お金教育を阻む「お金を稼ぐことは悪」という考え【藤野英人】

お金教育を阻む「お金を稼ぐことは悪」という考え【藤野英人】

今、なぜ「お金教育」が必要なのか。面と向かって自分の言葉で子どもに教えることができるだろうか。今回はレオスキャピタルワークスの創業者であり、ひふみ投信ファンドマネージャーの藤野英人さんに、お金教育をおこなう前に不可欠な勤労教育との関係、家庭内でお金について話すことの意義について伺った。

2022年度より高等学校の家庭科で始まるお金教育。社会的にお金教育の必要性が高まる一方で、お金について、正しく子どもに教える自信がある人は少ないのではないだろうか。
 
もしかしたら、家族といえど「お金についてオープンに話すことは躊躇する」という人もいるかもしれない。
 
しかし、少子高齢化による社会保障負担の増加、老後2000万円問題など、これからの時代を生き抜くためには、親自身がお金教育に対する意識を変えていく必要があるだろう。
 
ノウハウやテクニックではなく、「なぜお金教育が必要なのか」が腹落ちすれば、一歩踏み出すことができるだろう。

「働くことはつらいこと」という刷り込みが、お金教育を遠ざける

ーー藤野さんのご著書『投資家みたいに生きろ』を拝読し、多くの日本人がお金についてあまりにも無知だということに対する強い危機感を感じました。
 
藤野さんは日本で投資の考えが浸透しない理由として、日本人のお金に対する意識の問題点についてさまざまなメディアでご指摘されていますが、「50%近い人がお金教育を受けたことがなく、さらに今後も受けるつもりはない」というデータがあるように、本能的にお金教育を拒否してしまう人が多いのはなぜなのでしょうか。
 
私たち親が、子どもにお金教育をする前に知っておくべき考え方を教えてください。
 
藤野英人さん(以下、藤野さん):まず、お金教育の前提として親御さんに知ってほしいのは、お金のことを考えるうえで大事なのは「勤労教育とお金教育はつながっているからこそ、セットで考えるべき」ということです。
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藤野英人:レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長藤野英人国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授を務める。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス)。(photo:ヤノヨシタカ)
「働くことってステキだよね」ということと、「働いて稼いだお金はとても価値がある」という点が腹落ちしていなければ、お金教育の根本は成り立たないんです。
 
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国などの国では、この考え方が社会の中で当然とされる雰囲気があります。ところが日本では、働くことのつらさについては語られても、楽しさや意義について語られることはあまりありません。
 
「つらいこともあるけれど、楽しいこともあって、働くことはいいこと」ということに納得してないければ、投資がいいこととは考えられない。
 
多くの人の心の片隅には「会社は必要悪」で、「会社という組織がなければ働く場所がないし、お金が得られない」から「仕方なく時間と心をすり減らして働いている」という気持ちがあるのではないでしょうか?
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※写真はイメージ(kieferpix- stock.adobe.com)
実際、「自分の会社は好きですか?」という質問をすると、「好きではない」と答える人の数が日本は世界トップクラスというデータがあり、働くことをとてもネガティブに捉えている。このことがさまざまな問題の根源になっています。
 
親も学校も、「もうすぐ社会人だね、楽しい仕事ができるよ」ではなく、「大人になったらちゃんと働かないと飯が食えないよ」とか「ちゃんと勉強しないと、いい会社に入れないよ」と脅すような伝え方をすることが多いですよね。
 
これはイコール、大人たち自身が働くことを楽しいこと、よいことと思っていないからにほかなりません。
 
これこそが、お金を稼ぐことへのネガティブなイメージや無関心な態度につながり、さらには日本が他国に対して競争力を失い、国の力が弱くなっていることの根源だと思います。

「ありがとう」を伝えることがお金教育につながる理由

ーー大人自身が自分の仕事に自信とやりがいをもって取り組めていなければ、子どもに「働くことのよさ」を伝えるのは難しそうですね……。
 
藤野さん:そして、もうひとつ重要なのが、どんな仕事も必要な仕事だからこそ、仕事をしている人に対して尊敬の念を伝えることが、実はお金教育の第一歩です。
 
たとえば、コンビニや飲食店、スーパーなどで、お金を払ってモノを買ったりサービスを受けるときに、接客をしてくれた店員さんに「ありがとう」と言っていますか?
 
黙ってお金のやりとりだけをしている人が日本には実に多く、これは世界的に見ると異様な光景です。
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※写真はイメージです(naka- stock.adobe.com)
某ハンバーガーチェーンに「スマイル0円」というサービスがありますよね。これは「スマイルに価値がない」という意味ではなく、「価値があるスマイルだけれどお金はいただきません」ということです。
 
つまり、消費者サイドもスマイルは0円です。それなのに、どうして日本の消費者はいつもあんなにイライラとしているのでしょうか。
 
親が消費者としてどんな態度をとっているのか、子どもはしっかりと見ていますよ。
 
働くことの楽しさを伝えることはもちろんですが、親が「ありがとう」や「ごちそうさまでした」と言う姿を子どもに見せることが、最大のお金教育だと思います。
 
実際、そういうシーンで「ありがとう」と言える感覚のある人が、新たなビジネスを構築したり、投資で成長する会社を探すことができるセンスを持っていると感じます。
 
ーー親が消費者として横柄な態度をとっていれば、「感謝されない(しなくてもいい)仕事がある」と子どもが思いかねません。親が感謝の気持ちを示し、どんな仕事も尊いということを身をもって教えることで、働くことにポジティブなイメージを持つことにつながっていくんですね。
 
