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YouTuberの次にくるのはメタバースクリエイター?【後編】
2022年のバズワード「メタバース」。今後5~10年後に確実に私たちの生活の一部となっていくものであり、未来を生きる子どもたちを育てるうえで無関係ではいられない。今回はメタバースが子どもたちの教育にどのような変化をもたらすのか、さらには未来の働き方について探っていく。
2021年に「Facebook」が社名を「Meta(メタ)」に変更したことで、バズワードとなった「メタバース」。「自分には関係ない」と考えている保護者も多いかもしれないが、すでに世界中で数億人の子どもたちがゲームを通じてメタバースを楽しんでいる。
メタバースはこの先私たちの世界にどんな影響を与えていくのだろうか?
そこで、日本でいち早くメタバースプラットフォーム「cluster」を立ち上げ運営するクラスター社COO成田氏に、メタバース上で取材を実施。前編ではメタバースがどのような空間であるかについて語っていただいたが、後半ではメタバースがこれからの子どもたちの教育や仕事にどのように関わってくるのかを伺った。
メタバース上でこれから生まれる新たな職業は……?
ーー前編ではメタバースの基礎知識についてお聞きしましたが、近年でいうところのYouTuberのような今はない新たな職業がメタバース上に生まれてくるのでしょうか。
成田暁彦さん(以下、成田さん):既にアバター制作と販売はその市場が確立されています。某有名ゲームでアバターの見た目を変える「スキン」と呼ばれるものがありますが、この流通額は年間4,000億円ほどの市場規模になっています。今後アバターや、デジタルアイテムを制作して販売する人はもっと増えてくるでしょうね。
また、cluster内では好きなワールドで簡単に写真撮影ができるようになっているのですが、絵になるシーンを撮影するには現実世界同様に技術やセンスが必要で、バーチャルカメラマンという職業も登場しつつあります。
もちろん、教育面での活用も注目されていますから教師のあり方も変わっていくでしょうし、オンライン診療などビジネスでもコミュニケーションの場として活かせるものが増えていくのではないでしょうか。
弊社ではアバターでの会議参加も可能なのですが、実は採用面接もアバターでおこなっています(笑)。その際にはみんな渾身のアバターで面接にきてくれますよ。そのまま入社して遠隔で働いている社員もいるので、年に一度のリアルな社員総会で初めて会うことも珍しくありません。
「こういうアウトプットでなければならない」という決まりはないので、美少年や美少女でなくてもいいし、なんなら人でなくてもいいんです。現にクラスター社の役員の、五人中二人のアバターは動物なんですよ(笑)。自分の思いや思想があればそれでいいんです。
それが壮大なのかちょっとしたことなのか、個々人で差はありますが、誰もが「こうなったらいいのにな」と漠然と思っていることはありますよね。
ゼロから自分の理想のアバターを作っていく人もいれば、簡単に作れるアバターメーカーを利用している人もいて、誰しもが表現者になれます。
今後はcluster上にアクセサリーストア、アバターストアがオープンしていく予定です。そうすれば眼鏡やアクセサリーから衣装、アバターそのものまで、ユーザーが自由にデザインしたものをフリーマーケットのように販売することができるので、さらに無限の組み合わせを楽しむことができるようになります。
デジタル上の服はサイズアウトせず一生着ることができる
成田さん:clusterストアでの一人当たりの平均単価は4,000円程度なのですが、これはユニクロでTシャツを一枚買うより高いですよね。でも一部の人たちは「それだけの価値がある」と感じてくれていますし、スキンを買う場合も同様ですよね。
ーーリアルの洋服と同等かそれ以上の値段をデジタルアイテムに支払うんですね。
成田さん:メタバース上のアイテムに4000円を高いと感じるのは、これまで永続的に続くデジタルサービスが存在しなかったからでしょう。基本的にデジタル上のものは時間がたてば使えなくなり、無価値になるという認識があるからです。
しかし、われわれは、メタバースは一過性のサービスではなく、いずれ新しい生活様式になっていくと考えています。
ゲームをやるためや、遊ぶためというよりも、そこに「いる」という感覚です。現在でもメタバースの中で友人と過ごして、そのままメタバース空間で眠って、メタバースの中で目を覚ます、という人も既に存在しています。
もちろん、すべての人がそうなっていくわけではありませんが、これから長い人生の中でそこで生活する時間が長くなっていくことをイメージしてみてください。デジタルアセットが蓄積されていくと考えると決して高くはないんですよね。
現実世界で考えると、子どもの成長に合わせたリアルな服、特に60センチから100センチくらいなんて一瞬で過ぎてすぐに着れなくなる期間じゃないですか(笑)。デジタルのアイテムは一度購入すれば、一生使うことも可能ですから、圧倒的に長く着ることができる洋服、というわけです。
メタバースは勉強嫌いな子の救世主になる?
