コンサート、体験、遊び道具…子どもは「ホンモノ」を求めている

コンサート、体験、遊び道具…子どもは「ホンモノ」を求めている

2017.07.14

Profile

久留島太郎

久留島太郎

植草学園短期大学准教授

植草学園短期大学准教授。私立幼稚園、国公立幼稚園、公立小学校の教諭を経て現職。「NPO法人タイガーマスク基金」理事。社会福祉法人房総双葉学園理事。「NPO法人ファザーリング・ジャパン」元理事。4人の息子の父親としての立場、保育にかかわる教員としての立場、社会的養護を必要とする子どもたちと接する立場から、子どもたちが育つ「環境」を考えることをフィールドとしている。著書に『新しいパパの教科書』(学研)、『3歳までの子育ての教科書』(アスコム)。

「ホンモノ」を体験させることで、子どもはどう成長するのでしょうか。「子どもだからまだ早い」ではなく「子どもだからこそホンモノに触れさせるほうがいい」という久留島さん。イベントなどが増えるこれからの季節にぴったりのコラムです。

砂場での調査で

子どもが選ぶ、砂場の遊び道具

ある砂場で「子どもたちにどのような遊び道具がよく使われるか」を調べたことがあります。

砂場には砂場遊び用に作られた、プラスチック製の子ども用の食器や調理道具の他に、使わなくなった鍋やフライパン、台所で使われている普通の調理道具がありました。


子どもたちが遊び始めると、砂場の道具置き場から最初に無くなっていくのは、本物のフライパン(小型のもの)、本物の片手鍋(小さめのもの)、本物のおたま、あわたて、フライ返し、そして本物のザルとボールでした。

その次には、本物のフライパン(少し大きめ)、本物の鍋(少し大きめのもの・持ち手がないもの)。

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砂場遊び用に作られたプラスチックの道具が選ばれた順番は、最後でした。


この調査でわかったこと

・子どもは実際に使われている道具に魅力を感じる。

・本物でも自分の身体に合うものを選ぶ。

子どもは、ホンモノを選ぶ

手に余るものは選ばない

子どもたちは、同じフライパンでも自分が大人のように片手で扱えるものを選んでいました。同じ鍋でも両手で抱えて使うものよりも、片手で扱えるものを選んでいました。

片手に鍋、片手にお箸やフライ返しで料理をするのです。自分の手に余るものを選んではいませんでした。


子どもたちは選ぶことができる環境であれば、おもちゃの道具よりも「自分が使いやすいホンモノ」を選びます。


子どもの手つきが変わる

ホンモノの調理道具を使って遊ぶと、子どもたちの手つきは変わってきます。プラスチックの軽くて小さなフライパンだと、操作は簡単なので笑いながらでも炒め物ができます。

しかし、ホンモノの重いフライパンだとそうはなりません。目つきが真剣になります。フライパンに入れた砂や草をこぼれないように混ぜながら炒め物を作ります。ちょっと重いフライパンをもつ手には力が入ります。

そんなふうにして出来上がった料理を子どもたちは実に丁寧にお皿に分けます。そして、うまく出来たものは「翌日までとっておきたい」という気持ちが生まれてきます。


そんな真剣な眼差しは、ホンモノに触れながら遊ぶことで生まれるものではないでしょうか。


「遊び」は子どもたちの主体性を育む大切な体験です。そんな遊びに集中し、真剣に取り組むことができるために「道具」の果たす役割は大きいのではないかと考えさせられました。

子どもはホンモノを求めている

「子どもだから子ども用のおもちゃでも…」

「子どもだから危ないし…」

「子どもだからまだ早いし…」

と大人は考えるかもしれませんが、子どもたちはホンモノを求めているのではないでしょうか。ホンモノとの出合いは子どもたちの意欲を高めます。

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だからといって、すべて大人と同じものでは子どもたちの意欲を高めることは出来ません。砂場遊びで子どもたちが好んで選んだのは「自分の手に合うもの」でした。そこからは、ホンモノであり、かつ子どもたちが自分の力で操作できる、


自分の心と体で受け止めることができるモノ


のほうが良いことが分かります。

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吹奏楽団のコンサートで

以前、ストリートで吹奏楽団の迫力ある演奏を聴いたことがあります。そのときに、金管楽器の大きな音にはびっくりして泣いてしまうに違いない赤ちゃんが、少し離れたところから保護者といっしょにじっと音のする方を観ながら聴いている姿を見ました。


その保護者は、我が子が音楽を心地よく感じる距離が分かっているから、その場所にいるのだろうなと感じました。


我が子が音を心で受け止めることができるように、ホンモノとの距離をデザインしていたのです。


吹奏楽団のコンサートの最前列で観ていたら、その赤ちゃんはとても楽しむことなんて出来なかったでしょう。

野外フェスで

子どもの安心と安全をデザインする

規模の大きな野外フェスなどでは、イヤーマフをしながら親子で音を楽しむ姿も多く見られるようになりました。

親子で野外フェスを楽しむためには子どもたちの耳を守るイヤーマフなどを使うことで、子どもの安心と安全をデザインすることができます。そうすることでホンモノを楽しむことができるのです。

(ヨーロッパの野外フェスティバルなどでは、音源に近い関係者は大人でもイヤーマフをしなくてはいけないという決まりがあるようです)


大人から「楽しみの作法」を学ぶ

私自身、野外でのキャンプフェスが好きで、息子たちといっしょに行くこともあります。自然の中でプロフェッショナルの音を聴くとき、子どもたちは自分で心地よい音が耳に届く場所にちゃんと行きます。

そして、大人に混じりながら音の楽しみ方を身につけていきます。曲の途中でその場を離れず曲は最後まで聞いてから動く、ステージが終われば拍手をする、ゴミは捨てないなど、周りの大人の振る舞いを見ながら楽しみの作法を学んでいきます。


ホンモノに触れた体験

自然の中で体験したパーカッションのワークショップでは、息子たちも大人に混じりながら、いっしょに打楽器の演奏を楽しむことができました。

小さい頃にそんな体験をしてきた息子は、現在中学校で吹奏楽部に入りパーカッションを担当しています。森の中でプロの演奏家といっしょにホンモノのパーカッションに触れた体験が「ホンモノのおもしろさ」を感じさせてくれたのかもしれません。

子どもに寄り添ったホンモノ体験を

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ホンモノを子どもたちの側に引き寄せることはそう難しくはありません。大切なのは子どもの安心と安全です。ホンモノに触れさせたいなと思うとき、その点を考慮すると子どもたちの心に残るものとなるでしょう。

また、子ども向けの歌舞伎や落語、子ども向けのクラシックコンサートなど、子どもたちに寄り添ったホンモノのイベントなどもたくさんあります。ぜひお子さんといっしょにホンモノを楽しんでみませんか?


執筆:久留島太郎

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久留島太郎

植草学園短期大学准教授。私立幼稚園、国公立幼稚園、公立小学校の教諭を経て現職。「NPO法人タイガーマスク基金」理事。社会福祉法人房総双葉学園理事。「NPO法人ファザーリング・ジャパン」元理事。4人の息子の父親としての立場、保育にかかわる教員としての立場、社会的養護を必要とする子どもたちと接する立場から、子どもたちが育つ「環境」を考えることをフィールドとしている。著書に『新しいパパの教科書』(学研)、『3歳までの子育ての教科書』(アスコム)。

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