【教育熱心はどこまで?#6】マルトリートメントを回復する親子への対処法

【教育熱心はどこまで?#6】マルトリートメントを回復する親子への対処法

不安定な社会情勢やSNSなどを通じて得る過剰な教育情報によって、子どもの教育に奔走し、過干渉な子育てをする親(ハイパーペアレンティング)が増加している。行き過ぎた「教育熱心」が及ぼす危険性とは。そして子どもを疲弊させないために、親はどうあるべきなのだろうか。今回は福井大学子どものこころの発達研究センター教授で、小児精神科医の友田明美氏に話を聞いた。

<連載企画>教育熱心はどこまで?
子どもの将来を思って、塾や習い事をやらせるだけでなく、親の価値観を押し付けたり、きょうだいや他の子と比べたり、嫌がる子どもに強制する……。

こうした親のかかわりや、その過程で起こる言葉による脅しや罵倒、あるいは無視する、放っておくといったかかわり方こそ、「避けたい子育て=マルトリートメント」であると前回教えてくれたのは、小児精神科医の友田明美先生。

脳の成長期である幼少期にマルトリートメントを受け続けると、子どもは強いストレスから、その苦しみに適応しようと脳の特定の領域が自ら変形し、学習意欲の低下や精神疾患を引き起こしてしまう可能性も。

子どものためを思ってした言動がマルトリートメントにならないために、親は何ができるだろうか。今回は、具体的な対処法について聞いていく。
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友田明美(ともだ・あけみ)/福井大学子どものこころの発達研究センター教授。同大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長を兼任。小児精神科医、医学博士。著書に『子どもの脳を傷つける親たち』『親の脳を癒せば子どもの脳は変わる』(ともにNHK出版新書)などがある。2020年11月、「マルトリ予防サイト」を開設。

子どもの傷ついた脳は回復できる

――子どもの脳がマルトリートメントによって変化してしまった場合、修復することはできるのでしょうか?

脳には回復力があります。特に成長期にある乳幼児期の柔軟な脳は、適切な養育への起動修復によって早い回復が見込めます。

マルトリートメントが「避けたい子育て」だとするならば、「望ましい子育て」とは、子どもの脳の成長期である幼少期に、親や養育者といった身近な存在から愛情を受けること。

自分のかかわり方が不適切であることに早期に気づき、マルトリートメントをなくすように家族で心がけて、愛着形成を行うことが大切です。

この愛着という概念は、英語ではアタッチメントといい、「子どもと特定の人物」との間に形成される強い結びつき(きずな)を指します。

子どもは親の腕に抱かれ、親と見つめ合い、微笑み合うことで安心感や信頼感を体で覚えていくものです。この愛着の感覚が健やかに育つことで、子どもは成長とともに少しずつ外の世界へと踏み出していけるようになります。
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たとえ困難にぶつかっても、安全な場所に戻ることができる、いつでもそばに安心できる人がいる……こうした心の安定が、子どもの社会性も育んでいく。

親からのマルトリートメントによるストレスで傷つき(心の傷)、変形した子どもの脳は、心理療法や薬物療法などのケアでも回復していきますが、愛着形成に大切なのは、やはり子どもとのコミュニケーションを改善していくことです。

「褒める」ことの効果

――子どもとのコミュニケーションの中で、具体的にどのようなことを心がければよいでしょうか。

「繰り返す」「行動を言葉にする」「具体的に褒める」の3つのコミュニケーションを、積極的に行うとよいです。

「繰り返す」というのは、子どもが話しかけてきたことをそのまま繰り返して口にすること。

「折り紙で飛行機を作ったよ」と子どもが話したら、「本当だ、折り紙で飛行機を作ったんだね」と、共感していることやしっかり話を聞いていることを示しながら繰り返します。
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「行動を言葉にする」というのは実況中継と似ていて、子どもが何かをしていたらそれを単純に言葉にして声かけをします。

本を読んでいる子どもに「本を読んでいるんだね」と言葉をかけるだけで、大人が関心を向けていることを示すことができ、子どもが自分の行動について理解したり注意を向けたりするきっかけにもなります。

最後の「具体的に褒める」は、「片づけができてえらいね」「ルールを守れてえらいね」などと、適切な望ましい行動を言葉にして褒めることを指します。

これは子どもの行動に対して大人がどこをよいと思ったのかを具体的に伝えること。罰や脅しよりも子どものよい行動を増やす効果がありますし、親子のよい関係が築けるはずです。

この3つに共通するのは、「子どもが会話の主役である」ことを伝え、子どものリードに大人がついていく関わりであるという点。

過干渉な親は子どもに命令や指示を出したり否定的な表現を使ってしまうことが多いですが、それをあらためて、「主導権は子どもにあり、大人は子どもの行動を理解し受けとめる存在である」と示すと、子どもとのよりよい関係を深めることができます。