ーー生活様式という感覚は無かったです。これからの時代はいかに自然にメタバースと共存できるかが大事なんですね。子どもの頃から自然と触れていくと当たり前になっていくと思いますが、親の立場としてはあまり長い時間デバイスに触れていると、教育面で不安な気持ちもあります。
成田さん:私もそうだったのですが、勉強が嫌いな子どもたちにはテキスト情報に魅力を感じない子が多いのではないかと思っています。学校は休憩時間の10分に人と喋ったり遊んだりすることが楽しいから行っているだけで勉強をしにいっている感覚ではない(笑)。
メタバース空間なら、もっと人を惹き付ける授業ができるのではないかと思っています。従来のテキスト情報だけではなく、もっと視覚的に訴えたり、情報が目の前に出てきたりする表現方法が可能になるので、より理解を深めやすくなるでしょう。
児童がもっと自由にアウトプットしていくようなこともできますね。実はclusterで作ったワールドのデータは3Dなので、3Dプリンタがあれば書きだすことも可能なんです。
子どもが仮想の世界で作った家や建築物を、実際にリアルな形を持たせることも今の技術ではすでに可能なんです。3Dプリンタが無くても、作ったワールドの写真をバシャバシャとって模造紙に貼って提出してもいいわけですから、夏休みの自由研究などでぜひトライしてみてしてほしいですね。
デジタル空間の中でなにかを作るという体験は、子どものクリエイティビティや想像力を養うという観点でもとても重要だと思います。
現在小学校でのデジタル分野での取り組みは、プログラミングを使ってコンテンツ提供をする程度にとどまっていて、授業というより課外活動や、習い事の教材として採用していただいていますが、ゆくゆくは小学生時代からデジタル空間上で自由にものを作る活動が認められていくことに期待しています。
また、大学や高校の授業ではすでに利用されていて、東大、京大、早稲田、立命館など、数多くの大学のオープンキャンパスや、ゼミやサークルの勧誘もcluster上で実施させていただいています。
子供と一緒に学びコラボレーションを生む
ーー親も先生も変化が求められてくるわけですね。
成田さん:保護者も教師も、大人だからと一方的に子どもに教えるのではなく、一緒に作りながら、学んでいく状態を目指すべきだと思います。往々にして大人が考え付くことよりも子どもが考えたり想像することのほうが豊かだったりぶっ飛んだアイデアだったりしますよね(笑)。
成田さん:子どもと一緒にクリエイティブを学ぶ目線で、子どものアウトプットに対し「素晴らしいね」と褒めてあげられると、さらに学びになっていくのではないでしょうか。
これから生まれる子どもたちは、さらにデジタルネイティブになっていきます。
そこに気後れせず、フィジカルなコミュニケーションだけではなくデジタルコミュニケーションもできるよう、苦手意識を持たずに、知らないことにも臆さず一緒に楽しんでいく姿勢を持てることが重要だと思います。
子どものほうがクリエイティビティにあふれていて、大人はそれに従うべきということではありません。
大人の知識や前提条件があるからこそ楽しめることもたくさんあるので、自身が経験したり学んだりしてきたことを子どもに提供することで、さらにすてきなコラボレーションが生まれるのではないでしょうか。
小中学校は文科省や教育委員会が決めたカリキュラムがあるので、まずは遊びや、同好会、課外活動、自由研究などで使っていくところからスタートするとよいと思います。比較的自由にできる課外活動で採用していただくことで、教育現場でも認めてもらえるようになっていくと思います。
