大学リーグでまさかの2部転落…三笘薫を育てた筑波大蹴球部監督がどん底でメンバーに語りかけたこと
たった1年で選手の自主性が開花した理由
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小中学生の学力低下が明らかになった今、子どもを伸ばす教育法とは何か。サッカーの三笘薫を指導した筑波大学サッカー部の小井土正亮監督など、有名選手を指導したコーチに取材をした島沢優子さんは「大人はこれをやれ、辛抱強くやれと指示しがち。すると子どもは自分から必死に頑張る機会を得られず、大事なものを奪ってしまう」という――。 ※本稿は、島沢優子『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。
筑波大蹴球部の小井土監督が重視する「力」
筑波大蹴球部では、年度初めにミッション、ビジョン、アクションをベースとする組織のあり方を全員で話し合い、チームのフィロソフィー(哲学)とバリュー(存在価値)を自分たちの言葉で表現する。こうして小井土正亮監督が丁寧に整備した環境は、三笘薫にとって向き合うべき課題を言語化するトレーニングになったに違いない(第1回参照)。
「自分を客観視し、それを言語化し、課題を修正するために必要なアクションを定義づけて実行する。そのサイクルをまわす力が飛び抜けていましたね」
三笘のその力を小井土は「自分を更新し続けるスキル」「自分を高めていくスキル」と表現する。
「それを身につけるプロセスを僕は見てきたわけです。だから27歳(取材当時)になった三笘も、今のプレミアリーグでの課題に対して、1年後、2年後にこうなりたいからこれをするという努力をしていると思います」
そもそもサッカーは、味方と連動しながら2手先、3手先を想像するスポーツだ。蹴球部のなかの自分、日本および世界のサッカー界における自分。それらを「空間認知」する視野を持たなくてはならなかった。
「自分の人生という空間を見るスキルは(大学の)4年間で養われたんでしょう。壁にぶち当たらなければ、もしかしたら彼自身何も考えなかったかもしれません」
ハードな自主練をする三笘を止めようと…
小井土が語ったように、試合に出られないという逆境が、三笘に成長し続けるスキルを与えたとも言える。もがいて、あがいて、何とかしたいと自ら行動を起こしたからこそ道は拓ひらけた。三笘はピンチをチャンスに変えたのだ。
小井土は三笘に何ら指示を与えなかった。ああしろこうしろといった命令をしないどころか、自主練を止めようとした。
三笘は1時間半の全体練習の後、必ずと言っていいほどドリブル1対1の自主練に取り組んだ。試合前日だろうが、雨が降ろうが、寒かろうがやる。ほかの選手が終了後に地面に座り込むようなハードトレーニングの後でもやり続けた。