うまい日本酒の原料=高価なブランド米ではない…酒米にあって食用の米にない「ちょっとしたもの」
光を当てると違いがよくわかる
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日本酒は「山田錦」や「雄町」などの酒米から造られる。これらの米は食べるとおいしくないが、なぜ酒造りには適しているのか。植物学者の稲垣栄洋氏は「コシヒカリやあきたこまちなどの米にはない特徴がおいしい酒を造る」という――。 ※本稿は、稲垣栄洋『うまい酒はどのようにできるのか』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
なぜコシヒカリではなく山田錦なのか
米の美味しい米どころと呼ばれる場所は、お酒が美味しいというイメージがある。
米は、コシヒカリやあきたこまちなど、ブランドの銘柄がある。
ところが、私が学生時代に飲んでいたお酒は「雄町おまち」という当時の私は聞いたことのない米の品種を原料にしていた。
日本酒を飲んでいるとよく聞く米の品種が「山田錦」だ。しかし、スーパーマーケットの米売り場で「山田錦」を見ることはない。
雄町や山田錦は、酒を造るための「酒米さかまい」と呼ばれるものだ。
コシヒカリなどの普通の米からも、日本酒は造ることができるが、酒を造る専用の酒米と呼ばれるものもあるのだ。
酒米は、私たちがふだん食べるお米とは違う。
日本酒は酒米から造られる。
しかしそもそも、酒米とは何だろう。ふだん食べている米と何が違うのだろうか?
美味しい酒米とは、どのようなものなのだろう。
それに、酒米がそんなに美味しいのであれば、どうしてコシヒカリのように炊いて食べないのだろう。
色々と疑問が湧いてきた。
ここは、酔った頭で整理してみよう。
酒造りにおける米の役割
日本酒を造る作業においては、こうじ菌が米を分解し、作られた糖を酵母菌がアルコール発酵する過程で、さまざまな風味や香りが作られる。
よくよく考えてみると、日本酒を造る過程で、米の味は、日本酒の味に直接、影響を与えていない。
米はこうじ菌のエサでしかないのだ。
ということは、日本酒づくりに求められる「優れた米」は、人間にとって優れている必要はない。それよりも、こうじ菌にとって「優れたエサ」であることが大切なのだ。
近年、気候変動による夏の猛暑で、米の品質低下が問題になっている。
その大きな原因が、高温障害による白未熟粒しろみじゅくりゅうの発生である。
夏の太陽の下で、イネは光合成を行ない、糖を生産する。そして、夜になって涼しくなると、葉で作られた糖は、稲穂に移動して、デンプンとして蓄えられるのである。
つまり、昼間は気温が高くて、夜は気温が下がると、糖がたくさん生産されて、デンプンが効率よく蓄えられる。盆地や棚田が、お米が美味しいと言われるのは、そのためである。
ところが、夜の間も気温が高いと、イネは激しく呼吸をする。そして、せっかく生産された糖を消費してしまうのである。そのため、暑い夜が続くと、イネは米粒にデンプンを蓄積することができなくなる。そして、米粒の中にすき間が生じてしまうのだ。





