今後は、教育者の方や、cluster上で教育をしようと思っている方向けのマニュアルやセミナーも実施予定です。
また、現在でも省庁や議会などでも活用されており、今後も公益性が高いところにももっと利用していただける可能性を感じています。
「メタバース」と聞くと、まだゲームをイメージされたり、子どものものと思う方も多いかもしれませんが、広く大人にも活用していただければと思います。
メタバースが現実世界の価値を上げていく
ーーできることがたくさん増えて夢が広がる一方で、メタバースですべてが実現されていくと、現実世界の価値はなくなっていくのでしょうか。
成田さん:過ごす時間の長さという意味では逆転していくと思います。これまでもインターネットが普及して、スマートフォンが普及して、新しい技術が生まれれば人はどんどん便利な方に流れてきましたよね。人は一度手に入れた便利な生活を手放すことはできません。
SNSも普及して、既に昔と比べてインターネットに費やす時間比率は上がり続けていますよね。同様に、バーチャル空間で過ごす時間が増えることは自然な流れだと思いますし、意固地にアナログな空間にこだわるほうが珍しくなっていくと思います。
ただ、すべてがデジタル上で完結して、現実世界が必要なくなるという極端な話ではありません。AIやデジタルで便利なものが推進されてデジタルに置き換えられるものはどんどん置き換えられていくと、現実世界でしかできないことの価値がより高くなると思います。
コロナ禍で仕事や人との交流がオンライン化して便利になり、わざわざ会わなくてもできることは増えましたが、そうなることで人と会うことの貴重さが浮き彫りになったことと同じですね。
現実世界では様々な理由で人と話すことが苦手だったり、コンプレックスを抱えている人もいるので、メタバース上でなりたい自分になることで円滑にコミュニケーションできる部分は活用して、両方をうまく使い分けていけばいいんです。
ーーメタバース上では五感も置き換えられていくとも言われていますよね。現在は視覚と聴覚だけだと思いますが、今後五感すべてを感じられるようになっていくとも言われている中で、現実世界にはどんな価値が残るのでしょうか。
成田さん:現在既に触覚専用のグローブをはめれば、実際に触っている感覚を得ることはできますし、風が出てそこにいる感覚を得られることは、技術的にはすでにほぼ完成しているといえます。
いつ頃どこまで進んだ世界が実現するかは明確にはいえませんが、持ち運び可能なVRゴーグルは、すでにさまざまな会社が開発に取り組んでいますから、5年10年でかなりの進化はみられるでしょうね。
こういった技術は、徐々に広がっていくというより、コロナ禍でzoomなどのオンラインが一気に広がったように、何か大きなきっかけがあり、あるとき一気に使われるようになるというのが普及の際のポイントです。
ただ、やはり味覚などはまだまだ難しいですし、たとえば旅行を考えると、VRゴーグルがあれば、視覚と音声だけで、旅をした気分になることはできますが、現地でしか食べられないものはまだまだメタバースでは実現できません。そうするとやはり現地に直接行って食事をするという体験は、今よりももっと、贅沢な体験という感覚になっていくでしょう。
ーーありがとうございました!
メタバースは一過性のサービスではなく新しい生活様式になっていく。
お話を伺ったときは衝撃でしたが、メタバース上でお話を伺っている間、たしかにそこに「いる」という感覚で同じ時間を共有している実感がありました。
場所や移動時間にとらわれないメタバース、子どもたちと一緒にまずは遊んでみて実感していくところから始めていくだけでいいのかもしれません。
<取材・執筆>KIDSNA STYLE編集部