【天才の育て方】#14 饗場空璃~6歳で海洋図鑑を丸暗記した深海魚博士の高校生[前編]

【天才の育て方】#14 饗場空璃~6歳で海洋図鑑を丸暗記した深海魚博士の高校生[前編]

KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #14は、「深海魚博士」とも呼ばれ、日本中の海洋研究者や漁師、学者とのネットワークを持つ饗場空璃(あいば・そらり)さんにインタビュー。圧倒的な海洋知識と幅広い人脈はどのように築かれたのか。その背景を紐解いていく。

「自分の目で直接見ないと、本質を知ることはできない」

「今ないものを目指したほうが、人生は面白い」

「自分を肯定してくれる人がいれば、狭い世界での出来事は気にならない」

こう語るのは、魚好きとしてメディアでも多数取り上げられ「深海魚博士」とも呼ばれている、饗場空璃さん(以下、空璃さん)。2020年2月に出演した「天才!志村どうぶつ園」(日本テレビ系列)は記憶に新しく、目にした人も少なくないだろう。

現在は進学校に通う高校2年生。自宅にはまるで水族館のように水槽がならぶ通称「SORARIUM(ソラリウム)」がある。小学6年のころから作り始めたこの自家製水族館では、現在13匹のサメと16匹の深海魚、約100匹の海水魚等を飼育。水族館や海を巡り、海水魚を採取したり標本づくりを行うのが休日の日課だ。今まで手掛けた標本は合計で約2150体にもおよぶ。

海洋研究者や漁師など海洋分野のプロとの交流も深く、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSを駆使しながら、大人顔負けの膨大な知識をベースに独自の魚情報の発信を続けている。

今では日本中から「見たことがない魚は空璃くんに送ればいい」と認知されている。自分の「好き」を追求し、若くして確固たる立ち位置を手に入れた背景には何があるのか。今回はご両親からもお話を伺いながら、彼の才能のルーツを紐解いていく。

膨大な知識のベースは幼少期の読書習慣

ーー魚を好きになった最初のきっかけについて教えてください。

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空璃さん「1歳くらいの時、祖父母の家でおもちゃの代わりに父が子どものころ読んでいた古びた図鑑を渡されたのが一番最初のきっかけでした。載っている写真や絵が面白くて、どんどん引き込まれていきました。

最初は魚だけでなく生き物全般が好きで、図鑑も海洋図鑑以外にも昆虫や鳥、哺乳類の図鑑も3歳ころから読み漁っていました。家の庭には虫や鳥がたくさんいて、いつでも観察ができた。でも、魚だけはいなかった。

初めて連れて行ってもらった水族館はすごく楽しくて、自分が生きている空間とは全く違う水中という空間にいる生き物に衝撃を受けました。それが始まりです」

ーー知りたい欲求が叶えられた瞬間、一気に加速したのですね。図鑑以外にも本は読みましたか?

母「図鑑以外の本も、魚に関する本ばかり増えていきました。どこへ行くにもリュックいっぱいに詰め込んで、暇さえあれば読んでいました」

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祖父母の家で渡された、空璃さんが最初に触れた「魚貝の図鑑」。ここから彼の”魚にかける人生”が始まった。

父「今もみなさんから『空璃くんの知識はすごい』と言っていただいていますが、幼少期の読書がベースになっています。6歳頃には複数の図鑑の中身を丸暗記していて、知識の基盤はネットではなく図鑑や本です」

得意を見極め一点集中で知識を広げる

 幼少期から始まった海洋生物への好奇心が現在の彼を作り上げていることは明白だ。広がり続ける彼の興味を両親はどのように受け止め、伸ばしてきたのだろうか。

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父「魚へののめり込み方が凄まじかったので、幼いころは他にも目を向けさせようと主にサッカー、バスケットボール、テニスなどチームプレーの教室に通わせました。団体スポーツを選んだのは、大人になったら会社などで必ず団体行動をする場面があるから。でも本人は個人プレーの方が好きでした」

空璃さん「チームプレーが苦手なのは自分でよくわかっていました。小学校の休み時間、友だちと遊びたいけど魚のことを調べたい気持ちのほうが先立って、結局みんなの遊びには混ぜてもらえなかった。悩んだ時期もありましたが、父に相談し何を優先したいのか突き詰めた結果、魚のことを優先することに迷いがなくなりました

ーーひとつのことに没頭し続けることに対し、心配にはなりませんでしたか?

