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【天才の育て方】#16 山本・リシャール登眞~最年少世界遺産検定マイスターを生んだ家族のコミュニケーション[後編]
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KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。#16は、世界遺産検定のマイスターを史上最年少の11歳で取得した山本・リシャール登眞さん。世界遺産に興味を持つようになったきっかけや両親との会話で育まれていった圧倒的な思考力について紐解いていく。
世界遺産検定マイスターの資格を史上最年少の11歳で取得した、山本・リシャール登眞さん。
前編では、世界遺産に興味をもったきっかけや、検定の勉強を通しての気づきについて話を聞いた。
高校1年生となった現在、テレビ朝日『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』やTBS『日立 世界・ふしぎ発見!』をはじめとしたテレビ出演も話題を呼んでいるが、意外にも「自分のことをメディアで話すことには抵抗がある」と語る。
それには世界遺産を心から愛する彼なりの理由があった。
小学生からの習慣は1日3~4冊の読書
世界遺産に関して、大人もうなるほどの深い知識を持つ登眞さん。特別な勉強をしていたわけではないと語るが、驚いたのはその読書量だった。
登眞さん「小学生のころから、ジャンルは問わず、1日3冊、4冊のペースで本を読んでいました。毎週図書館へ行き、両親と僕の分のカードで借りられる最大限の30冊を借りてきて、ひたすら読んでいました」
母「大学で研究職をしている私の仕事によく同行したりもしていたので、本を取り出して調べるという親の行動を見ていたんでしょうね、文字も読めないころから、自分で本棚から本を引っ張ってきて広げたりしている子でした」
登眞さん「中学に入ってからは部活動などで帰宅時間も遅くなり、なかなか自分で図書館に行けなくなったので、母に頼んで借りてきてもらうことが多くなりました。借りてきてくれたものを積み上げて、興味のあるものを選び読んでいます」
母「過保護と言われるかもしれませんが、時間の関係でどうしても登眞が動けないときにはそうするようにしています。とにかく読みたい本があればNOとは言わない、たとえ買ってハズレだったとしても、それはそれでいいと言ってきました」
インプットだけでなく、アウトプットの機会も幼少期から多かった。
母「人と話すのも好きな子で、2歳のころですかね、数学の研究者である夫の大学について行って、食堂でちょこんと一緒に並んでご飯を食べるんですよ。
そうすると、他の研究者の先生たちが登眞に話しかけてくれるんです。意外に思われるかもしれませんが、研究者って、おしゃべり好きが多くて。たくさんコミュニケーションをとって、楽しそうにしていました。たとえば宇宙の研究をしている方だったり、ペンギン学者の先生だったり、考古学者の先生もいらっしゃったよね。
学校にもすごく行きたがって。近くの小学校を覗いては『僕も行く』って言っていました(笑)」
登眞さん「環境にはすごく恵まれていたと思います」
母に言われた「前例がないなら、作ればいい」の言葉
たくさんの大人との会話を通して育まれていった登眞さんの感性だが、両親とはどのようなコミュニケーションをとってきたのだろうか。
登眞さん「『こうしなさい』と厳しく言われることはなかったです。僕の考えや行動を『それでいいと思うよ』と肯定してくれたのは、やる気にもつながりました。
両親がふたりとも研究者で、自分の研究に真剣に向き合っている姿はかっこいいと思っています。そうした両親の背中を見ているので、好きなことや興味のあることを楽しみながら突き詰めていくことに憧れがあります」
怒られたりすることは?と尋ねると、少年らしい顔を覗かせる。
登眞さん「もちろんあります!(笑)」
登眞「ただ、母がなかなか心に残る言葉をくれるんですよ。『他人にうそをつくのもよくないけど、自分にうそをつくことが一番ダメなんだよ』とか。『前例がなければ自分が前例になればいいんだよ』と言われたこともありますね」
母「7歳で世界遺産の勉強をはじめるなんて、前例がまるでありませんでしたから。でも、興味があると言うのだから、やっていくしかないと思いました。
フランスに住んでいたころは、漢字ドリルも、手作りしましたね。
リヨンの書店には幼児向けの日本語の本は置いていませんでした。でも、わざわざ電車に乗ってパリまで行って、定価の何倍もする日本の漢字ドリルを買うコストパフォーマンスを考えたら、自分で作ってしまった方が良いと思ったんです。
ないものは、作ればいいんですよね」
自分の考えを言葉にする力が大事
世界遺産検定のマイスターの試験は、論述式。知識の丸暗記ではなく、時事や現状の課題に対して自分の考えを論ずることが求められる。
