4度の立ち会い出産と「父親になる」ということ

4度の立ち会い出産と「父親になる」ということ

2017.10.06

Profile

久留島太郎

久留島太郎

植草学園短期大学准教授

植草学園短期大学准教授。私立幼稚園、国公立幼稚園、公立小学校の教諭を経て現職。「NPO法人タイガーマスク基金」理事。社会福祉法人房総双葉学園理事。「NPO法人ファザーリング・ジャパン」元理事。4人の息子の父親としての立場、保育にかかわる教員としての立場、社会的養護を必要とする子どもたちと接する立場から、子どもたちが育つ「環境」を考えることをフィールドとしている。著書に『新しいパパの教科書』(学研)、『3歳までの子育ての教科書』(アスコム)。

子育てに関する著書やメディア出演などで活躍中の久留島太郎さんの、新しい命が産まれる瞬間の喜びを改めて思い出すようなコラムです。ご自身の4度の立ち会い出産の経験から「どのようにパパスイッチが入ったか」について書いていただきました。

父親になる「スイッチ」

「妻の出産に立ち会って、生まれてくる子どもに出会った」という体験は、私にとって「父親になる」上でとても大きなものでした。

生まれたてでまだシワだらけの長男を抱いたときのあの感覚は今でもよみがえってきます。そして、しばらくして黄色いタオルに包まれた長男を妻が抱かせてくれた感動はいまでも頭のなかに焼き付いています。

そこで、今回は父親になるスイッチとしての「立ち会い出産」について考えていきたいと思います。

まずは「立ち会い出産」について

かつては自宅出産が主流だった

日本で「立ち会い出産」という言葉が使われるようになってから、まだ50年程度だと言われています。


驚くことに、昭和30年(1955年)当時、自宅などで出産をした人は80%を超えていました。


かつては新しい命の誕生をその瞬間から、家族みんなで共有することが珍しいことではなかったようです。


リスクを減らすために

ところが平成23年(2011年)では、自宅などの医療施設以外での出産をした人の割合は、0.18%となっています。社会環境の変化や医療技術の進歩により、出産のスタイルも変わってきています。

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厚生労働省の人口動態調査(2015)によると、「周産期(妊娠22週~生後1週間未満の期間)」における周産期死亡率は、昭和55年(1979年)には1000人あたり22人だったものが、平成27年(2015年)には3.7人となっています。

リスクを減らすための仕組みの中で、出産は「共にある」ものから「立ち会う」ものへと変化してきたと考えられます。

出典:厚生労働省の人口動態調査(2015)

「立ち会い出産」は選択肢のひとつ

立ち合い出産についての調査より

厚生労働科学研究費補助金 (政策科学総合研究事業)分担研究による「母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査(2013)」によると、父親が出産に立ち会った割合は約50%とされています。

その中では、夫が経腟分娩に立ち会った女性は、夫以外の人の立ち会いや立ち会いのなかった場合などに比べると、


「輸血やカロリー補給のための点滴処置の割合が少ない」

「(パートナーがいることで)お産の痛みがやわらぐ割合が高い」

「産後1時間以内に子どもとスキンシップがとれ、授乳することができる割合が高い」


といった傾向があることが示されています。そんなこともあり、父親の出産への立ち会いが求められるような時代になってきたのかもしれません。

出典:母親が望む安全で満足な妊娠出産に関する全国調査(2013)

立ち会わないという選択も

しかし、立ち会いのなかった出産の理由のうち約50%は「産婦が希望しなかった」となっています。また、産婦が父親の立ち会いを望んだとしても、出産に際して「怖い」「血が苦手」という父親たちも少なからずいます。

ある産科医さんから「立ち会い出産は増えているけれども,実際は『立ち見』が多いんだよね。手を握るとか声をかけるとか、結構できることはあるのにね」と聞いたことがあります。

記録ビデオの撮影に夢中になったり、なにもせずにその場に立って見たりするだけの父親も多いとのことでした。父親がナースや医師の指示によって出産の担い手となるという北米などとは随分と違うのが日本の現状であるようです。


立ち会い出産の「質」

ここからは立ち会い出産の「質」が大切となることがわかります。

どんなふうに赤ちゃんと対面するのかを夫婦で共に考え準備をしていく、また立ち会い出産を選ぶ際にはどのようにパートナーをサポートしていくかを考えておくことが必要です(思い出してもあまり力にはなっていなかったという自覚のある自分の気づきです)。

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大切なのは「立ち会う」ことではなくて、産まれてきた子どもを迎え入れる準備が2人でできているかということではないでしょうか。

かつては父親にとって身近であった出産というものが、高度成長期を経てそうではなくなってきた今、あらためて「出産」を家族でどう受け止めるかが問われているのかもしれません。

