子どもが「人と関わる力」を育む、親子の距離感とは

子どもが「人と関わる力」を育む、親子の距離感とは

つい、子どもがやることに口出ししすぎてしまう…と子どもとの距離感に悩んでいるママは少なくないのではないでしょうか。子どもに自主性や自信を伝えられるような親子の距離感について、おへそ保育園園長の吉村直記さんに考えていただきました。

執筆:吉村直記

1985年8月11日佐賀市生まれ。
社会福祉法人みずものがたり 理事
小規模認可園「おへそ保育園」・幼保連携型認定こども園「おへそこども園」・放課後学童クラブ「おへそ学道場」 統括園長。

自ら考え、学び、行動し、情熱を持って社会に貢献できる人づくりを日々研究している。
執筆、講演活動、空手指導、また、一男一女の父として子育てにも奮闘中。

子どもと親の距離感

子どもたちは家庭の中だけで育っているのではなく、社会全体で学び、成長しています。親以外の人間と関わり、トラブルがあったりすることで、解決の方法を学んでいきます。

子どもが自主性を持って、少しずつ自立に向かえるように導くことが、親としての大きな役割です。

しかし、子どもの環境として、子どもが「食べる」ことが「食べさせている」ことになっていないでしょうか。

子どもが「トイレに行く」ことが「トイレに行かせている」ことになっていないか、子どもが「ルールを守る」ことが「ルールを守らせている」ことになっていないかなど、子育て、保育、教育において、たくさんの見直すべき環境があるのではないでしょうか。


「親」という漢字は、「木」に「立」って「見」る、と書きます。


本来であれば、その距離感が子育てにおいてとても重要ですが、木に立って見ていた親が、木から降りてきて、子どものできることを奪ってしまい、意欲や自主性を低下させ、子どもの自立を妨げる距離になっていないか考える必要があると思います。

「親と子」だけではなく「子と社会」を意識する

子どもと社会との関わり

「親と子の接し方」という点では、比較的、学ぶ機会が多く、お母さん、お父さんも意識しているように思います。しかし、「子と社会」という点ではどうでしょうか。

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子どもから大人まで世代を超えてコミュニケーションを取る機会や、社会に関わる機会を子どもたちにどれほど提供できているでしょうか。

ひと昔前は、正月やお盆等では親戚が大人数集まったり、地域との交流が盛んに行われていたのでしょうが、現代では少子化、核家族化等の影響か、どんどん人間関係は希薄となりつつあります。


子どもたちは親や家庭だけで成長しているわけではなく、保育園、幼稚園、学校はもちろん、親戚が集まる機会や、地域の交流等、様々なきっかけで成長していきます。


人と関わる力

2016年の内閣府の調査によると、引きこもりの総数は約70万人とも言われています。そして、引きこもりの主たる原因は「人間関係」「人と関わる力」という結果が出ています。

親と子の関わりはもちろん大切ですが、今後、子どもを社会に関わらせて成長させる、ある意味では地域の大人や社会に頼る「人任せ」「地域任せ」で、多様な年齢、世代、価値観に子どもたちを触れさせる機会がとても重要になってくると思います。

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子ども自身が選択する「合宿」

当園では「合宿」と呼んでいる行事が毎年あります。

4、5歳児の園児たちが地元の少年自然の家等に一泊二日する合宿です。チームの名前、リーダー決め、当日の企画、保護者への報告等、何から何まで、子どもたちが考え、実践し、振り返ります。

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普通、家族旅行の企画は、行く場所、時間、持って行くもの等は、大人が決めてしまうものになってしまいがちです。しかし、年長さんともなれば、子ども自身が考え、企画し、準備することは少しのサポートで可能になると思います。

子どもが選択するというのは、成長においてとても重要なことです。逆に、親が「決めてあげる」ことはときに、子どもの責任感までをも奪ってしまいます。

習い事にしても、進学にしても、親が「あなたはこうしなさい」と言えば、うまくいっている時はいいのかもしれませんが、失敗したとき、自分にとって不都合なことが起きたときは、「お父さん、お母さんが決めたから」となります。