登眞さん「僕が受けたときは、法律の是正の問題が出ました。マイスターの試験では世界遺産の背景にある、法律や戦争について客観的にどう思うかということが問われます。
なので、まずは時事に敏感でいるようにしました。世界遺産委員会の情報を細かく調べたり、ニュースを見たり。母からも『こんなおもしろいニュースがあったよ』と教えてもらい、調べて、時には自分の考えを両親と議論します」
母「私たちには世界遺産の深い知識はないので、あくまで素人目線で『それはどういうこと?』と聞いてあげる。基礎知識がない人に説明する力はそこでついたのかもしれません」
登眞さん「客観的な意見を意識する点は難しさのひとつだと思います。
たとえば、戦争に関して、『ダメだ!ダメだ!』と感情的になっているだけでは解決にはなりません。
現実的にどうやって戦争の起こらない世界にしていけるかを考える必要がある。世界遺産というのはそもそも、平和のための取り組みなので、そこを踏まえてしっかり一歩引いて考えることが大事だと思っています」
天才に聞く天才
そんな登眞さんが惹かれる人、天才だと思う人はどんな人なのだろうか。
登眞さん「尊敬しているのは、チャーリー・チャップリンです。白黒映画の『黄金狂時代』や『モダン・タイムス』のユーモアが好きで観ていました。
貧しい出自ながら、自分の才能で人を笑顔にできるって本当にすごいことだと思います。社会問題や反戦への思いを、喜劇で表現しているところも素晴らしいですよね。
天才だと思うのはレオナルド・ダ・ヴィンチですね。ダ・ヴィンチは芸術や建築だけでなく、さまざまな学問の分野でも功績を残しているなんでもできる人だし、古いものを新しいものに生かそうという考えも革新的ですよね」
自分ではなく、世界遺産のことを知ってもらいたい
なぜ、登眞さんは天才になれたのかと尋ねると、こう答えた。
登眞さん「僕は自分が天才だと思ったことはないです。
自分が好きなものをずっとやってきただけ、そして家族がその環境を作ってくれたことは大きいです。しいていえば“楽しめる才能”はあるかもしれません。でも、『これが特別にできる!』なんてことはなくて、なんでも楽しんでやっているだけなんです」
母「『天才の育て方』というテーマで取材依頼が来たと聞いたとき、ご期待にお応えできるのか迷いがありました。マイスターを取得した当時、ありがたいことにメディアに注目していただいたのですが、何度か取材を受けるうちに登眞が『僕は僕の紹介よりも、世界遺産の紹介がしたい』と言ったんですね」
登眞さん「自分の紹介をしてほしいがためにマイスターを取ったわけではないので、自分の大好きな世界遺産についてお話できる場はとてもうれしいのですが、あまり自分のことを掘り下げられると、恥ずかしさがあるんです」
世界遺産の勉強、やらなくてもいい
登眞さん「でも、両親からは学業や課外活動が忙しくて世界遺産の勉強ができなくても、咎められることはありません。
『マイスターをとったのにもったいない』なんて言われることもなく、時間ができたときにやったらいいじゃないと言ってくれます。
今は、ホルンとヴァイオリンを習っているのですが、楽器は1日さぼると取り戻すのに3日かかると言われているので、毎日練習であっという間に時間が過ぎていきます。
勉強をする時間が確保できなくて、テーブルの上にスケジュール帳をどんっと広げて「僕はいつ勉強したらいいの?」と両親に相談したこともあります(笑)」
母「そんな時も、ただやみくもに『やりなさい』と伝えるのではなく、どうやったらいろいろなことを楽しく継続していけるだろうって、話し合いをしていますね」
世界平和の目標のために
さまざまなことに興味を持ちながら才能の枝葉を広げていく登眞さんに、今後の目標を聞いた。
登眞さん「小学生のころから、世界遺産の特に文化遺産について、認定したり、保護する『イコモス』という団体に入りたいという思いがあります。
世界遺産の保護については、建築の方面からダイレクトに携わる方法もありますが、グローバル化による選定格差や、戦禍から建造物を守ることについて、法律の観点から関わっていくことが夢です。こうした取材やテレビ出演を通して、世界遺産の素晴らしさを伝えていくことも大事だと思っています。
何より、真の目的は平和なので、そこをしっかりと伝えていきたいです」
編集後記
世界遺産が好き……その純粋な気持ちの後ろに、真摯ながら壮大な「世界平和」という目標を掲げている登眞さん。話の端々に未来を見据えた強い意思が見られ、誠実さに心を掴まれた。
穏やかな口調で語るお母さんも、登眞さんを幼いころからひとりの人として尊重している様子が伺え、深い愛情を感じた。
登眞さんの口から語られる世界遺産の話はとても整理されておりわかりやすく、また、興味を惹かれるものばかり。今後もますます活躍の場を広げ、より多くの人に登眞さんの声が届く日を願わずにはいられない 。
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部