特に誰かから褒められたり共感されることは、子どもが生きていく上で大きな支えになります。

褒められる、つまり認められる体験を積み重ねることで、前向きな気持ちを生んだり、自己肯定感が育まれるのです。
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他に、試していただきたいのは「耳打ち効果」。

これは、子どもの養育に不安を感じる親を専門家がサポートし、親の子どもに対する意識や行動を変えていく「ペアレント・トレーニング」で実践されている方法のひとつで、親が第3者との会話の中で子どもを褒めていることを、さりげなく子どもに聞かせることを「耳打ち効果」と読んでいます。

たとえば、子どもが同じ部屋にいるときに、お母さんからお父さんに「今日○○がこんなことをできたんだよ。すごいよね」と褒めているところを聞かせる。

そうすることで、子どもを直接褒めるよりも自尊心が何倍も成長しやすいのです。
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――自分のいいところを複数の人に知ってもらえる、それだけ認められているというのは、子どもにとってとてもうれしいことですね。

周囲で「この子はこんなことをがんばっていて、すごいと思っている」という話を親がしてると、子どもって耳を大きくして聞いてるものなんですよね。

もちろん子どもに対して直接褒めることもとても大事ですが、機会をみつけて「耳打ち効果」をあわせて実践してみてください。

また、特に褒めることに関して、私は「親自身も」褒められる必要があると感じています。マルトリートメントは子どもを傷つける行為ですが、決して親御さんを責められないと私は思うのです。

子どもだけでなく親自身を“褒め育て”るべし

――子どもだけでなく親自身が褒められるべきというのはどういうことでしょうか。

親は自分の子育てを責められることにとても敏感です。

「あなたのしていることは虐待ですよ」といってしまえば、一瞬で心を閉ざしてしまう。そうなるともう子育て支援やサポートなんてできない状態になってしまいます。

だから私は「虐待」という言葉を使わず、「マルトリートメント(略してマルトリ)」という言葉を使うようにしているのです。

「マルトリはどの家庭でもあること。実は私自身も自分の子どもにしてしまったことがある」と同じ親目線で語ることで、上から目線で批判するのではなく、これからどう修復していけばいいのかをいっしょに考えていくことができる。
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親自身も、「自分も親に厳しくされて育ってきた」という方が多く、子どもの診療の場でも、親自身の自己肯定感の低さを感じます。親自身の「褒められて育った」という経験が不足しているため、健全な愛着形成ができていないともいえます。

さらに今の親たちは、核家族の中で「完璧な子育てをしなさい」と大きなプレッシャーをかけられています。

でもそれは大間違いで、少子高齢化が加速度的に進んでいる現在の日本社会を考えると、本来は実の親だけでなく「社会で育てていく」というスタンス(とも育て)でないといけないんですよね。

褒めてくれたり認めてくれたりする相手がいないと自尊心が育たないのは、子どもだけでなく親も同じなんです。
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だから「親の褒め育てが必要」ということを、私はいろいろなところでお話ししています。

――先生が親を褒めたりねぎらったりしていると、親も変わっていくのでしょうか?

私が親のがんばりについてどんな小さなことでも褒め続けていると、それをまねて親が子どもを褒めるようになっていきます。

誰かから褒められたり共感されたりすることで「人を褒める視点」を身につけることができ、それが他者への優しさや思いやりなど前向きな気持ちを生むものだと知ってもらうことが、子どもへの接し方を変えるきっかけになるのです。

第3者から親へ、親から子どもへのポジティブな「褒め育ての連鎖」ができると、親子ともに自尊心が育って、子どもの問題行動が減ります。

逆に過干渉な子育てが続いて「あれもこれもしなさい」ということが続くと、できないことが出てきたら子どもはそれを取り繕うために、何気ない嘘をつくようになってしまうんです。
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だからできないところをどうこういうよりも、ひとつの長けたところを認めてあげてしっかり褒めてあげる。できないところは片目をつぶるくらいのことを、親ができるようになることが大切なんです。

――親は褒められると自信がつき心にゆとりを持てて、それが子育てにもいい影響を与えるのですね。

そうですね。親を褒めるのは私たち専門家でないといけないということもありません。

私が対面したお母さんやお父さんによくいうのは、「夫婦間やママ友同士、パパ友同士でも褒め育てしてください」ということ。

「よくやってるね」「ここはできなかったとしても他のことでよくがんばってるよね」と褒めあってくださいと。そうやって身近なところからいい褒め育ての連鎖を広げていってほしいと思います。

親はみんな、子どものためを思って、よかれと思って接しています。私がよくお伝えしているのは、マルトリは、どの家庭にもあり得る、子育て困難家庭の親御さんからのSOSだということ。

だからこそ、マルトリという概念や、その予防となる「とも育て」を広める中で、親も子も「褒め育て」される社会を実現したいですね。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>教育熱心はどこまで? バックナンバー

2021年01月14日

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