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【#私の子育て】須藤暁子 医師であり作家の顔も持つ、2人の男の子ママ
Profile
KIDSNA編集部の連載企画『#私の子育て』。#05は医師であり2人の男の子のママである、須藤暁子さんにインタビュー。ひとりのワーキングマザーとして子育ての日常を綴った著書もある彼女は、子育てや仕事、家族についてどのような思いを持っているのだろうか。
「子どものことになると不安と動揺ばかりの、普通のお母さん」
「こだわらないこと、にこだわっている」
「自分が大事だと思っていたものを、子どもは遥かに超えてきた」
こう語るのは、医師でありママである須藤暁子さん。とにかく笑顔がチャーミングで、彼女の笑顔を見ていると、その場の雰囲気がぱっと明るくなる。
医師として働きながら、現在5歳と7歳の男の子を育てている。育児や仕事、家事に奮闘する毎日を綴った等身大のブログが評判となり、子育てエッセイがSNSで累計30万人以上にシェアされ、話題に。
著書に『子育て奮闘中の母ちゃんドクターが書いた「男の子ママ」の悩みをぶっとばす言葉』(KADOKAWA)、『両立どころの騒ぎじゃない。男児2人を育てる母ちゃんドクターの「フルスロットな24時間』(KADOKAWA)などがあり、作家としても多くのママたちから支持をうけている。
2人の男の子を育てながら、明るい笑顔を絶やさない須藤さんは、どのようなスタンスで育児、家事、仕事をこなしているのだろうか。家族に対する思いや子育ての考え方について、彼女に話を聞いた。
他と比べず、よそ見をしない
事前に須藤さんに記入していただいた質問シートからは、本当に大切なものを見失わない、しっかりとした意思のようなものが感じられた。
須藤さんの明るい笑顔を見ていると、2人の男の子の子育てを心底楽しんでいるように見える。しかし、患者の生と死に常に向き合う医師という職業を選んだ彼女だからこそ、見えてきた本質があるのではないだろうか。
「医師として、とよく聞かれますが、子どものことになると、動揺して、悩んで心配して後悔して、という普通のお母さんです」と話す須藤さん。
子育てや仕事に対する考えを聞いてみた。
申し訳ない気持ちとの葛藤
出産を機に仕事との向き合い方を変えざるを得なくなるのは、どの母親も同じだろう。須藤さんもその例に漏れず、悩み、不安になった時期があったという。2人の男の子を育てながら、どのように気持ちを整理していったのだろうか。
「お母さんの代わりはいない」という上司の言葉
――出産後、仕事復帰に対する不安はありましたか?
「仕事復帰前は、自分が今までがんばってきたことを失ってしまうのではないか、という感覚でした。
不安と申し訳なさが強すぎて、はじめはがんばりすぎていました。信用されたくて、『子どもが生まれても、私は変わらず働きます!できます!』と無理をして、逆に周囲に迷惑をかけて、反省しました」
――子育てと仕事の両立の葛藤をどのように乗り越えたのですか?
「何度も、もうダメだと思いました。
息子は小さいころ身体が弱かったので何度か入院したり、仕事を休まなければならない日も多かったんです。いつも、申し訳ない気持ちとの戦いでした。
仕事も、職場の人たちに迷惑がかかって申し訳ない。子どもに対しても、入院中なのに仕事のことを考えて連絡をしたりして申し訳ない。
でも、『子どもを産んで育てることは、何にも比べられないほど尊いこと』と言ってくれた上司がいて。
『自分がまるで悪い事をしているように思っているのかもしれないけれど、君のしていることは大きな社会貢献だから。君の子どもが、いずれまた社会で活躍できるように、今はたっぷり愛情をかけて羽ばたくのを待てばいい』と言ってくれたんです。
子どもの母親をできるのは私しかいないんだ、という気持ちに立ち返ることができて、自分なりの職場での役割を見つけることができました。本当に恵まれていたと思います」
「こだわらないこと」にこだわる
――子育てと仕事の両立のために、どのような心がけをされていますか?
「こだわりすぎないようにしています。
自分がこだわりすぎるということは、相手はこだわられすぎるということ。完璧に思い通りには無理。どちらも欲張ったら、自分か、家族か、仲間か、何かがつぶれてしまいます。
ルーティ—ンワークやルールを決めすぎると、それにばかり縛られてイライラしてしまいますよね。私自身にも子どもたちにも、自分の理想を押し付けることになるので、現実的にできることをやるだけでいいと考えています。
最低限の事だけは習慣にして、あとのルールは決めていません。むしろこだわらないことにこだわっているのかも。
私が『あー!!』となる時は、まず優先順位を確認します」
――どのように優先順位を意識しているのですか?
