5年もの「リニア遅延行為」も反省の色はまるでなし…知事交代後も過ちを頑なに認めない静岡県の「無責任体質」
いずれJR東海との間に致命的な禍根を残す
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5年間も棚上げされていたリニア工事の手続きの一つにようやく見通しが立った。ジャーナリストの小林一哉さんは「表向きは進んでいるように見えるが、静岡県は川勝知事時代の反省を何一つ行っていない。このまま進めば、JR東海との間にいずれ大きな禍根を残す」という――。
5年越しにリニアトンネルの準備工事に進捗
リニア南アルプストンネル静岡工区(8.9キロ)工事の早期着工を踏まえ、JR東海の水野孝則・副社長が8月1日、静岡県の平木省・副知事を訪問し、トンネル本体工事の準備段階とするヤード(工事の作業基地)用地の拡張を要請する文書を手渡した。
ヤードの準備工事といえば、5年前、当時の金子慎JR東海社長と川勝平太知事との面談をきっかけに、JR東海と静岡県の間で激しいやり取りが続いた因縁のテーマだ。
川勝知事が準備工事を認めなかったことで、JR東海は「2027年開業は延期せざるを得ない」と表明し、新聞、テレビは「静岡県がリニア開業を遅らせた」と大騒ぎした。
この準備工事を認めなかったことがさらなる「静岡悪者論」を生んでしまった。
しかし、今回静岡県はJR東海の「5年越しの再提出」をあっさり認める方針だ。
まず当時、いったい、何があったのかを振り返る。
川勝知事時代に前言を翻した
2020年6月26日、金子社長が静岡県庁を訪れ、川勝知事にトンネル本体工事以外のヤードの準備工事を認めてもらうよう要請した。準備工事には「トンネル掘削は含まない」と明記されていた。
川勝知事は「自然環境保全条例は5ヘクタール以上の開発であれば協定を結ぶ。県の権限はそれだけである。条例に基づいて協定を結べばよい。活動拠点を整備するならばそれでよいと思う」などと述べ、いったんはヤードの準備工事を認めた。
ところが、その約1時間後に再び囲み取材を行い、「自然環境保全条例に基づいて準備工事を認めない」と前言を翻してしまった。
理由として、準備工事に斜坑、導水路、工事用道路の坑口整備(樹木伐採や斜面補強)、濁水処理等設備の設置などを含めていたことを問題にした。
静岡県は、樹木伐採や斜面補強などをトンネル本体工事の一部とみなして、準備工事に「ノー」を突きつけたのである。