藤野さん:はい、この感覚を持てる人は結果的に、よい友達やよい仲間に出会え、よいパートナーに出会うこともできるでしょう。
 
今、日本がどんどんきつい社会になっているのは、働く人に対するリスペクトがなく、感謝を伝える気持ちが弱いからです。
 
私は長年大学で学生たちに教えていますが、大学生と話していると、アルバイトをすればするほど「社会人になりたくない」と思うようになっていることが分かります。それは彼らが、消費者に不当に怒られたり怒鳴られたりすることが多く、傷つき、心を削られているからです。
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たとえば、とても忙しいチェーンの飲食店でアルバイトをするある女の子は、人手が足りない中で、レジとホールを兼任していますが、お客さんから「遅い」「早くしろ」とお叱りを受けるといいます。
 
そういうとき、「大変ですね」とたった一言でも共感や労いの言葉があれば、随分報われるわけですが、不条理に怒鳴られてしまうから、働くことに対するイメージはどんどん悪くなっていくわけです。
 
結果的に仕事や会社嫌いになり、生産性が落ち、給与が上がらないというジレンマに陥ります。
 
日本人は投資に偏見があることはもちろんですが、会社や仕事が嫌いな人が多いので、「株式投資は会社を応援すること。それにより、世の中をよくすること」と言われてもピンとこないし、心から賛同できないのです。
 
お金教育をする前に、まずは消費者としての自分の態度を見直し、働く人に対する感謝とリスペクトを示しましょう。そして、働く姿を見せたり、仕事の話をしたりして、働くことの楽しさを伝えましょう。会社の愚痴を言うなら子どもの前ではなく、夫婦間だけにしてください。
 
おもしろいもので、元気よく挨拶をしている子どもの親はそうしているし、挨拶していない子は親もしていません。
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※写真はイメージ(yamasan- stock.adobe.com)
親は子の鏡で、子は親の鏡と考え、お金教育以前に、大人がどう変容していくのかを考えることが、子どもの変容につながると思います。
 
お金についてのテクニカルな話はいくらでもできますし、そういう本もたくさんありますが、子どもが自立し、社会の中で調和し社会人として力を発揮することを目指すのなら、このことを理解することが必要です。
 
働くこととお金の関係を親が実践しながら、子どもと一緒に向き合っていくことが重要ではないでしょうか。

お金について語ることが親子の絆を深める

ーーお金教育の前に、勤労教育をしなければいけないというのは目から鱗でした。大人が知識を教えるというより、自分自身とも向き合わなければお金教育は成し遂げられないのですね。
具体的なお金のやりとり、たとえばおこづかいの渡し方などでおすすめの方法はありますか?

藤野さん:実は最近、6才から12才の子を持つ親のための本を準備中で、6~9才のお子さんに、ご両親と一緒にお金についてのインタビューをおこなっています。
 
多くの親御さんにインタビューをして、おこづかいに対する考え方や方法は実にさまざまであることを学びました。
 
そして、実感したのは「お金について親子で語ることは、お互いを知ることであり、愛をはぐくむことなんだ」ということ。
 
お金と愛は一般的には相反するもののように語られがちですが、たとえば、中学生になったら10万円を口座に入れて子どもに渡して、いつ引き出してもいいけれど、毎月口座残高の10%の金額をおこづかいとして渡すというご家庭がありました。
 
口座にまったく手をつけなければ、毎月1万円ずつもらえますが、10万円の元本を切り崩せば、月々もらえる額はどんどん減っていきます。
 
逆に、もらった1万円を使わないで半分口座においておけば、翌月の残高は10万5000円になり、翌月のおこづかいは1万500円もらえます。これは実に投資的な概念ですよね。
 
また、共働きで、毎月お父さんとお母さんからそれぞれおこづかい手渡しで渡しているというご家庭もありました。

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※写真はイメージ(iStock.com/Sasiistock)
毎月決まった額をなんとなく渡すのではなく、働いている人がそれぞれ協力しておこづかいを渡す。そうすることで、子どもが自分と社会(会社)とのつながりを感じたり、働くことの意味を考えたり、お互いの絆を作る機会にするという考え方が、とても素敵だなと思いました。
 
家計管理はご両親のどちらか一方がする家庭が多いかもしれませんが、「お金はどこからかくるもの」ではなく、「パパとママがそれぞれ働いていて、会社や取引先からいただいて、あなたの生活を支えている」ということが、それぞれから渡すことによって本当に腹落ちすると思います。
 
500円をどう渡そうが金額は変わりませんが、手渡すことで愛情も子どもにバトンタッチする、なかなかない視点ですよね。
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※写真はイメージ(iStock.com/maruco)
ーー日本ではとくにお金の話はタブー感があり、「給料をいくらもらっている」という話は家庭内でもなかなかしません。だから大人でさえもお金に対する意識が漠然としてしまうのかもしれないですね。おこづかいをきっかけに、オープンに話してみたいです。
 
藤野さん:親のほうが圧倒的にお金を持っているし、お金を出すのは親なので、そういう意味では親のほうが強者ですが、日本はとくに、お金の知識は大人も少なく、子どもからの質問にもほとんど答えられない親が多い。ということは、実はお金のことに関して親子は対等なんです。
 
だから、一方的に子どもに教えようと思わず、子どもを通じて親も一緒にお金のことを感じたり学んだりすることが、結果的に子どもとの絆をより深めることになると思ってください。

「愛を深める」「愛を築く」という新しい切り口でお金のことを考えようというのが、この最近の僕の考えです。(後編に続く)
 
<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部

2022年02月18日

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