【山中俊之】“世界はつながっている”物事の見方を養う

【山中俊之】“世界はつながっている”物事の見方を養う

2020.06.19

子どもをとりまく環境が急激に変化している現代。小学校におけるプログラミング教育と外国語教育の必修化、アクティブ・ラーニングの導入など、時代が求める人材像は大きく変わろうとしている。この連載では、多様化していく未来に向けて、これまで学校教育では深く取り扱われなかったジャンルに焦点を当て多方面から深掘りしていく。今回は、元外交官であり、国際教養作家・ファシリテーターの山中俊之氏に話を聞いた。

グローバルリテラシーとは何か

世界を舞台にビジネスをしたり、さまざまな国の人々と共に働くために必要なスキルは、芸術や文化、歴史などの幅広い教養を持ち、ビジネス以外の場で、人として関係を構築していくこと。

外務省からキャリアをスタートさせ、エジプト、イギリス、サウジアラビアに赴任し、96に及ぶ国々で働いてきた国際教養作家・ファシリテーターの山中俊之氏は、前編で、教養の根底にあるのが宗教であると話した。


ここからは、子どものグローバルリテラシーを育むための具体的な方法について深掘りしていく。

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山中俊之/株式会社グローバルダイナミクス代表取締役社長、神戸情報大学院大学教授。1990年外務省入省。エジプト、英国、サウジアラビアへ赴任し、対中東外交、地球環境問題などを担当する。外務省を退職し、2000年、株式会社日本総合研究所入社。全国の自治体改革の案件に多数関与。2009年、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にてグローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバルダイナミクスを設立し、企業研修やセミナーを多数実施。著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)、『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)などがある。


クロスカルチャーマインドを持つ

――日本の現在のグローバル教育についてどのように思われますか。

「小学校〜高校では、宗教に関することはタブーとされる風潮もあり、宗教教育も十分ではないと思います。同時に、世界がどのように動き、それをどう感じるかという教育がまだまだ欠けていると感じています。

日本では、それを“異文化理解”といいますが、子どもたちには、海外の文化を異なるもの=自分には関係ないこととは思ってほしくないですね。

『異なるもの』と捉えると、どうしても日本的な目線が造成されていく。海外でいろんな物事が起こっていても、偏った目線で見れば、客観的に理解できません。

同時に気を付けたいのは、情報の受け取り方。日本のメディアの情報に日常的に触れていると、どんどん日本的な目線ばかりが醸成されていくため、国の外でさまざまなことが起こっていても、日本的目線で処理されたものを見ているというわけです。

では、海外はどうかというと、異文化のことを“ディファレントカルチャー(Different Culture)”ではなく、“クロスカルチャー(Closs Culture)”という言い方をします。

つまり、海外の文化を理解するためには、自分たちと関係のない、異なる文化ではなく、お互いの文化を交差させるという目線を持つことが大切。

インターナショナルスクール
iStock.com/MachineHeadz

世界史の授業は、世界で何が起こったかという歴史がわかるし、確かにそれが文化につながっていくこともありますが、そうではなく、『この国の人から見たらどう見えるのか』という視点で、『同じ事象がイスラム教徒の人から見たらどう見えるのか』と考えてみる。

 中国ではどうなのか、ミャンマーの人だったらどうなんだっていうね。そういう目線で物事を捉えることが相手の文化に対する理解につながっていくのだと思います」

――世界について知るだけでなく、相手の国の目線になって考えることが理解につながるのですね。

「あとは、百聞は一見にしかず。海外にどんどん行ってみるべきだと思います。

私も外交官時代、エジプトに赴任した際は現地の家庭に下宿し、日本では馴染みが薄いイスラム教徒の生活や宗教観を目の当たりにして視野が広がりました。

また、イスラエルの大学のサマースクールで学び、イスラエル人と寮で同室で過ごし、ケンブリッジ大学に研修に行ったイギリスではキリスト教の行事に多数参加しました」

――お互いの文化を“クロス”させて見るために、やはり、まずは自国のことを知ることも大切というわけですね。

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「先ほど、教養として宗教を学ぶときは自国(日本)の宗教から知るべきだと話しましたが、文化的な側面でも、日本らしさは大事にするべきだと思います。

たとえば、欧米社会派、言葉を重視するキリスト教文化の影響を強く受けており、グローバルなビジネスの場でもディベートやプレゼンテーションが多く用いられます。一方で日本は、『深遠なことは言葉では伝わらない』という体感を重視する仏教文化。こうした点で、日本のビジネスパーソンが欧米社会で実力を発揮しきれない要因になっているように感じます。

世界に出れば、英語が公用語なので英語を話せた方がいいし、キリスト教徒がやはり人口的にも多いため、ディベートやプレゼンには慣れていた方がいい。だけど、相互理解のためには、日本ならではの礼儀や丁寧さなどの良いところは同時に大事にしていいと思うのです。

