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【天才の育て方】#14 饗場空璃~日本中に人脈をもつ未来の海洋研究者[後編]
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KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #14は、「深海魚博士」とも呼ばれ、日本中の海洋研究者や漁師、学者とのネットワークを持つ饗場空璃さんにインタビュー。圧倒的な海洋知識と幅広い人脈はどのように築かれたのか。その背景を紐解いていく。
わずか1歳にして生物全般へ興味を抱き、6歳の時点で海洋図鑑を丸暗記、同時に海洋研究者を目指し始めた饗場空璃さん。魚に関する図鑑や本、水槽数を増やし続け、両親のサポートと父親からのアドバイスをもとにみるみるうちに広く深く知識を構築していった。
現在は進学校に通い学業を優先した生活の中で「平日は魚のことはほぼやらないと決めている」と語る姿から、将来を見据えた固い決意が感じられる。
前編では、膨大な知識を獲得するに至ったきっかけや両親のサポート、学業との両立方法について聞いた。後編では、幼いころからサポートを続けたご両親の教育方針と、空璃さんが今もっとも大事にしていることについて聞いていく。
行きたい場所は企画書を作りプレゼンする
空璃さんのご両親は幼いころから、空璃さんが専門家と会う機会を大切にしてきた。どこに行っても子ども扱いされなかったのは空璃さんに知識があったこと以外にも、ご両親の徹底した教育方針があったからだという。
父「基本的に家庭での教育方針として”子ども扱いしない”ことを大前提としていました。空璃を”くん付け”で呼ぶのもその一貫です。子どもも一人の人間なので呼び捨てにはしません。
空璃くんが行きたい場所があるときは企画書を元にプレゼンをしてもらい、親が納得したら連れて行く。何月何日に、どこで何があるのか、なぜ行きたいのか、主催者や指導者は誰なのか、当日の親の役割やタイムスケジュールはどうなるのか。小学5年から書き始め中学1年の時点でしっかり書けるようになりました。
これをやらないと、行った先でやること、やれることが曖昧になってしまいます。なぜ行きたいのか、なぜやりたいのかという目的を事前に自分の頭の中でまとめておけば、目的意識を持って行動することがでますし、専門家の方々にも聞きたいことをしっかり聞くことができます」
ーー学校では教わることのない、ビジネススキルのひとつですね。
父「ビジネススキルとしての意図も多少はありましたが、自分本位にならないことが第一です。人と会う機会を多くしている分、自分本位で話さないことも人と接するための大切なこととして度たび伝えてきました。相手のことを考えることができれば、嘘をつくこともないし、物事を大げさに言うこともなくなります。
そうした教えを身に着けてくれた中学1年以降は、イベントや魚採りに一人で出かける機会も増えました。相手が知り合いの場合に限ってはいますが、遠方に宿泊の場合でも漁師さんや業者さんに自分でアポイントを取り、一人で出かけていきます」
ネットとリアルをつなげ人脈を築く
ーー人とのつながりを見据えたご両親の教育から、何を学び現在にどう活きていると感じますか?
空璃さん「今自分が一番大事にしているのが、日本中に広がった人脈です。学校の勉強にしろ魚のことにしろ、わからないことは人に聞くのが基本で、今の時代、インターネットを使えばいろいろな方と連絡を取ることができますよね。
よっぽどうまくいかない限り自分一人で解決できることはないので、基本的なことですがどんなに忙しくてもいただいたメールは必ずその日に返すとか、人とのつながりを大事にしています。これは、両親が教えてくれた生きる上での本質的なことのひとつだと思っています。
おかげで今では北海道から沖縄まで知り合いが増えて、漁師さんが見たことのない魚を釣れば送ってきてくれるし、それをSNSに載せれば研究者の方から『研究対象として譲ってほしい』と連絡をいただいたり。自分の人脈と行動が新しい発見につながるのはワクワクするし、こうした機会をもらえることをありがたく感じています」
ーー空璃さんだけでなくその他大勢の興味発見につながっていると思うと、送り元も嬉しいですよね。
空璃さん「実際、自分を経由した魚が論文になったケースもあります。ほとんどの情報はインターネットや本で知ることができますが、漁師さん全員が本を出しているわけではないですよね。毎日魚を釣りあげている漁師さんだから新種との出会いがあるし、魚をさばいている魚屋さんだから知っている生体の仕組みがある。
専門家の方以外にも、一般の方からも『こんな魚見つけました!』とメッセージをもらうことも増え、自分だけでは発見できなかった情報が向こうからやってくるようになりました。
一人ひとりの方々とのつながりを大切にしながらSNSを活用していれば、たくさんの方に僕の活動や魚のことを知ってもらう機会も増えていく。そしてより情報が入ってくるようになる。このループを続けるためにも、人脈は何よりも大事です。
それに、人とのつながりがあると自分を肯定することができます。
小学校のとき、友だちの遊びに入れてもらえず悩んでいても魚を優先できたのは、魚を調べ続ける自分を褒めてくれる両親や『すごいね』と言ってくれる人たちがいたからだと思っています。自分を肯定してくれる人がいれば、狭い世界での出来事は気にならなくなる。自分の居場所があれば、努力を続けることは難しくありませんよね」
天才に聞く天才
天才が思う天才とは
ーー空璃さんが「この人、天才だな」と思う人はいますか?
