社員がよく寝る会社ほど稼いでいる…慶大教授が分析する「睡眠時間と企業収益の驚きの関係」
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「24時間戦えますか」という言葉が流行したように、かつての日本では長時間労働が美徳とされてきた。しかし実際には「長時間眠ること」が企業の利益率向上につながることが明らかになった。睡眠時間と業績の関係を最新データが解き明かす。
社員がよく寝る会社はガッポリ稼いでいる
日々暖かさを感じるようになってきて、この季節には仕事中にも眠気がやってくることがあります。心身ともにリラックスした心地よさからくる自然な眠気ならいいのですが、仕事が忙しすぎることによる睡眠不足が原因なら問題かもしれません。
OECDの国際比較データによると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分。アメリカ(8時間51分)やフランス(8時間33分)と比べると、1時間以上も短いのです。
企業でデスクワークをしている人々に絞れば、その傾向はさらに顕著です。日経スマートワークプロジェクトが、上場企業に勤めるホワイトカラー層を対象に行ったインターネット調査によると、平均睡眠時間は6時間半ほどしかないことがわかりました。一般的な日本人の平均よりも1時間近く短いのです。
企業ごとに睡眠時間の差が大きいことも明らかになっています。睡眠時間の長さで上位10%と下位10%を比較すると、その差は0.9時間(54分間)もあります。どの企業に勤めるかによって、睡眠時間に大きな違いが生じているのです。
従業員の睡眠不足は、生産性や集中力の低下を招き、企業の業績にも影響を及ぼします。睡眠時間と睡眠の質(10段階自己評価)を調査し、企業業績との関係を分析したところ、睡眠時間が長い企業ほど利益率が高いという傾向がはっきりと明らかになりました。
従業員の睡眠時間の長さでグループ分けを行うと、睡眠時間が短い企業ほど利益率が低く、長い企業ほど利益率が高い傾向が確認されています。これは睡眠の質についても同様で、睡眠の質が高い企業ほど利益率も高いことが示されました。
具体的には、睡眠時間が上位20%の企業は、下位20%の企業よりもROS(売上高利益率)が1.8~2.0ポイント高く、睡眠の質が上位20%の企業も1.3~2.4ポイントの差がありました。
翌年度の業績も、睡眠時間が長い企業ほど利益率が高くなる傾向が確認されています。企業ごとの特性を統計的に除外しても、この関係は変わらず、睡眠の確保が業績向上に寄与する可能性が示唆されています。
さらに、因果推論の手法による検証でも、睡眠時間が長いほど利益率が向上し、1年後の業績にも良い影響を与えることが確認されました。「利益率が高い企業だから、従業員もよく眠れるのではないか?」という逆の因果関係についても、調査では時点をずらした分析や企業ごとの変化に着目し、この可能性を排除する試みを行いました。
因果関係を完全に証明することは難しいものの、睡眠時間の長さが利益率向上に寄与する可能性は極めて高いと考えられます。
また、多くの企業では健康診断の問診票で「十分な睡眠が取れているか」をチェックする項目が設けられています。健康経営の一環として、従業員の健康データを指標化する取り組みも進んでいます。その中で、睡眠を十分に取れている従業員が多い企業では、業績が安定している傾向が確認されています。
このように、異なるデータセットを用いた複数の分析でも、従業員の睡眠と企業業績の間に強い関係があることが明らかになりました。睡眠は単なる個人の健康問題ではなく、企業全体の業績にも影響を与える重要な要素であると言えるでしょう。