【てぃ先生×三浦瑠麗②】家事分担が上手くいかない根本的な理由。男女平等の実現にも繋がる、子どもの教育に必ず入れるべき内容とは

【てぃ先生×三浦瑠麗②】家事分担が上手くいかない根本的な理由。男女平等の実現にも繋がる、子どもの教育に必ず入れるべき内容とは

現役保育士のてぃ先生と、国際政治学者であり一児の母でもある三浦瑠麗さんが「子育て支援政策」「母親のキャリア」をテーマに対談。後編は、男女平等の社会を目指すための家庭や子育てのあり方について伺いました。

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現役保育士。SNS総フォロワー数は180万人を超え、保育士としては日本一の数を誇る。育児アドバイザー、顧問保育士、講演活動、メディア出演なども多数。著書は『子どもに伝わるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』(ダイヤモンド社)など。
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1980(昭和55)年、神奈川県生まれ。国際政治学者、シンクタンク山猫総合研究所代表。東京大学農学部卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科修了。国際政治学で博士(法学)号を取得。『孤独の意味も、女であることの味わいも』(新潮社)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)など、著書多数。第13回ベストマザー賞を受賞。

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【てぃ先生×三浦瑠麗①】無償化だけの子育て支援政策は危ない。子育て支援を実現するたった一つのルート

周りを頼ってと言うけれど、頼れる人って誰?

ーー2024年6月に世界経済フォーラムが発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書(2024)」によると、日本は146カ国中118位という結果になりました。

2023年4月より、従業員が1,000人を超える企業では男性の育休が義務化されましたが、結局、家事育児の時間が女性のほうが長かったりと、女性のキャリアの理想とギャップを埋めるには、まだまだ時間がかかりそうです。三浦さんご自身の経験はどうでしたか?

三浦さん:私が出産したのはもう10年以上前ですが、当時勤めていた国立大学は働いていた期間が基準に満たなくて、育休を取れなかったんですよ。なので、保育園に入るまではスリングで赤ちゃんを抱っこしながら国際会議に出たり、授乳室やオムツ替えの台がないから外のスペースで蚊に刺されながらしたり……。

家に帰ってもほぼワンオペで、その時期は本当にしんどかったです。そのときの自分に対して頑張ったなとは思いますが、もし同じことを他の女性がしようとしていたら、「壊れちゃうからやめたほうがいいよ」と言います。実家や外部の助けもほとんど借りなかったこともあって、都会のワンオペの辛さを体感しました。

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てぃ先生:今でもワンオペで困っているママたちに対して、自治体や子育ての専門家が「もっと周りの人を頼ったほうがいいんじゃないですか」と軽々しく言いますよね。たぶん当事者の方にとっては「え?わかるけど、頼れる人って誰?」という状態だと思うんです。

三浦さん:そうですね。私もそのときどうすればよかったのか、未だに解がなくて。私は5人きょうだいなので同時期に他のきょうだいも子どもを産んでいたり、家も離れていたし、両親に預けるわけにもいかなかったですね……。

ーー三浦さんはご自身を律してなんとか乗り越えられたのだと思いますが、逆に崩れてしまう人もたくさんいると思います。そのような状況を改善していくためには、国や自治体としてどのような制度があればよいと思いますか?

三浦さん:私自身の反省としては、やはりアウトソースしなかったことです。全部自分でやるという発想をもう少し捨てて、お金を払って一時預けをしたり、休息を取ったりする時間は作ってもよかったと思いますね。

あと、乳幼児は会話ができないから、ひとりだと孤独だと思うんですよ。パートナーがいればその孤独は癒してもらえるかもしれないけど、パートナーがいることによって家事って増えるんですよね。だから、国の制度うんぬんよりも、社会規範自体が変わらないと、どうにもならないような気がしています。

てぃ先生:社会にも多様性があるように家庭内にも多様性があったほうがいいと思うんです。そう考えると、もう現代では絶対に無理なんですが、パパ・ママ・子どもという構図じゃなくて、そこにおじいちゃんおばあちゃんがいたほうがいいし、海外の文化ではナニーさんとかいるじゃないですか。それは現代の日本こそやるべき文化な気がしていて。

頼れる部分はお金を払って頼るくらいのことをしないと、親が望んでいるような子育ての環境は実現が難しいと思うんですよね。日本人は他人を家に上げることにかなり抵抗感があって、家事代行を頼むためにまず自分の家を綺麗にするみたいな本末転倒が起きたりしているけど(笑)。そこの意識を変えて、お金を払って他人に頼るハードルを下げていけたらいいですよね。


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子どもに生活の知恵を教える大切さ

三浦さん:今の都会の家庭はとにかく狭いですよね。やることも娯楽くらいしかないから狭い家で動画ばかり見たりしているけど、これがすごくよくなくて。これが昔の生活様式を採用している田舎の暮らしだったりすると、薪ストーブの薪を割らないといけなかったり、垣根が壊れたら修繕しなきゃいけなかったりと、手仕事で満ちていたんですよね。

だから、昔の男性は家のなかでもっと働いてたんですよ。男性も家事をやる領分があった。その領分が都会では特に消えつつあって、コンクリートの箱の中に閉じ込められてることが、夫婦がうまくいかない原因のひとつでもあるのかなと思います。

てぃ先生:男性が手放せるものが先に発展して、女性が担っていたものはそうそう手放せなくて残っている、ということなんですね。

家事って、完全に分担制がいいのか、お互いに気を使いながら時間があるほうがやったりと自由度が高いほうがいいのか、どちらだと思います?

