古くて狭かったパレスホテルが「国内ブランド最高級」に生まれ変われた決定的な理由

古くて狭かったパレスホテルが「国内ブランド最高級」に生まれ変われた決定的な理由

過去をすべて捨てて生まれ変わる決意

当時、旧パレスホテルを利用してくださっていたお客様の約80%がビジネス目的で、残り20%がレジャー。外国の要人がお見えになったこともありますが、おもにビジネスパーソンが出張のために泊まるホテルでした。2009年1月末をもって、老朽化した旧パレスホテルは改築のために休館しました。

四季や食、歴史的遺産に恵まれた日本は、世界でも類を見ない観光立国です。これから先の日本では、どのようなホテルがお客様に選ばれるのか。丸の内、それも皇居外苑の緑を見渡せる立地をどう生かすべきか。未来のことを考え抜いた結果、新生「パレスホテル東京」は思い切ってコンセプトを変えることにしました。旅の目的地として選ばれるような、最上質の一日を提供するラグジュアリーホテルに生まれ変わる。そのために、総工費750億円をかけて全館を建て替えました。

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東京都千代田区丸の内のパレスホテル東京

合言葉は、「昔にとらわれない、過去にしばられない」。当時の社長をはじめとする開業準備室のメンバーには、自分たちの手でゼロから日本一のホテルをつくるという覚悟がありました。ゆとりのある空間で高品質のサービスを提供するため、客室数を389室から290室(現在は284室)に、レストランも約1200席から約600席に減らしました。一方で、35平方メートルだった標準客室面積は、世界のラグジュアリーホテルではスタンダードだった45平方メートルに。客室には海外のお客様が好むバルコニー、レストランにはテラス席を設けました。

パレスホテル東京は12年5月に開業しましたが、順調なスタートを切れたわけではありませんでした。約3年間の休館により、ホテルの認知度は低下していました。ある日、銀座でタクシーの運転手に「パレスホテル東京まで」とお願いすると、「どこですか?」と聞き返されたことは、悔しい思い出として残っています。客室稼働率が50%に満たない期間が続き、焦りがなかったといえば嘘になります。

それでも絶対に変えないと決めていたのが平均客室単価です。質を維持するために、当時設定していた客室単価「3万8000円」よりも安くすることはありませんでした。ラグジュアリーホテルに生まれ変わったのですから、目先の稼働率にとらわれて軸がぶれることはあってはいけません。

クオリティの追求と地道なマーケティング

我々には、素晴らしいホテルをつくったという自信がありました。改築にあたっては、総支配人の渡部勝が中心となり、世界的に有名なホテルを徹底的に研究しました。ロビーの天井の高さにはじまり、バスタブにお湯がたまるまでの時間、シャワーブースの幅に至っては1センチメートル単位で検討。細部の細部まで熟考を重ねました。価格は下げないぶん、クオリティを磨き続ける。そうすれば必ず、お客様に選んでいただけるようになる。スタッフ全員が同じ思いを共有していました。

自信があったのはホテルのハード面だけではありません。開業時のスタッフの約8割は旧パレスホテル時代から在籍し、休館中の3年間、他ホテルや他業種に出向していたメンバーでした。彼らは新しくなったパレスホテル東京に愛着と誇りを持ち、優れたチームワークを発揮してくれました。そこに、ラグジュアリーホテルのサービスを知る外資系ホテルの経験者なども加わり、グローバル基準を踏まえた日本らしい細やかなおもてなしで、ソフト面を強化することができました。

開業直後の最大の課題は、認知度を上げること。特に意識したのが、女性に選ばれることです。旅行先でどこに宿泊するかは、女性が決めることが多い。そのため、国内外の女性誌を中心にメディア露出を増やしました。SNSの普及も追い風となり、滞在されたお客様の投稿が次なるお客様を呼ぶという好循環が生まれました。

地道なマーケティングを続けながら磨き上げたサービスが評価されて、開業5年目の16年、目標としていた「フォーブス・トラベルガイド」の5つ星を獲得。我々のような日系かつ独立系ホテルは海外のお客様にブランド価値を訴えにくいという面もありましたから、世界で通用するお墨付きをいただけて嬉しく思いました。現在まで9年連続で5つ星評価を継続し、さらに24年にミシュランガイドで「3ミシュランキー」に選出されたことは、我々の大きな励みになっています。

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2025.04.09

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