子どもたちの新たな遊び場所「メタバース」【前編】

子どもたちの新たな遊び場所「メタバース」【前編】

2022年のバズワード「メタバース」。今後5~10年後に確実に私たちの生活の一部となっていくものであり、未来を生きる子どもたちを育てるうえで無関係ではいられないことはご存じだろうか。今回はメタバースとは何か?という基礎知識から、それがわれわれの生活にどう関わり、どう変化していくのかを探っていく。

2021年に「Facebook」が社名を「Meta(メタ)」に変更したことで、バズワードとなった「メタバース」。「いまいち分からない」「自分には関係ない」「一過性のもの」と考えている保護者も多いのではないだろうか。しかし、子どもたちは遊びの中で、すでにメタバースの世界を楽しんでいる。

そこで、今回は日本でいち早くメタバースプラットフォーム「cluster」を立ち上げ運営するクラスター社COO成田氏に、メタバース上で取材を実施。これからの子どもの教育や遊び、さらには私たちの生活にメタバースがどのように関わってくるかを伺った。

子どもたちはすでにメタバースを体験している

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(右)クラスター社取締役COO 成田 暁彦氏 2019年10月よりクラスタ―社に参画し、メタバースビジネス、アライアンス、マーケティング全般を管掌。

ーーメタバースは「仮想空間」という認識はあるのですが、実際どんなものなのでしょうか。

成田暁彦さん(以下、成田さん):一言でいうと、インターネット空間で、3DCGの中で自分自身の分身となるアバターが過ごしている空間の総称をメタバースと言い、それ以上の制約は特にありません。

実は、子どもたちに人気のゲーム「Minecraft(マインクラフト)」「あつまれ どうぶつの森」などは自分の分身が過ごしている空間なので、そういう意味ではメタバースにあたります。

また、ROBLOX(ロブロックス)は、全ユーザーのうち1.3億人が小学生と言われているオンラインゲームのプラットフォームです。ユーザーが制作したオンラインゲームがたくさんあって遊ぶことも作ることもできるのですが、そういう意味で最もclusterに近いプラットフォームだと思います。

これらのサービスと一般的なゲームとの大きな特徴の違いは、単にキャラクターを操作するわけではなく、自分自身の分身が過ごすことができる空間だということ。

メタバースというとVRゴーグルを着用するものと考えている方が多いかもしれませんが、clusterでは、ユーザーの7割はスマートフォンで、残りの3割がデスクトップとVRを使って入ってくださっています。当然VRゴーグルを使用したほうが没入感はありますが、まずはスマホで、ライトに楽しんでくださっている方が多いですね。

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※画像はイメージ(iStock.com/filadendron)

ーー子どもたちはすでにメタバースを体験しているんですね。そのclusterについて、どんなサービスか教えてください。

成田さん:clusterには、「ワールド」というバーチャル空間を体験できる場所がたくさんあります。バーチャル渋谷、バーチャル大阪などもあってすぐに別のワールドに移動することもできますし、イベントもたくさん行われています。

渋谷だとハロウィーンのイベントなどはイメージしやすいかもしれませんね。

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2022渋谷ハロウィーンの様子(©KDDI・au 5G / バーチャル渋谷ハロウィーン実行委員会)

成田さん:バーチャル渋谷だけではなく、さまざまな街とコラボレーションして、バーチャル六本木、バーチャル原宿、バーチャル大阪万博など、仮想空間の中に本物さながらの街を作り、さまざまなイベントを開催しています。

運営側が作ったワールドの中でユーザーが自由に遊んだり、アバターのアイテムを購入したりすることはもちろんできるのですが、ユーザー自身がアバターやアイテム、ワールドを作り、アップロードしていくことが可能です。

UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)であることも大きな特徴で、現在作られているワールド数は4万4千~4万6千にものぼっていて、メダルゲームができるワールドや、ライブ会場、カフェなどのワールドも多数作られています。

