聞こえのいい石破首相「地方再生2.0」に騙されてはいけない…これから日本各地で確実に起きる最悪のシナリオ
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埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故は、日本に衝撃を与えた。安心・安全が魅力だった日本の各地で相次ぐインフラの老朽化。公共投資を担うはずの政府は、なぜ歯止めをかけられないのか。政府が語らない不都合な現実を、西田・安田両氏が語る――。
50年前に整備されたインフラが一斉に老朽化
【西田】1月末に埼玉県の八潮市で道路が突然陥没し、トラックが転落するという不幸な事故がありました。日本では高度成長期に多くのインフラが整備されたため、道路や橋梁、上下水道などのインフラが一気に「耐用年数」を迎える時期に差し掛かっています。八潮市の事故はその厳しい現実を、目の当たりにさせられるものでした。
【安田】映像を見る限り、現場では前触れもなくいきなりドカンと道路に穴が開き、トラックが避けられずに落ちていきました。こうした事故は事前の点検や補修で未然に防ぐのが理想ですが、老朽化した下水道管の管理などをしっかりしていないと、あのようなことが唐突に起こるのかと驚きました。
【西田】もとはそれほど大きな穴ではなかったものが、どんどん広がっていく様子は恐ろしかったですよ。それに埼玉の八潮って首都のお膝元であり、物流の要衝でもあるわけでしょう? 安心と安全第一をブランドにしてきた日本のど真ん中で起きたことも衝撃です。
【安田】インフラの維持管理について考えていて思うのは、東日本大震災のあった14年前などと比べても、時代に質的な変化が生じているのではないか、ということです。例えば能登半島地震の復旧の遅れも、以前であれば「何でこんなに時間かかるんだろう」という声が国民の間にもっと広がったのではないかと感じます。
【西田】地方と都市の関係そのものが、ここ10〜20年で変質してきたのを感じます。あと、近年はデフレ期からインフレ期への移行が進み、その変化に拍車がかかっているのではないでしょうか。インフラの復旧や震災の復興が進まない背景には資材の高騰がありますし、人手不足も深刻です。工事を担う人材確保が難しくなっていることは、大阪万博の工事の遅れといった形で政治的な話題にもなっています。大阪維新の会は「無関係」と言っていますが、そんなはずはないわけで。
【安田】確かに西田さんの仰る通り、インフラの老朽化の問題は、インフレや人材不足といったマクロ経済の問題とセットで考える必要がありそうです。
【西田】そこで思い出すのが2009年頃、民主党政権が打ち出した「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズです。当時は僕も「民主党、いいじゃないか」と思ったものですが、今ではそんな悠長な話ではなくなってしまった、とつくづく思いますよ。
【安田】そうですね。ただ、民主党政権の誕生とは関係なく、そもそも日本での社会インフラへの投資は大幅に減少しているんですよ。1970年代から80年代にかけては、GDPの約35〜40%がインフラ投資に回されていました。しかし、現在はその割合が25%程度まで低下しています。
【西田】日本全体のインフラが十分ではなかった時代、あらゆる整備が一気に進められましたからね。そのツケが50年を節目に回ってきている、と。根本祐二先生の『朽ちるインフラ』そのものです。
【安田】はい。本来ならば、老朽化したインフラの更新や維持管理には十分な投資が必要です。しかし、GDP比で40%が25%まで減ったということは、単純計算でかつての60%程度の規模でしか、インフラの更新や維持に予算を割けていないことになります。
【西田】老朽化への対応が追いつかない現実に、僕らはいま直面している。八潮の陥没事故も、まさにその問題がはっきりとした形で現れた一例でした。
【安田】他方で、耐用年数を迎えつつあるインフラを徹底的に点検・補修するとなると、現在のGDPに占める投資比率では相当に厳しそうです。一国の経済活動の中でインフラ投資にかける力が大きく変化してきたという点は、今後の社会課題として押さえておくべきポイントでしょう。
【西田】インフラの維持管理といえば公共事業ということになりますが、その費用対効果の考え方も昔とはかなり変わってきているようですね。