フィンランドの教育事情。教育の特徴や制度、教育改革にいたる歴史

フィンランドの教育事情。教育の特徴や制度、教育改革にいたる歴史

「教育大国」と呼ばれ、世界トップクラスとも言われる高水準の教育で注目されているフィンランド。この国では、どのような理念や方法で教育が行われているのでしょうか?今回は、フィンランドの教育が目指すものや「教育改革」にいたる歴史、教育の特徴や制度についてご紹介します。

フィンランドはどんな国?

※写真はイメージ(iStock.com/pawel.gaul)
※写真はイメージ(iStock.com/pawel.gaul)
フィンランドは、スカンジナビア半島で最も東にあり、「森と湖の国」と呼ばれるように湖や針葉樹の森が数多くある国です。

女性の社会進出が進んでおり、2015年に「ジェンダー平等と差別禁止法」が制定。政界で活躍する閣僚の半数以上が女性で、2019年にはサンナ・マリン氏が当時34歳の若さで世界最年少の女性首相になっています。

また、生活水準も高く、社会保障制度や子育て支援も充実。児童手当、妊娠補助金、両親手当のほか、妊娠期から就学前まで助産師や保健師の支援を受けることができる地域も。国連の世界幸福度ランキングでは、2018年から5年連続で第1位を獲得しています。

フィンランドの教育が目指すもの

フィンランドの教育では、子どもの「個」を尊重することが目標とされています。

社会性を育てる日本では、全国統一テストの実施や学校の校則・ルールがありますが、フィンランドではほとんどなく他人と比較せずに、1人ひとりの自主性を伸ばしていくことに力が入れられています。

また、「子どもの平等」が大切な権利として掲げられており、環境や経済状況の影響なく教育費は無償。全ての子どもたちが平等に教育を受けられる環境があります。

日本でも子どもの平等について考えられているイメージはありますが、フィンランドはより徹底されており、各学校で優劣が生じずに均一のレベルを保つ制度があるほか、性別や国籍、宗教、性的指向、障がいなどによる差別は禁じられています。


出典:
南山大学ヨーロッパ研究センター報 第26号 pp.1-23
ヘルシンキ大学非常勤教授(Dosentti) 岩竹 美加子 著 「フィンランドの教育、日本の教育」
https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf

フィンランドの「教育改革」にいたる歴史

※写真はイメージ(iStock.com/Tero Vesalainen)
※写真はイメージ(iStock.com/Tero Vesalainen)
フィンランドでは、1970年代中期までは天然資源をベースとする基礎産業が中心で、ソ連の崩壊によって失業者が多い状態となっていました。

そのような問題を解決しようと1980年代以降は、教育大臣顧問オリぺッカ・ヘイノネン氏が、全国レベルで「教育変革」を実施。

必要最小限の教育ガイドラインを条件に、学校に裁量権を認め教育を自由化する新しい教育指導要領を作成し改革を行いました。

教育変革では、フィンランドの各年齢層の人々が教育を受ける人口比率が向上し、家庭の所得に影響される生徒の学習結果の格差も均一化へ。

生徒の学習評価レベルによってクラス分けするやり方が廃止され、全ての生徒が同じクラスで勉強することで生徒の学習パフォーマンスの差が縮小。国際的な生徒学習評価PISAでも大部分の生徒の成績が中間付近に分布する結果を残しています。

このような教育改革の成功によって、国内の経済産業が知識産業へシフトし、GDPに占める研究開発投資金額の割合も世界トップレベルへと達しました。


出典:
南山大学ヨーロッパ研究センター報 第26号 pp.1-23
ヘルシンキ大学非常勤教授(Dosentti) 岩竹 美加子 著 「フィンランドの教育、日本の教育」
https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf

フィンランドの教育制度とは?

フィンランドの教育制度についてご紹介します。

教育費、交通費、給食費が無償

フィンランドでは、教育費のほとんどを国が負担しています。就学前から大学院までの教育費が全額無料で、教材費用や通学時の交通費のほか給食費も1943年から世界で初めて無償化を実現させました。

これによって、家庭の環境や経済状況に影響されることなく、就学前から高校生まで無料で食べることができ、子どもたち全員が教育を受けられる権利が保証されています。

0歳から通える保育園や就学前教育学校がある

※写真はイメージ(iStock.com/Borisenkov Andrei)
※写真はイメージ(iStock.com/Borisenkov Andrei)
また有料ですが、親の就労状態にかかわらず0歳から保育園に通うことができます。

年長さん(6歳児)になると、小学校入学前の準備教育をする就学前教育学校(エシコウル)に通うことができます。保育園や小学校に併設されていることが多く、子どもたちが保育園から小学校へスムーズに移行できるよう配慮されています。

義務教育が18歳までに延長に

フィンランドの義務教育は、多くの学校が小中一貫校で、小学校6年間・中学校3年間と日本と同じ長さでしたが、2021年8月より18歳まで義務教育が延長されました。

先進国の多くの義務教育終了は15~16歳までですが、教育格差レスが掲げられ国際学力調査でも常に上位となることが多いフィンランドでは、さらなる教育の平等や高スキル人材の実現のため、義務教育を延長したようです。

