じつは見つけないほうがいい「がん」もある…多くの人が知らない「過剰診断」がもたらす大きな害
検診を受ければ受けるほどいいわけではない
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がん治療に関しては、よく早期発見が何より大切だといわれる。しかし、内科医の名取宏さんは「あまり知られていないが、じつは発見や治療をしなくてもいいがんもある。そうしたがんを診断する『過剰診断』には大きな害がある」という――。
一生にわたって症状が出ない「がん」
平均寿命の長い日本人の死因でもっとも多いのは「がん」です。多くのがんは治療しなければ時間とともに進行し、他臓器に転移し、やがて生命を脅かします。しかしながら、全てがそのような経過をたどるわけではありません。
がんの中には、非常にゆっくり進行したり、進行が止まったりして、一生のあいだ症状を出さないままのものもあります。こうした治療をしなくても症状を起こさない病気を診断してしまうことを「過剰診断」と呼びます。
「がんは治療しなければ必ず進行して命を奪うものだ」という誤解は根強く、過剰診断という考え方は一般には受け入れにくいかもしれません。しかし、過剰診断は、医学的にもきちんと認められている概念です。国際的な医学論文データベースでも正式な項目として扱われており、専門家のあいだでは共通認識になっています。
過剰診断は、「偽陽性」や「誤診」とは違います。偽陽性とは、実際はがんではないのに一次検査でがんの疑いありと判定されること。誤診とは、がんではないのに誤ってがんと診断したり、逆にがんなのに誤ってがんではないと診断したりすることです。これらと違って過剰診断は診断自体は正確で、病理検査でもがんと診断されます。
近藤誠氏の「がんもどき」理論とは違う
こうして「治療しなくてもいいがんがある」というふうに書くと、近藤誠氏の「がん放置療法」が正しかったと思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。
近藤氏は、すべてのがんは「放置しても転移しない『がんもどき』」と「発見時点ですでに転移している『本物のがん』」のどちらかに属するとし、それ以外の中間的な存在を認めませんでした。だからこそ、がん検診もがん治療も必要はない、副作用のある「抗がん剤」は不要だと主張したのです。
一方、標準的な医学の見解では「治療しなくても症状を起こさないがん(=過剰診断)」と「発見時に治療しても予後が改善しないがん」のほかに、「早期発見して転移・進行する前に治療を行えば予後を改善できるがん」も存在します。何しろ、公費で受けられるがん検診があるのは早期発見・早期治療することで救えるがんもあり、科学的に有効だと認められているからです。
近藤誠氏の主張は、個人的な解釈に基づくもので、国際的な医学の常識や科学的根拠とは一致していません。主要な医学会や公的機関はいずれも、近藤氏の「がんもどき理論」を支持していないのです。





