父「空璃くんが6歳のころ、本人から『海洋研究者になる』と聞かされました。それならば応援しようとこちらも覚悟を決め、逆に私の方が空璃くんの好奇心を掻き立てていましたね。

当初はサメに夢中になっていて、海洋分野の中でもひとつのジャンルに特化しようとしていました。でも生き物は進化を遂げるうえで、必ず他の生物や環境に影響を受けているものです。研究者になればそういった広い視点で物事を見る能力は必ず求められる。それならば、今から広く深く学ぶ方向に舵を取った方がいい。

そう本人にアドバイスをしたことで、さらに魚の世界に没頭することになりました。サメに特化していれば研究対象は500種類程度で済んだところを、海洋全体に広げたことで分厚い専門書が必要になったわけですから、苦しめてしまったと感じたこともあります」

空璃さん「ただ、ジャンルを広げたことで、休日の過ごし方も有意義になりました。近郊の海でサメが採れることは当然ありませんが、海洋全体に興味を持てたおかげで小さな魚でも充分楽しめたし、深海魚を見たいと言えばJAMSTEC(ジャムステック/ 海洋研究開発機構)や水族館に連れて行ってもらえる。煽られたおかげで遊びに行く場所もかなり広がりました」

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一番最初に夢中になった魚はシーラカンス。本物を見に行き、幼稚園の夏休み作品展用にシーラカンスの紙模型を作成した。研究者を目指すなら絵を練習しろと父から教わり、幼いころから絵をよく描いていたという。

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本物の情報は、本物からしか得られない

ご両親からのアドバイスにより海洋知識を広げていった空璃さんだが、そこには「広く深く知る必要性」以外にも父親として伝えたい重要な想いがあったという。

父「興味を持ったことは専門家の方に聞くスタンスを大事にしていました。私が調べて答えられることもありますが、その道のプロの方に聞いた方が得られる情報量は比較にならないほど多い。空璃くんの知的好奇心をどんどん刺激して欲しいという想いもあり、漁師さんや研究者の方のところへ積極的に連れて行きました。

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分厚い辞典に加えさまざまな書籍や資料を読み漁ってきた空璃さん。ここから得た情報が大人顔負けの知識へとつながっていった。

専門家の方々も、相手が子どもでも対等に扱ってくれることがほとんどでした。空璃くんに専門知識のベースがあったことと、自分で調べた結果の質問だったからかもしれません。一人つてができれば広がりやすいので、とにかく人に会わせる。それが基本スタンスでした」

ーーこうしたご両親の教えは今の空璃さんのベースになっていると感じますか?

空璃さん「今、いろいろな方とつながりを持てているのは、まさにそのベースがあったからこそだと感じています。

それに加え、本物を見ることも大事にするようになりました。本や水族館だけでは知ることができない魚がまだまだたくさんいるので、知らない魚と出会ったりわからないことに出くわしたら、人に直接会いに行って聞いたり、実物を見に行くようにしています。

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今はネットを通じて写真や動画でいつでも確認できますが、それだけではわからないことがとても多いんです。カジキを例に例えると、カジキはヒレがとても大きくてきれいな魚ですが、実は背中にヒレを縛る鞘があるんです。そういう細かい部分は、生で見ないと気づけない。自分の目で直接見ないと、本質を知ることはできないんです」