高校は単位制で、大学は学士・修士課程がセット

義務教育後は、大学進学を目指す「普通高校」か、職業訓練を行う「職業高校」のどちらかに進学します。

普通高校は大学のような単位制で、職業高校では学校や職場で職業訓練を受け、就職に必要な資格の取得を目指すようです。

また、フィンランドの大学では、学士・修士課程がセットで学部の学位となるほか、博士の学位も取得できます。さらに応用科学大学(ポリテクニック)もあり、3~4年半学習・実習を行って学士号取得後に3年以上就労すると、修士課程への出願ができます。


出典:第2編 第6節 フィンランド/文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo7/shiryo/07100513/008/007.htm

出典:
南山大学ヨーロッパ研究センター報 第26号 pp.1-23
ヘルシンキ大学非常勤教授(Dosentti) 岩竹 美加子 著 「フィンランドの教育、日本の教育」
https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf

フィンランド教育の特徴

※写真はイメージ(iStock.com/Aimur Kytt)
※写真はイメージ(iStock.com/Aimur Kytt)
フィンランド教育の特徴についてご紹介します。

授業日数が日本より少ない

フィンランドの年間授業日数は、日本よりも40日ほど少ない約190日です。小学1~3年生では授業時間が半日ほどで宿題もほぼ出ないようです。

日本と比べると学校にいる時間が短いため、子どもたちは自由な時間をより楽しむことができそうですね。

また、16歳になるまで全国統一テストがなく、マイペースに勉強を進めることはできますが競争意識が育ちにくいという懸念もあるようです。

クロスカリキュラム

フィンランドの教育では、複数の教科を横断したり総合したりするクロスカリキュラムが行われています。

卒業後、実際の社会で起きる複合的な問題についても対処できるよう、各教科を連携させ知識を組み合わせることで実践的に学習します。

2016年からプログラミングが義務教育

日本では義務教育内でのプログラミング教育が、2020年度〜小学校、2021年度〜中学校、2022年度〜高等学校と段階的に必修化されていますが、フィンランドでは既に2016年8月から必修となっています。

小学1~2年生から論理的な思考を学び、小学3~6年生になると子ども向け無料プログラミング言語「scratch(スクラッチ)」を用いてプログラミングを学びます。

ボランティア追加基礎教育

フィンランドの義務教育は9年間ですが、「もっと勉強をしたり、キャリアについて考えたい」という際は、ボランティア追加基礎教育(Voluntary additional basic education)を1年追加することができます。

日本の大学では留年と呼ばれることもありますが、フィンランドでは学びの質を補うためのポジティブなものとして考えられているようです。

マインドマップを取り入れている

※写真はイメージ(iStock.com/AndreyPopov)
※写真はイメージ(iStock.com/AndreyPopov)
フィンランド教育では、紙の中心に書いた主題から放射状に線とキーワードを書いていくノート術「マインドマップ」が取り入れられています。

この思考プロセスを活用することで、子どもたちは読解力や思考力を鍛えることができると言われています。

教員の質が高い

フィンランドの教育の根底にあるのは、ロシアの心理学者 ヴィゴツキー氏が説いた、社会構成主義(social constractivism)であるとされています。

この主義に基づいた学習では、生徒自身で問題解決に取り組むことが大切とされており、サポートする先生も学習領域に精通したハイレベルな質が求められます。

職業としても教員は人気があり、小学校以上の教員になるには大学院修了の学力が求められるほか、人間力や適正が問われる厳しい審査が行われるようです。

こういった考え方を取り入れていることから、フィンランドでは「教育大国」「世界トップクラス」と呼ばれる高水準の教育が実現できているのでしょう。


出典:(7)フィンランド/文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417510.htm

出典:
南山大学ヨーロッパ研究センター報 第26号 pp.1-23
ヘルシンキ大学非常勤教授(Dosentti) 岩竹 美加子 著 「フィンランドの教育、日本の教育」
https://rci.nanzan-u.ac.jp/europe/ja/journal/item/01_%E5%B2%A9%E7%AB%B9%E7%BE%8E%E5%8A%A0%E5%AD%90.pdf

フィンランドの教育を参考にしよう

※写真はイメージ(iStock.com/JNemchinova)
※写真はイメージ(iStock.com/JNemchinova)
子どもの権利を大切にした理念で、高水準な教育を実現させているフィンランド。

どのような経済状況でも、就学前から大学院まで子どもたちが平等に教育を受けられるなど様々な点で配慮されているところは、近年世界で掲げられている持続可能な開発目標SDGsへ向けた取り組みにも通じるのではないでしょうか。

フィンランドの教育を参考に、子どもが自分自身に合った教育を受けて生き生きと成長できるとよいですね。

2022年08月22日

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