空璃さん「天才という言葉の意味を考えると生まれながらに才能を持った人ですよね。努力や失敗を積み重ね発明や発見につなげた人を後世では天才と呼びますが、生まれながらの天才は身近にはいません。思い浮かぶ人といえば、歌の才能を持って生まれた歌手の方々ですね。QueenやT.M.Revolutionの突き抜けた感じが好きで、よく聴いています。
誰かを目標にすることもありません。なぜなら、既に何かを成し遂げている人を目指すよりも、まだないものを目指した方が人生として面白いと思っているから。自分がそういう存在になることが、目標ですね」
ーーでは、尊敬する人はいますか?
空璃さん「尊敬している人はたくさんいます。基本的には、いろいろなことに挑戦し、全力で物事に向かっている人、それを続けている人を尊敬しています。
たとえば、魚の絵を描いているイラストレーターの方。魚への知識は少なくても描いている絵は素晴らしいですし、その方からは『もっとサメについて知りたいから教えて』と連絡をいただいてサメの生態について説明したら、僕を抜くぐらい詳しくなったんです。どのジャンルで活動している方でも、全力でやっている方のパワーはすごいと思っています」
饗場空璃はなぜ天才なのか
ーーご自身が「天才」と呼ばれるのはなぜだと思いますか?
空璃さん「僕の場合は努力した結果なので、天才ではありません。強いて言うなら、父がよく言っているコミュニケーション力ですかね」
父「空璃くんに天から与えられた才能があるとは思っていませんが、本人の雰囲気や人との接し方、受け答えや話し方などは、ひとつの才能だと思っています。いろいろな方々とつながりを作れたのは、本質的なところで見ると、本人の人柄ありきだと思うんです。私はきっかけを与えたにすぎない。
人の心に入っていくのがとても得意で、私の知り合いがいつの間にか空璃くんと友人になっていたりする。年齢性別問わずにつながりの輪を広げていけるコミュニケーション能力には、親の私も驚くことが多いです。
ただ、これも幼いころから大人に会う機会を重ねてきたからかもしれません。そう考えるとやはり、努力の結果、好きが高じて、という部分が強いですね」
空璃さん「最近も珍しい魚を発見したばかりで、これから誰とどう研究を進めていこうか、ワクワクしています。著名な方々からも『一緒に魚を採りに行こう』と誘われていて、とても楽しみです」
編集後記
空璃さんが話し出すと両親揃って耳を傾け、足りない情報を補足するようにお父さまが語り、日常の細やかな様子をお母さまが伝える。年頃の反発さえも笑いにつながっていく、親子の深い絆を感じられる取材だった。
「平日は魚のことはやらない」「趣味では終わらせず将来につなげる」という固い意志からは、夢を夢で終わらせないという強い想いが伝わってくる。そのベースには絶対的な知識と日本中にもつ人脈への自信があるのだろう。それらの力は両親の工夫と努力によって培われたことを、本人は当事者として一番理解している。
常に日本中の専門家とつながりながら新しい魚、新しい発見を追い求めていく。若干17歳の未来の海洋研究者は、これからも新たな海洋の神秘を私たちに伝え続けてくれることだろう。
KIDSNA編集部