熟年再婚10年のうち半分は認知症介護だったのに…遺言書を認めない義息たちとの相続争いの一部始終
死後離婚で戸籍抄本に「姻族関係終了」と記されるまで
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なぜ、熟年再婚で相続問題が起きやすいのか。朝日新聞取材班は「実家や金融資産は何十年もかけて築き上げた財産だが、死別などで残された親が再婚すると、数年一緒に暮らしただけの再婚相手がその半分を相続して争いになるケースが多い」という――。 ※本稿は、朝日新聞取材班『ルポ 熟年離婚 「人生100年時代」の正念場』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
子どもの結婚を見届け58歳で離婚
「将来、あなたの隣にいるのは誰かな?」
埼玉県の68歳の女性は約3年前、交際していた7歳下の男性にそう問いかけた。意を決してのプロポーズだった。照れくさかったのか、男性は返事の代わりに女性を指さした。ともにバツイチ。二人を結びつけたのはマッチングアプリだった。
女性の最初の結婚は23歳のとき。ケチで見えっぱりな元夫との生活が嫌になり、38歳で別居を始めた。
二人の子どもの結婚を見届けて58歳で離婚。パートで週5日働き、経済的には困っていなかったが、還暦を前にして独り身の寂しさが募った。そんなとき、友人から「運命の相手を世界中から探さないでどうするの?」とアプリを勧められた。
恐る恐る「マッチドットコム」というアプリに登録してみた。すると、毎日10人ほどの男性からメッセージが届いて驚いた。
アプリに入れた「婚活」「初婚NG」「子なし希望」
当初の気分は「恋活」。一時期は15歳下の男性と真剣に交際したが、同居は無理と言われ、気持ちが離れた。
求めているのは、残りの人生を共にするパートナー。そんな自分の気持ちに気づき、複数のアプリの条件欄に「婚活」「初婚NG」「子なし希望」と書いて、出会いを重ねた。
体が目当ての人はすぐに会おうとする。夜や土日のメッセージに返事がない人は既婚者の可能性が高い。身長を高めに偽ったり、別人の顔写真を使用したりと、アプリ上のやり取りには「ワナ」も潜んでいた。
パートナー選びの基準は「ありのままの自分でいられる相手」。それが四人目の交際相手だった現在の夫だ。イケメンではない。経済力も高いとはいえないだろう。それでも最初のデートで6時間も話し続けたほど、居心地が良かった。
2年弱の交際を経て、66歳で婚姻届を出した。気持ちは若くても、自分も夫もほどなく高齢期に入る。「お互い健康でいられるように」「選んでくれてありがとう」。そんな気持ちを込めて、左手の結婚指輪をなでる。