「子どもの事、家の事、仕事、勉強、締め切り、人とのかかわり、いろいろありますよね。
優先順位は人それぞれだと思いますが、一旦ひいて全体を見渡すと、浮き上がってくる大事なことを見失わないと思います」
家族も仕事も目の前を大切に
――執筆活動などもされているので、ご自宅でお仕事をされる場合もあると思いますが、その際、お子さんはどのように過ごされているのですか?
「まず優先順位では、子どもの方が上なので、子どもの前で執筆や(医療の)勉強をすることはありません。やるとしたらすべて寝た後です。最近は、子どもと一緒にほぼ寝落ちしちゃいますけどね(笑)。
遊ぶときは思いっきり遊ぶ、一緒にいるときは向き合う。目の前の人を大切にするというのは、家族でも、仕事でも一緒だと思います。
家でも辛いときは『ごめんね、ちょっと辛いから、これとこれを助けてほしいんだ』とか、『幸せだねえ、ありがたいねえ』と、素直に言うようにしています」
ルールやタスクは作らない
――キャリアにおいて、今後の目標や夢はありますか?
「キャリアにはあまり興味がないです。できないことを思うより、自分が今できることを、細くてもいいから長く続けていこうと思います。
試験もあるので、今はひたすら勉強をしています」
――自分の時間よりもお子さんとの時間を優先されていますが、自分の時間がほしいと思うことはないですか?
「なにが自分の時間かは、人それぞれですよね。私は今は勉強がしたくて、それが自分の時間なので、満足しています。むしろ、やらなきゃいけないことを抱えて、ああ、今日もできなかったとなるのはストレスですよね」
――タスクを課さない、ということですか?
「タスクを決めてしまうと逆に立ち行かなくなるので、今、いちばんやらないといけないことを、優先順位で上からやっていく感じです。もしルールを決めても私が守れないから。ズボラなんですよ(笑)」
子育て、家事、そして仕事。大切なものを見失わないように、まっすぐに「優先順位」と向き合う須藤さんの姿に、清々しさを感じた。
毎日が運動会!須藤さんの1日
長男が小学生、次男が幼稚園。元気いっぱいの兄弟を育てながら医師としての仕事を続けるためには、工夫が必要だろう。須藤さんが忙しい毎日をどうすごしているのかを聞いた。
飾らない、等身大の実生活
――睡眠時間が少なそうですね。
「そうかもしれませんね。でも寝るときは寝ます。いや、ほぼ毎日、寝落ちです(笑)。疲れちゃって、子どもより先に寝ちゃいます」
――ご主人と家事分担などされていますか?
「夫は仕事が忙しいので、分担もしていないし特にルールもありませんが、私が疲れすぎたときは爆発する前に『手伝ってほしい』と素直に伝えます」
――爆発することもあるのですか?!
「ありますあります!みんなありますよね。なんとかしてよ!ってなりますよね」
手抜きじゃなくて「工夫」
――帰宅されてからも忙しいと思いますが、毎日の献立の決め方や手早く料理を作る工夫はありますか?
「冷蔵庫の中に残っているものを使って、作れそうなものを、事前に頭の中でひと通り作り終える想像をします。無駄な時間を作らないように、手順をシミュレーションしておく感じですね。こだわりすぎないようにしています。
できるときはやりますが、できないときは手抜き…じゃなくて工夫って言うようにしています。自分で言うぶんには『手抜き』でもいいんですけど、人に言われるとカチンときますよね(笑)。だから、今日は工夫しました!って言うようにしてます」
育児と仕事と家事、両立のためのマイルール
さまざまな工夫を凝らしながら、働く母として忙しい毎日をこなす須藤さん。「こだわりすぎない」と言う彼女にマイルールはあるのだろうか。
疲れたときは「親をやめる」
――疲れてしまってどうしても力が出ないとき、どのようにご自身と向き合われていますか?
