「中川政七商店」悩まない現場づくりでV字回復…創業家以外から抜擢の女性社長「儲かっても絶対やらないこと」

「中川政七商店」悩まない現場づくりでV字回復…創業家以外から抜擢の女性社長「儲かっても絶対やらないこと」

なぜ、老舗のトップに創業家以外初の女性が選ばれたのか。中川政七商店の第14代社長、千石あやさんは「打診を受けた時、最初は一瞬、冗談だと思った」という――。

“威厳”ではなく“対話”する社長

中川政七商店といえば、「創業300年の老舗」という冠がまず頭に浮かぶ。だが今、それだけでは語りきれない変革が、静かにこの企業に訪れていた。

「いやいや、冗談ですよね?」

14代社長の千石あやさんがそう言ったのは、2018年。13代中川政七氏から社長継承の打診を受けた時のことだ。千石さんは本気で一瞬、冗談だと思ったらしい。

2011年、千石さんは大手印刷会社から中川政七商店に転職した。最初はスーパーバイザーとして小売り現場を見ていたが、その後、生産管理、社長秘書、商品企画課課長、そしてブランドマネジメント室室長と、社内を縦横に“渡り歩いた”。思えば、先代社長の次のバトンの思惑が効いていたのだろうか。

「いいえ、そんなことはありません。その時々の会社の事情で、その都度必要な場所に配置されただけです」

千石さんはそう言い切った。けれども、“その時々の事情”は結果として実を結ぶ。多様な部署を経験したからこそ見える、最適解の視点。現場と経営、ブランドと流通、ビジョンと利益。そのバランスをつなぐ目を自然に養う場となる。

「社長を中川から私に変えるというより、組織自体を変える必要があったんです。もはや一人の社長が全体を把握することは不可能な規模に組織が育っていました。ビジョンの達成に向けそれぞれの部署が理想を描き、課題を抽出し、戦略を立てて自律的に動く。そんな自律分散型の会社をつくる上での事業承継です」

社長の“威厳”ではなく、現場との“対話”で組織を動かしていくこと。そうした持続性を語る千石さんの顔には、どこか職人にも似た穏やかな表情があった。

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3000点揃う商品を楽しめる中川政七商店奈良本店内の千石あや社長

「ビジョンが勝つ」ことが原則

社長就任後、千石さんが最も重視してきたのが、ビジョンの達成だ。

「中川政七商店は『日本の工芸を元気にする!』をビジョンに掲げています。これはお題目ではなく、会社の存在理由そのものなんです」

どれだけ収益性が高い提案でも、どんなに優秀な人材でも、ビジョンに繋がらなければ“採用しない”。社内はそう徹底されている。

「中川政七商店には、ビジョンに共感し、それに納得した者たちが集まっています。ビジョン達成に向けて、現状の課題を設定し、精度高く解決する。そうすれば、ビジョン達成のスピードが上がる。それに集中することで、判断に迷いがなくなりました」

とはいえ、いくら理想を語っても、利益が出なければ会社は潰れてしまうのではないか。

「もちろんです。ですがうちは『利益よりビジョンがギリギリ競り勝つ』ことが、会社全体の共通認識です」

千石さんが数々の現場で学んだのは、単なる美談のみでは「工芸は生き残れない」という現実だった。だからこそ、と千石さんは言う。

「会社のスタンスとして、『ビジョン:利益=51:49』と決めています。つまり利益度外視ではないのです。ただ、利益がビジョンを超えてしまうと、会社の軸がブレる。私たちのような理念型の組織では、それが命取りになってしまいます」

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2025.06.02

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