。スマホの場合は推奨されているのが40cm程度ですが、私たちが調べたところでは、実際は15cmくらいの間隔で操作している子が多い。

また、暗い場所では瞳孔が開くので目の中にガンガン光が入ってしまい、ブルーライトの影響を強く受けてしまう。明るい場所での使用をできるだけ心掛けましょう」

ブルーライトの青色を打ち消すために、補色である黄色味がかったレンズのブルーライトカット眼鏡は、子どもがかけても目に害はないと綾木先生。効果に個人差があり、眼鏡をかけること自体を嫌がる子どももいるため注意が必要だ。

「耳が痛くならないようにやわらかい素材で固定できるタイプの眼鏡を選んだり、つける時間帯を決めて使用するなどで試してみてください。

子どものブルーライト対策で大切なことは、時間と距離のルールをつくること。スマホやタブレット、ゲームを毎日使うという場合でも、これらの対策をしておけば生活リズムが乱れることはまずないでしょう」

視力を守り、生活を崩さないための見直しを

新型コロナウイルスの影響で、休園・休校のために家にいる時間が長くなった今の時期だからこそ、遊び以外にも、オンライン教材や、番組視聴などデジタルデバイスを使う時間も必要になるだろう。

「特に今の時期は、夜更かしをしてスマホやゲームからブルーライトを浴びすぎないように気を付けてください。睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が不足し、寝つきが悪くなります。その結果、体内時計を乱し、朝起きて夜寝るという通常の生活リズムを崩して昼夜逆転になってしまいます。子どもといっしょに時間のルールを決めてみましょう。

子どもは目の発達段階で、目の疲れや異変に気づきにくいということもあるので、ブルーライトの刺激を緩和する方法も併せて試してみてください」

子どもの目の健康を守るためには小学校入学までの時期が非常に重要だ。ブルーライトのさまざまな影響を知り、デジタルデバイスとの付き合い方を身につけ、子どもの心身の健全な成長を守ろう。
 

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

<連載企画>子どもの体と向き合う バックナンバー

2020年05月01日

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