「報道の自由度」世界66位の日本に欠けているもの…ニュースの現場が「上からの圧」に屈するメカニズム
トランプとイーロン・マスクが組み「新しい右傾化の時代」が到来
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国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が2025年5月2日に発表した「報道の自由度ランキング」で日本は前年より4つ順位が上がったものの66位。アメリカのシンクタンクでジャーナリズムを研究した柴山哲也さんは「日本で報道の自由を妨げているのは、寡占的な広告会社だという研究がある」という――。 ※本稿は柴山哲也『なぜ日本のメディアはジャニーズ問題を報じられなかったのか』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
「国境なき記者団」が指摘した「新しいタイプの危機」
今、世界の民主主義国に蔓延し始めている「新しいタイプの自由の危機」と全体主義への警告が、国境なき記者団によって表明されていることを書いておきたい。
日本も含め先進諸国では既成メディアの信頼度が下がり、「フォックス・モデル」と言われる新興の右傾メディアの台頭やSNSとリンクした新しいタイプのメディアが大きな影響力を振るうようになったという点だ。
対策しても「どれくらい減るかはわからない」
国際博覧会(万博)協会副会長でもある大阪府の吉村洋文知事は5月21日の記者会見で、
「不快に思われる方も多く出ている。私も万博会場に行き来するなか、ユスリカが多くいるのは感じている。看過できないと思った」
と述べ、その対策として、
「アース製薬の社長さんに連絡をして、御社の知見をもって、ゼロは難しいかもしれないが、できる限りの対策に協力してほしいと依頼をし、協力をいただけることになった」
と、大阪府と包括連携協定を結んでいるアース製薬に協力要請したことを明らかにした。
ただし、吉村知事はこうも言った。
「自然界のことなので、どれくらい減るかはわからない」
アース製薬では同日、ユスリカ対策のため製品を万博協会に提供したことを明らかにしている。だが、当面はユスリカが寄ってこないようにする防虫製品が中心で、虫の発生自体を抑える対策は、現地調査をしてから検討していくという。
第一次トランプ政権時代のアメリカでは、ニューヨーク・タイムズやCNNテレビなどの影響力ある既成の主要メディアのニュースに対して、トランプ氏が「彼らの報道はフイクニュースだ」と攻撃を仕掛けてきた。アメリカではファクトチェックが重視されるようになり、「フェイク」をめぐって政府とメディア間でバトルが繰り返された挙句、既成メディアはおおむね「反トランプ」とみなされるようになった。
SNSが増幅している「右傾化メディア」の広がり
一方、国境なき記者団によって、報道の自由の阻害要因と指摘された「フォックス・テレビ(FOX)」は、世界のメディア王と言われるルパート・マードック氏がオーナーだ。トランプ氏の攻撃に対する既成メディアの混乱に乗じて、新興のフォックス・メディアが親トランプの立場に立ち、共和党支持の保守系世論を味方につけ、ツイッターやSNSの言論戦に参加してきた。
SNS上には真偽不明な情報が混在しており、政治的、イデオロギー的な対立だけでなく、報道が伝える「事実(ファクト)」に対する懐疑や不信感がアメリカ社会に増大し、アメリカ世論の二極分化が促進された(第二次トランプ政権はこうした米国の世論の分裂と混乱の中で生まれた)。
フォックス・モデル現象とは、新時代に現れた右傾化メディアの普及という意味だが、これがSNSメディアによって増幅され、フェイクニュースを含む情報回路の広がりの結果として、世論の分裂が一層加速したというわけだ。
確かにトランプ氏のツイッター投稿はアメリカの右派勢力へと直接届き、2021年1月6日の米国議事堂襲撃事件の右派勢力の動向に影響したと伝えられている。司法当局もこれを問題視した。しかし、トランプ氏のツイッターアカウント凍結事件後、ツイッター社を買収してXと名を変えた大富豪のイーロン・マスク氏はトランプ氏のアカウント凍結を解除し、大統領選ではトランプ氏を支持、2024年11月大統領選挙でトランプ氏は民主党のハリス副大統領に圧勝した。マスク氏の勝利への貢献度は高かった。