「『ママ今日は何にもしない!』と宣言して、子どもたちと一緒に、"子ども”をやることがよくあります。一時的に、親をやめちゃうんですよ。
ごはんも楽をして、テレビを見て、そのまま一緒に寝ちゃいます。
子どもと一緒に笑えることがジムよりエステよりうれしいし、気分転換になります」
どんなに怒っても、寝る前に必ず仲直り
――須藤さんは子育てもしっかりとされていて自然体で、理想的です。
「いやいや。しっかりとなんてできていないです。毎日怒号が飛び交ってますよ。ブチ切れちゃうこともよくあります。理想の子育てなんてできていません。これ、ちゃんと書いてくださいね(笑)。
でも、寝る前には必ず子どもと仲直りするようにしています。怒りすぎてごめんね、から始まって、こういう理由で怒鳴っちゃったとか、本当は怒ることじゃなかったのにごめんねとか、素直に伝えます。
怒らないなんて、無理じゃないですか。穏やかにすごしたいけどできないし、すごく腹が立つこともある。きっとみんなそうですよね。だから、怒ったらそのあとに取り返すようにしています。寝る前に謝って、あなたたちはママの宝物だよ、と話す。
それをしっかり伝えてから寝るようにしています。いちばん大事なのは、子どもたちが元気でいてくれること、それだけだから、それを伝えるしかないですよね」
子育てのターニングポイント
毎日の仕事、子育て、家事に追われる慌ただしい生活の中で、子どもたちはあっというまに成長していく。須藤さんは子どもたちの成長についてどのように感じてきたのか。
――子育てのターニングポイントを感じたことはありますか?
「長男が小学1年生に上がったときに、自分の続けたい仕事と子どもの成長のなかで小1の壁が確かにそびえたってきたので、どのように仕事を続けるか、迷いに迷いました。
長期休みの預け先を探したりもしていたのですが、たくさん考えて、大学病院をいったん退職することに。退職はしましたが、今も大学病院に勉強させてもらいに勤務に行っています。あとはクリニックで働いています。
子どものためというよりは、私が子どもとの時間を優先したかったので、私のための退職だったと思います。子どものために辞めたとなると、子どものせいにして、自分が可哀相みたいになってしまいそうだから。
自分のために自分で決めたということを忘れないように、いつも念頭に置いておくようにしています」
子どもたちから見たママの印象
そんな須藤さんの姿は、子どもたちの目にはどのような母親像として映っているのだろうか。
――「男の子みたい」と見られているんですね。
「一緒に遊んじゃうんです。私自身、兄が2人いて山や池や泥で遊んでいたから男勝りというか。一緒に遊ぶというより、私が楽しんで遊んでいます。
あと10年もしたらきっと、あの頃に戻りたい、となるのだろうなと思っています。一緒に遊べるのはあと何年だろうと考えると、すごく焦ります。だから本当に今が大切で、できるだけ子どもたちと一緒に時間をすごしたいです」
――須藤さんのお仕事について、お子さんたちの反応は?
「最近、子どもに『ママってお医者さんなの!?』と言われました。聞かれれば答えるのですが、今まで聞かれなかったので。そんなに私の仕事に興味ないのかな(笑)」
――お子さんたちにもお医者さんになってほしいと思いますか?
「ぜんぜん思いません。サッカー選手になりたいと言っていて、ワールドカップに連れて行ってくれるみたいです!」
今の自分がいちばんつき合いやすい
最後に、子どもたちとの生活が始まったことによって、須藤さんが変わったことについて聞いてみた。
「名前と性別以外は、すべて変わりました。自分が大好きだったもの、大事だと思っていたものを、子どもは遥かに超えてきたから。
『私』から『母親』になったときに戸惑いました。母親って、産んだらなれるものだと思っていました。でもたくさん悩んで、考えて、やっとモデルチェンジできてきたような気がします。以前はこだわりが強かったけど、自分でも、今の自分がいちばんつき合いやすいかもしれません。
以前は、化粧して、ネイルして、巻き髪して、とがんばっていましたが、今は、家族と仕事以外はわりと優先順位が下がっていますね」
――今の、ナチュラルな須藤さんからは想像できないですね!笑顔が本当に素敵で、取材中こちらまでつい、笑顔になってしまいます。
「シミとかしわを、笑いじわで隠すぐらい、笑ってごまかしてます(笑)。キレイな人には憧れるけど、比べないように、こだわりすぎないように。それよりも、しわがたくさんあっても、いきいきとしている人の方がいいんじゃないかなと思ってます」
編集後記
須藤さんは、底抜けに明るい笑顔の下に繊細な心を持っているように感じた。だからこそたくさん悩んで、考えて、本質にたどり着いたのではないだろうか。
子どもたちとまっすぐに向き合う須藤さんのスタンスからは元気をもらうだけではなく、今だからこそ子どもと共有できる時間がとても大切だということを、改めて実感できるような取材だった。
【須藤暁子さん 関連情報】
著書:【最新刊】なりたい母ちゃんにゃなれないが 失敗たくさん、時々晴れの迷走育児録/集英社
KIDSNA編集部