たとえば茶道だと、部屋の入口には二重に扉があり、どんな人でも頭を下げて入るという決まりがある。そういった相手に対する謙遜や尊敬のすばらしさが日本ならではですよね。グローバルリテラシーやグローバルマインドをもって仕事をしながらも、日本の良さは出していく、この使い分けができるのがこれからのビジネスパーソンに求められていることだと思います」


物事の本質を捉えるための宗教知識

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「教養が大切なのは、世界でビジネスを行う際に、商談や雑談の話題に困らないからという理由だけではありません。

物事の本質を見るためには、自分の持っている知識だけでなく、多角的に物事を見つめなければならない。そのためには、哲学や歴史宗教からの洞察、芸術家らのインスパイアなども当然関わってくる。だからこそ教養が必要になるんです。

たとえば、2019年11月、キリスト教のカトリック教の最高位聖職者であるローマ教皇が、38年ぶりに来日され、広島や長崎での核兵器の廃絶を訴えた演説が話題になりました。

そこでみなさんはどんなことを思ったでしょうか。私は、以前勤めていた外務省が基本的にはアメリカの核兵器の傘下でやっていて、どうしてここにすれ違いが起きるのか?と考えたときに、『見ているスコープ』が違うのではないかと思いました。

リアルな国際政治で言えばなかなかすぐには解決が難しいことでも、ローマ教皇は、もっと地球や社会としての本質を語っていたのだと。

そういったローマ教皇の話した内容をより本質的に理解するには、やはり哲学、歴史、宗教からの洞察や、芸術からのインスパイアが必要だと思います」

――これからAI社会が本格的に訪れますが、そういった面でも教養としての宗教は重視されますか。

テクノロジー AI
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「たとえば今、さまざまな医療が進歩していますが、人間とは何か、どう生きるべきかという背景がある限り、宗教や哲学の死生観は外せません。

再生医療を進めたとして、とにかく長生きすればいいのかというとそうではない。ただ科学が発達すればいいのではなく、同時に精神や哲学のような側面でも考えを深めていかないと、物事の両輪で一方の車輪ばかり回ってしまうんです。

今の子どもたちが将来ビジネスパーソンになったときも、科学の進展に基づいた新しいサービスを提供するような仕事をするかもしれない。そのための新しい研究も進んでいるかもしれない。

そのときに、技術の発展だけを優先して、哲学や精神の進化が同時にないと世の中はいびつになってしまいます。そういう意味では教養を身につけ、本質を見つめていくことで『今どうあるべきか』を考え続ける必要があるんです。そのために、自分のスコープを広げておくことは本当に大事。国と国との問題だって、お互いのスコープのすれ違いだったりするんですよ」

――ただ便利になる、ただ多様化するだけでは思考停止である、と。

子どもとのかかわり方でマインドセットする

――親として、子どものスコープを広げるためにできることは何でしょうか。

教育
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「日本は、“博物館・美術館大国”。都市に限らず、地方でも力を入れている良質な美術館は多いので、自国の文化に触れるいい機会として出かけてみるのもおすすめです。

また、日常的な会話では、子どもの視野を広げ、多面的に物事を考えられるようなものを意識するとよいかと思います。

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日本は島国という閉ざされた土地で今までやってきて、世界全体を見る目が弱いのではないかと私は感じています。5大宗教をはじめ、さまざまな物事で『世界はつながっている』という見方がこれからは必要になっていきます。

たとえば、日々使っているスマートフォンですら、その素材は何なのか?どこから採ってきたものなのか?と考えると、材料のひとつである金属は、どこかの国の劣悪な労働環境で採られたものかもしれない。

子どもに買ったポテトチップスやパンなどのお菓子は、どこの国で作られているんだろう?と見ると、インドネシアの農園だとする。そのお菓子にはパーム油が使われていたら、パーム油の生産が、熱帯林減少の要因のひとつであると問題になっていることを知る。そこから、環境問題、SDGsを知っていく、といったように、山のように考えられます。

新興国の農園で原料がつくられているということが分かったら、じゃあそこの人たちはどんな生活をしているんだろう。どんなルートをたどって、自分たちの手にやってくるのだろうと考えることで、子どもも理解が広がります。これは、原因があるから結果があるという因果律を表す仏教の考え“縁起”にもつながっていますね」

日本を知り世界を知るにとどまらず、そこから自分なりの解釈を持つことが教養となっていく。教養の基底にある宗教の学びは、世界情勢を読み解く視点となり、よりよい未来を考える大きな指針になるのかもしれない。

海外に対して異なると捉えずに理解を深めていくこと。宗教や政治経済、環境問題…ニュースで流れるさまざまな問題に対して、親が自分の意見を持ち真剣に話し合うこと。そういう日々の小さな積み重ねが、子どものグローバルリテラシーにつながっていくのだ。


<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

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