また、UGCの特性も活かされていて、たとえば、今年幕張メッセでおこなわれた「東京ゲームショウ2022」に参加した際は、現実世界の会場のコンパニオンさんが着ている衣装をユーザーが作成してくれて、cluster上にもそっくりなコンパニオンが登場したんです。

たとえば、動画を好きに投稿できて、好きに視聴もできるプラットフォームといえばYouTubeを連想する人が多いと思いますが、clusterはメタバース版のYouTubeのようなプラットフォームです。

われわれが一方的にサービスを提供するのではなく、ユーザーと相互に、ユーザーが主体となって楽しむことができることがメタバースの大きな特徴といえるのではないでしょうか。

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cluster上のバーチャル渋谷へ移動してみた

ーーこうやって遊んでくださいと決まっているのではなく、自由に何でもできるということなんですね。大人視点で考えると、何をしたらいいのか分からなくなりそうです。

成田さん:clusterでは、最初にどのワールドに行ったらいいかや、何をすればいいか分かりづらいという問題を解消するために、ロビーという待ち合わせに便利な広場のようなパブリックなワールドを制作しています。

おすすめワールドの紹介もしているので、みんなで集まってワールド巡りをしたり、イベントなどでは、「会場はこちら」という看板を持ったアンバサダーを配置するなど、初心者の方でも迷わない体験を心掛けています。

親子で楽しめる安全な空間を目指して

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ーー子どもたちのほうが一歩先にメタバースの世界を楽しんでいることは分かりましたが、インターネット上の顔が見えないやり取りでは誹謗中傷が起きやすいと言われています。メタバースでも同じように暴力的なことや危険なことが起きないか不安です。

成田さん:まず、メタバースはインターネット上の空間ですから物理的な接触はなく、現実世界の対面の中で悩まされてきたさまざまなことが解消され、フィジカル面においてはリスクは非常に低いと言えると思っています。

もちろん、匿名性があるからこそ、コミュニケーション上考えなければいけないことや、一定のルールやマナーは作っていく必要があります。clusterでも、「相手ありきのコミュニケーションをしよう」というガイドラインは当然ありますし、ロビーには365日スタッフを配置して、迷惑行為などには対応するようにしています。現実世界同様に、治安を維持していくことはすごく重要ですね。

ありがたいことに、clusterはこれまでの同様のサービスに比べ、過ごしやすいと言っていただけることが多いです。

実際、cluster上では暴力的や、否定的なコミュニケーションはほとんど起きておらず、「親切に話しかけてくれた」「はじめて来て何をしていいかわからずにいたら、おすすめのワールドを連れて回ってくれた」「過ごしやすい」といった声が圧倒的です。

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取材時もさまざまなワールドに招待してもらった

ーーたしかに、初めてclusterに入った際、右も左も分からずウロウロとしていたところ、親切に声をかけてくれる方が複数いて安心しました。

成田さん:ゲームという感覚で捉えると「子どもがやるもの」と考えがちですが、お母さんはスマホで、お子さんはiPadで同時にclusterに入って、親子で一緒にワールドを作られている方もたくさんいます。

小学生でもブロックを置く感覚で簡単にワールドを作ることができること、同時に楽しめる、リアルタイム性があることもclusterの特徴のひとつなので、ぜひ親子で体験してみてほしいですね。

まずは一緒に体験することで、不安が解消され、どういった空間なのか実感できると思います。

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メタバースは新たなコミュニケーションツール

成田さん:ほかにも現実世界では、近くに住んでいる人としか普段は会えませんが、メタバース上なら、実際には遠くに住んでいる友だちや家族、好きな人と好きなように過ごすことができます。

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※画像はイメージ(iStock.com/Anchiy)

ーーコミュニケーションできる人の数も遊び方も各段に広がっていきそうですね。

成田さん:clusterはほかのゲームとは違いリアルタイム性が高いサービスなので、タイミングによってはフレンドに会えず、コミュニケーションできないこともあります。