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4度の立ち会い出産の経験より

我が家には4人の息子がいます。長男(高2)、次男(中3)、三男(中1)、四男(小5)の男の子です。

長男は病院で、次男は産院で、三男と四男は自宅で産まれました。都合よく、それぞれが産まれる場には立ち会うことができました。その度に妻のこと、産まれてきた子どものことを愛おしく感じてきました。


長男が産まれた日の朝

長男は自宅近くの国立病院で産まれました。

長男が産まれた日の朝、妻が「破水したかもしれない」と言ったときに、私は「もう少し寝かせて」と言いました。そのことは今でも我が家で語り継がれています(とんでもない父親ですよね……)。

その日、妻からの電話で病院に駆けつけ、白衣を着て立ち会いました。産まれた瞬間のことは最初に書いた通りです。妻とは「長男が時計を見ながら私の到着に合わせて産まれてきてくれたかもしれないね」と話したことを覚えています。

家に帰って妻が出産前に私宛に書いてくれていた手紙を読み、妻がとても不安だったこと、頼りにしてくれていたことを知ったことが、自分自身の「父親のギア」が1速に入った瞬間だったと今となっては思います。


里帰り出産で産まれた次男

次男は妻の実家の岩手県の産院で産まれました。長男もまだ2歳で、私も長距離通勤でほぼ家にいることができなかったこともあり、妻の実家で両親のサポートを受けながらの里帰り出産となりました。

妻からの「産まれるかもしれない」との電話を受けて駅へ走り、東北新幹線の最終で岩手へ。雪の中、産院まで駆けつけました。

産まれたばかりの次男と長男を置いて、後ろ髪を引かれながら新幹線で自宅に戻ったことを今でも覚えています。次男と長男が自宅に戻ってきたときに「父親のギア」が2速に入った感じがしました。


家族が見守る中で産まれた三男

三男は、長男と次男がいるのでいっしょに生活をしながら出産をしたいという妻の希望もあり、助産師さんにお願いをして自宅出産を選びました。

長男と次男を育てながらのつわりや出産準備で大変だったのはわかっていながらも、仕事の忙しさを理由にしてパートナーとしての役割は十分に果たせていませんでした。その点でも助産師さんに本当に助けられました。

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へその緒を切ってこの世に三男を迎えた右手の感覚は今でも覚えています。


四男のへその緒を切った兄たち

四男も三男に引き続いて信頼する助産師さんにお願いをして、自宅での出産準備となりました。

自宅で出産ができるか否かの医師のジャッジは少し厳しいものでしたが、信頼する助産師さんにお願いをしたいという妻の願いもあり、自宅で立ち会うことになりました。

へその緒を切ったのは兄たち。家族と信頼の助産師さんたちに囲まれて産まれてきた四男の賑やかな声を聞き、ギアは4速に入りました。

父親として自分がどう生きるべきか

父親ギアも1人目の1速から、4人目の4速のトップギアまで入れてその針はレッドゾーンまで振り切ったつもりになっていました。

しかし振り返ると、産まれた瞬間にはレッドゾーンに入っていた針はすぐにアイドリング状態に戻り「父親である」という状態は保っていながらも、エンジンが焼き付かないようにトコトコと走っていて、アクセル全開な元気のいい父親をしてはいなかったなと感じるのが正直なところです。

随分と経ってから、次男が通っていた園の先生が「あの頃(四男が産まれる前後)は奥さん子育てしんどそうだったわよ。今はいい顔しているけれどね」と話してくれました。

我が家の子育てを暖かく見守ってくれた園の存在も、父親として自分がどう生きるべきかを考えるきっかけとなりました。

立ち会い出産はスタートライン

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出産に際しては、どんなふうに赤ちゃんと対面するのかを夫婦で共に考え準備をしていく、また「立会い出産」を選ぶとき、それはスタートラインであって、そこからどのようにいっしょに子どもを育てていこうかと考え続けることが大切になってくるのではないでしょうか。

長男が産まれる朝に「もう少し寝かせて」と妻にお願いをし、それから4度の立ち会い出産を経験したのに、まだまだ子育てに迷うことばかりです。そんな今年の夏。最近我が家で産まれた100匹を超える子メダカを育てながら、父親を学び直している今日このごろです。

執筆:久留島太郎

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久留島太郎

植草学園短期大学准教授。私立幼稚園、国公立幼稚園、公立小学校の教諭を経て現職。「NPO法人タイガーマスク基金」理事。社会福祉法人房総双葉学園理事。「NPO法人ファザーリング・ジャパン」元理事。4人の息子の父親としての立場、保育にかかわる教員としての立場、社会的養護を必要とする子どもたちと接する立場から、子どもたちが育つ「環境」を考えることをフィールドとしている。著書に『新しいパパの教科書』(学研)、『3歳までの子育ての教科書』(アスコム)。

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