好きを貫くことが努力の原動力

空璃さんが魚の飼育を行っている通称「SORARIUM(ソラリウム)」には、1800mmの水槽が2本、1200mmの水槽が3本、1500mmの水槽が1本、900mmの水槽が2本の合計8本が設置されている。自宅が水族館のようになり始めたきっかけは、中学受験勉強中に購入した大きな水槽だったという。現在、県内屈指の進学校の高校へ通っている空璃さんは、魚への興味と学業のバランスをどのように保っていたのだろうか。

空璃さん「中学受験のときは塾に通っていて、小学6年までは小さな水槽がひとつあるだけだったので飼育も大変ではありませんでした。でも受験勉強が佳境に入った小学6年のときに大きな水槽を2つ増やし、中学受験後からどんどん増えていきました。

きっかけは、塾に行く途中にあるペットショップです。勉強の息抜きに通っていたのですが、そこで1つ数万円もする水槽が中古で安く売っていて、すぐに父に報告しました。その日塾から帰るとその水槽が家にあって、ボロボロの状態から綺麗になるまで父とふたりでヤスリで削り仕上げました」

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水槽など飼育に必要な設備は主に中古で仕入れ、水槽の重みに耐えられるよう家の土台も父親が自らの手で強化してきた。お金で解決せず工夫と努力を惜しまない姿も、空璃さんが没頭していく力へとつながっている。

ーー受験勉強に響くことは懸念されなかったのですか?

父「懸念していたので、小さな水槽ひとつに納めていたんです。実は幼稚園から小学校低学年のころまでは、いろいろな魚を飼っていました。もともと妻も私も魚に対し興味も知識もなく、まだ一人で飼育できない空璃くんをサポートしながら試行錯誤の毎日でした。

でも珍しい魚を飼いたがる分、飼育方法も複雑で、大事に飼っていても死んでしまうんです。大切なペットの死は子ども心に衝撃が大きく、ショックを受けている空璃くんを見て私も心が折れてしまい、低学年以降は飼うのをやめていました。

それでも受験勉強中、ペットショップや魚屋に寄って情報を集めたり、勉強の合間に魚の本を読むことが本人の息抜きになっている様子を見ていると、逆に飼わない方が環境的に良くないと感じました」

ーー空璃さんの魚への熱意に根負けしたカタチですね。

空璃さん「受験間近になって水槽はどんどん増えていきました。『水族館みたいですごい』とよく言われますが、実は振り切って拡大させた方が飼いやすいんです。むしろ、水族館のようにしないと飼えない。魚によって微妙な水温調整が必要だったり、同居人も選ばないといけない。小手先で水槽や設備を用意したからといって飼えるものではないんです」

ーー今は進学校に通われていますが、勉強とのバランスはどのように保っていますか?

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空璃さん「平日は餌やり以外、魚のことはやらないと決めています。今は朝8時半から16時まで授業を受けた後19時まで実習、19時半から21時半まで再び授業を受け22時半に帰宅しています。餌やりを終えたら授業の復習をするので、魚のことをやる時間はありません。隙間時間に専門書やSNSで魚の情報収集をしていますが、それが毎日のご褒美ですね。

その分日曜日は自分の好きなことをやっています。標本を作ったり海へ行ったり。もっと魚のことをやりたい気持ちはありますが、ここまで来たら趣味で終わらすつもりはありません。必ず将来につなげるために、今はとにかく勉強を優先しています」

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所せましと並べられた魚の標本の数々。現在の標本数は、液浸標本約2000体、骨格標本約40体、乾燥標本約100体、グリセリンなど特別な標本約10体。平日に魚のことを我慢する分、週末は時間の許す限り専門作業に没頭しているという。

わずか1歳にして生物全般へ興味を抱き、6歳の時点で海洋図鑑を丸暗記していた饗場空璃さん。後編では、幼いころからサポートを続けたご両親の教育方針と、空璃さんが今もっとも大事にしていることについて聞いていく。


KIDSNA編集部

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