三浦さん:自由度が高いほうがいいかなと思います。ただ、夫婦が協力し合いながらやるときの一番の難関は、妻が夫に対して上司になってしまうこと。

てぃ先生:よく聞くし、よく見ますね(笑)。

三浦さん:ですよね。労働は自分に裁量がないと喜びがなくて、裁量の余地を残さないタスクを振られちゃうと、苦痛でしかないんですよ。たとえば料理には楽しい部分があるけれど、ゴミ出しは創造性が全くないし、別に楽しくないですよね。

だから、ゴミ出しとお風呂掃除を夫の担当にしちゃうと、夫はもっとも喜びのないことを担当することになるし、妻は妻で私のほうがたくさんやってるし大変、と思ってしまうんですよ。

これまで担ってきた歴史もあって女性は完璧を求めがちだけど、男性からすると「別にそこまでしなくてもよくない?」と思うことも多いですよね。だから、どちらが悪いという話ではなくて、大体の基準を共有したうえでお互いが進んでやるのが理想ではありますね。


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てぃ先生:なるほど。裁量ということでいうと、たとえば夫の洗濯物の畳み方が明らかにシワになるようなやり方でも諦めたほうがいいんですか? それとも妻が「こうやって畳むといいよ」と、根気強く指導するのがいいんですかね?

三浦さん:ハタチ過ぎたら無理ですね。

てぃ先生:みなさん、諦めてください(笑)。

三浦さん:それって本来親が子どもに教えないといけないことなんですよ。夏休みの過ごし方で毎日どこか遊びに連れて行かないといけないと悩む親も多いようですが、そうではなくて、生活を大事にすることで大切なことをたくさん教えられる。たとえばいっしょに家事をやってみて、ベランダで休憩してお茶を飲むとか。それも親がサーブするのではなくて、いっしょに立ち働いてみる。

生活の知恵って本来はひとり暮らしの期間に身につけるものですが、幼少期に全くやっていないと何をどうやったらいいのかわからないんですよね。でも、毎日外食して服はクリーニング屋に出していたら、自分のことだけならなんとかなってしまうから、その期間に身につかずにいずれ親になってしまうのです。

ただ、家庭によっては親が生活の知恵を教える時間がなかったり、できない事情もあると思うので、幼稚園や学校で火の扱い方、ナイフの使い方、洗濯ものの畳み方とかを教えてあげないといけないんですよね。本当に男女平等の社会にしたかったら、それは必要なことだと思います。

てぃ先生:普段おうちのなかで親が無意識に「自分がやらねばならぬ」と思っているいろいろなことを、時間があり余っている夏休みだからこそ子ども自身に体験してもらう。それが、親が望んでいる子どもの自立につながるんですね。


働き方で人間をジャッジすべきではない

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ーー最後のテーマはキャリアについて。女性は子育てのために一度仕事を辞める選択をしたり、キャリアチェンジをする選択をしたり、仕事をそのまま続けても、これでよかったのかと悩んだりする方もいらっしゃると思います。ポジティブに捉えるにはどう考えるのがいいのか、おふたりのお考えを聞かせてください。

てぃ先生:最近は「上昇志向がないこと=悪」みたいな風潮もありますが、自分にとって別にキャリアは必要がないと思っている人たちの気持ちや環境も保障してあげるべきだと思うんですよね。

三浦さん:仕事が人生のすべてではないから、働き方だけで人をジャッジすべきではないですよね。

確かに、元がどんなにバリバリ働いていた人でも、子どもを産んで時短勤務を希望するとあまり稼げなくなったりするケースがありますよね。でも、本人がそれに納得しているのであればそれでいいんだと思います。職場のなかでも、同じ年代の女性なら平等であるべきという意識がおかしいですね。みんなが同じように上を目指してピラミッドを登っていかなきゃいけないような。

てぃ先生:よく職場で女性が妊娠の報告をすると、雰囲気的に「あ、仕事は別にいいんだ、もう部長目指してないんだ」みたいな空気感が流れるときあるじゃないですか。あれはめちゃめちゃ違和感があるんですよね。

ーー育休期間を延長しとしたときにもありますよね。もうキャリア志向じゃないんだ、みたいな。

三浦さん:今でもまだあるんですね。

てぃ先生:ありますよね。日本のママたちって、仕事に関しての自己評価があまりにも低いんですよ。周りから評価をされていても、本人は子どもがいることで迷惑をかけていると思い込んだり、自分自身も最大限のパフォーマンスを発揮できていないように感じてしまったり。やっぱりどこかで負い目を感じているんですよね。

その負い目はどこからきているのかというと、幼少期から家庭内でママよりパパが偉いという雰囲気を見続けてきたことで、そもそも女性は上の立場に立つ存在ではないという価値観が植え付けられているのではないか、という話を聞いたことがあるんです。僕は本当にそうだなと思って。

だから、家庭というミニマムのところで意識を変えていくことがまずは必要。それと同時に、社会全体でも女性が上の立場に立つことがすごいことではなくて当たり前のことなんだ、というイメージ改革が必要なのかなと思います。三浦さんはまさにロールモデルですよね。

三浦さん:妻のほうが稼いでるのに、子どもは夫の扶養に入っていたり。女性も自分で自己決定権を持つことは素晴らしいことだ、という意識改革をしていきたいですね。

ーー個人の意見としては変わってきていても、やはり社会全体の意識が変わる必要がありますよね。何十年も何百年もかかりそうですが。


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三浦さん:だから、私は感じ悪い女をやり続けようかなと思っています(笑)。大海に一滴を注ぐような努力ですけど。

てぃ先生:(笑)。言葉だけで女性の地位向上を訴える人よりも、三浦さんみたいに生き様で示してくれる方がいると、勇気づけられる人も多いですね!

ー今日はどうもありがとうございました!

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