なぜ大麦は小麦より"小さい"のに大麦なのか…植物学者直伝「居酒屋でビールを飲みながら語れるうんちく」
ビールの原料・大麦の固い殻を破る"画期的な方法"とは
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居酒屋や食卓で見慣れたビールは大麦から造られている。小麦のほうがよく扱われているのに、なぜなのか。植物学者の稲垣栄洋氏は「大麦からビールが製造されるのにはれっきとした理由がある。小麦よりも扱いにくいものの、それをクリアする珍しい特徴がある」という――。 ※本稿は、稲垣栄洋『うまい酒はどのようにできるのか』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
種類が非常に多い麦類
私の目の前によく冷えた生ビールのお代わりが運ばれてきた。
ビールジョッキを見ると、麦の穂がデザインされている。
ビールは「麦酒ばくしゅ」と呼ばれる。ビールは麦から造られる。そんなことは常識だ。
ただし、麦にも小麦や大麦など、いろいろと種類がある。
麦はなじみのある穀物だが、その分類は意外とややこしい。
「ビール麦」と呼ばれる麦がある。
麦の仲間には小麦や大麦、ライ麦、エン麦、ハト麦などがある。じつは、ビール麦と呼ばれるのは、大麦の一種だ。
数ある麦の仲間のうち、世界で多く栽培されているのは、小麦と大麦である。
学生時代の苦い思い出がある。
植物の観察会に参加したときのこと、こぼれた種が芽を出したのだろうか。道ばたに麦が穂をつけていた。ある人が、方言なのだろう、これを「おのればえ」とカッコいい言い方をして指差した。
私は農学部の学生だったので、いっしょにいた大人たちが「この麦の種類は何?」と聞いてきた。
私は授業で習ったように、小麦には「かわ麦」と「はだか麦」があり、大麦には「六条大麦」と「二条大麦」があると説明した。また、お米に「もち米」があるように、大麦にも、もち性の「もち麦」があることも説明した。
習ったことをすべてしゃべり終えると、みんなは私に聞いてきた。
「それで、結局、この麦は何麦なの?」
私はわからなかった。麦の実物を間近で見るのは初めてだった。わからないから、知っていることをすべてしゃべっていたのだ。
今ならわかる。
今、思えば、それは小麦だった。
実地を伴わない座学で習っただけの知識では、何の役にも立たないと思い知らされた経験だった。
小麦より“小さい”大麦
大麦と小麦は、見た目がまるで違う。
大麦は大きい麦と書くが、実際には、穂は小麦よりも小さい。
実際には、小麦は小さい麦ではなく、「古くからある古麦」や「粉にする粉麦」に由来するとも言われている。とにかく、小麦は小さくはないのだ。そして、小麦に対して、もう一方の麦は対になるように「大麦」と名付けられたと考えられている。
ビールは大麦から造られる。
小麦のみからビールは造られない。小麦と大麦は用途がまるで違うのだ。
私たちの食卓を見回してみると、多くのものが小麦から作られている。
パンも小麦から作られるし、うどんやパスタも小麦だ。お好み焼きやたこ焼きなども、小麦から作られる。
小麦から作られるものは、すべて小麦粉という粉から作られるのが特徴だ。
米は粒のまま食べるが、小麦は粒のままでは食べない。粉にして食べるのが普通だ。
小麦を粉にして食べるのには、理由がある。





