自分で選べば、「自分が改善しなければ」とか、「次は選択を間違わないようにしよう」と責任感が出てくるのではないでしょうか。


自由と責任はセット

「じゃあ、何でも自由にさせていいんですか?」という声が聞こえてきそうです。

そうではありません。自由であることには、責任がセットです。

例えば、園内を走っている子がいれば、「走るのは友達にぶつかるから、園庭で遊んできなさい」と言います。子どもたちが「好きなようにいいよ」ということだけではありません。自由には責任があります。

当園では3、4、5歳児に関しては、子どもたちが自分の言葉で、食べたい量を保育者に伝えます。ご飯やその他自分でよそえるものは自分でよそって食べます。

ただし、自分で量を決めて、選んだのだから、子どもたちには食べる責任もあります。完食できなければ、強制することはありませんが、「次は自分のお腹と相談して、食べれる量を分かるようになろうね」と言葉をかけます。


好きなようにいいよ。自由にいいよ。というのは、人に迷惑をかけてもいいよ。ということではありません。



他にも、「おもちゃを自由に使っていいよ」、「思う存分遊んでいいよ」というのは間違いないのだけど、「遊びっぱなしでいいよ」ということではありません。

子どもに任せる、自由に選択させるということは、子どもに自主性と同時に責任感を芽生えさせ、自立に向うために最も大切なことだと思っています。

子どもには「まちがえる権利」がある

ドイツでは「子どもにはまちがえる権利がある」と言われているそうです。

子育てにおいて「それはダメ!、あれはダメ!」と、子どもにやることに、ついつい口出しし過ぎてしまうことはないでしょうか。

子どもの安全を守ることは大人の役目です。でも私たち大人も、親や先生が見ていないところでやんちゃをしたり、失敗をしたり、まちがったり、いろいろな体験をして、成長してきました。


大人の私たちが、時折間違い、失敗しながら成長してきたように、子どもたちにも失敗する権利、「まちがう権利」というものがあると思います。


「失敗は成功のもと」と言われるように、失敗やまちがいというものは「こうすればうまくいかないんだ」という成功のための学びです。失敗とは「発見」なのです。

親が先回りしないように

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子どもは学びたい、遊びたい、成長したいという気持ちを持っています。その証拠に、赤ちゃんは何度も転びながら「立つ」ことを覚えていきます。

しかし、「転ぶ」という失敗がなければ、「立つ」という成功はありえなかったでしょう。人間誰しも、まちがいもせずいきなり成功することはありません。


子どもが失敗してしまったとき、まちがったときにこそ、次につなげるチャンスです。


失敗は結果ではなく、成功までのプロセス。まちがいを叱ることよりも、さらに挑戦する心を持たせ、失敗を恐れない子どもを育てる方が、よっぽど大切なことです。

親が先回りすることなく、距離感を持って子どもに接していくことは、子どもたちに自然と自主性、達成感、自信、自立を伝えることにつながっていきます。


執筆:吉村直記

Profile

吉村直記

吉村直記

社会福祉法人みずものがたり 理事・おへそグループ統括園長。 1985年8月11日佐賀県生まれ。5歳の時交通事故で父を亡くし、母に兄弟3人の真ん中として女手一つで育てられる。ロータリー財団の親善大使として派遣されメキシコ合衆国へ一年間留学。大学在学中に幼児教育に興味を持ち、関東の保育コンサルティング会社に入社。1年半で50件以上の保育園の立ち上げや運営に関わりながら乳幼児教育を学ぶ。 25歳でおへそ保育園園長に就任。現在、0歳~12歳までの子どもたち、障害を持つ子どもたちが共存する“おへそグループ” を統括。執筆・講演活動、また、一男一女の父として子育てにも奮闘中。

2017.10.20

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