だから今日の取材のように待ち合わせをしてもらうなどして、誰かと会えるというところが楽しみ方のひとつです。

かつての小学生は、学校から家に帰ったら、ランドセルをおいて公園に遊びに行っていましたが、今はパソコンを立ち上げてヘッドセットをつけて、メタバース上で友だちと待ち合わせをすることはめずらしいことではありません。

もちろん、いつ来ても楽しめるメダルゲームのようなストック型のコミュニケーションも準備しています。ほかにも、DJのターンテーブルを作ってDJイベントを開催していたり、従来型のゲームを作って遊んでいる人たちもいて。みんな思い思いのことをしているというのがいいですよね。

メタバースの魅力は、決められたストーリーや決められた進め方をたどるだけではなく、何をしてもしなくてもいいこと。

子どもって基本的に飽きやすいじゃないですか。だから、ストーリーや進め方がかっちり決まっているものよりも、新しいコンテンツが無限に生成されて、ある程度自分たちで自由に生み出せる世界のほうが長く遊べるからこそ、ここまで流行っているのではないでしょうか。

メタバース内では誰もが「なりたい自分」になれる

ーーゲームとの違いは分かりましたが、友達同士でリアルタイムで会うなら直接会って遊んでもよいですよね。現実世界ではできない、メタバース上だからこそできることもあるのでしょうか。

成田さん:これまでも、みんな大なり小なりなりたい自分の姿ってあったと思いますが、ひとつはメタバース上では「なりたい自分」「好きな自分」でいられるという点は大きいですね。

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インタビューを見守るピザアバター。メタバース上では、生物でなければならないという概念すらない。

成田さん:もうひとつは世界観の共有がしやすいこと。cluster内にはすでにたくさんのワールドがあるし、自分で新たに作ることもできるので、どんな絵柄が好きかとか、どんな世界観が好きかで過ごす空間を選び、同じようなものを好きな人同士で過ごすことができます。

メタバースならではの過ごし方でいうと、clusterのプライベートモードを使うと、招待した人だけの空間を作ることができます。これまでのメタバースは、現実世界と同じようにたくさん人が集まらないと面白くないと言われることもありましたが、日常を考えると、好きな人、仲のいい人とだけ集まれたほうが良いことが多いですよね。

カップルで待ち合わせをして、水族館で魚を見て、そこからスキー場に移動するといった現実世界ではできないデートをしたり、忙しいママパパでも、移動時間なしで、子どもを遊園地から大自然、宇宙空間にだって連れ出すことが可能です。

海外では体験することで教育的認知が高まることが注目されていて、メタバースだからこそできる体験、たとえば恐竜の世界で大昔の恐竜に触れるイベントなども人気になっています。

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VR恐竜シンポジウム会場入り口。ブラキオサウルスの全身骨格がある。骨格選定・配置:今井拓哉博士 / 引用:https://www.animalsimulation.org/, CC BY 4.0
 (© Cluster, Inc. All Rights Reserved)
ヘルクリーク層のトリケラトプス 骨格復元図 / ロゴ製作:ツク之助氏(サイエンスイラストレーター) 復元図製作:らえらぷす氏 撮影:芝原暁彦博士

現実世界では様々な制約があり限界がありますが、メタバースでは科学実験などもリアルに体験することができるので、自然科学の科目に採用されている場合もあります。

ーー作り手側に回ることもできるし、まず体験するだけでもクリエイティビティと好奇心を育てられそうですね。

成田さん:自由な世界観の中だからこそ、想像力を最大限に発揮して、規定されたものではない、人が想像しないようなものや遊びをどんどんクリエイティブに生み出してほしいですね。


後編では、メタバースは日本の教育現場にどんな影響をもたらすのか、メタバース上での仕事やお金の価値の変化、さらにメタバースが広がった世界で生き残るためにどんなことを知っておけばよいのかをお聞きしていきます。

<取材・執筆>KIDSNA STYLE編集部

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