【山中俊之】世界に通用する人材には“教養としての宗教”が必須

【山中俊之】世界に通用する人材には“教養としての宗教”が必須

子どもをとりまく環境が急激に変化している現代。小学校におけるプログラミング教育と外国語教育の必修化、アクティブ・ラーニングの導入など、時代が求める人材像は大きく変わろうとしている。この連載では、多様化していく未来に向けて、これまで学校教育では深く取り扱われなかったジャンルに焦点を当て多方面から深掘りしていく。今回は、元外交官であり、国際教養作家・ファシリテーターの山中俊之氏に話を聞いた。

<連載企画>学校では教えてくれない
スイスに本拠を置くビジネススクール、IMDの世界競争力センター(IMD World Competitiveness Centre)が毎年発表している「世界競争力ランキング」(World Competitiveness Ranking)」では、63の国や地域を対象にし、経済のパフォーマンス、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラの4つの基準を元に判断される。

日本はランキングが開始された1989年から1992年まで連続して1位であったが、その後は低下傾向に。2019年では前年より順位を5つ下げ、30位という結果になった。

日本は少子化や自国市場の縮小の進行が見込まれる中、イノベーションを起こし、国際的に活躍する人材育成のための語学教育や、外国人雇用などダイバーシティの推進によって、国を挙げて“グローバル化”への対応を急いでいる。

※参考「科学技術・イノベーション政策の展開にあたっての課題等に関する懇談会」(文部科学省)

これからの時代に求められるスキルは、異なる社会や文化の人々と協働するための“グローバルリテラシー”であり、“グローバルマインドセット”だ。これから大人になる子どもたちはますます、自分とは異なる背景を持つ人々と働くことになるだろう。

現在においても、国内外で働く人々は多様化している。
国籍と宗教 国際教養作家・ファシリテーターの山中俊之氏

なぜグローバルエリートに宗教の教養が必要か?

外務省からキャリアをスタートさせ、エジプト、イギリス、サウジアラビアに赴任し、96に及ぶ国々で働いてきた国際教養作家・ファシリテーターの山中俊之氏は、自身の経験から、世界で活躍するビジネスパーソンに必要なものは何かを伝えている。

「さまざまなトピックに関する知識を蓄え、それを単なる情報ではなく自分のものにし、自分の言葉で語れる人が“教養のある人”で、世界で活躍するビジネスエリートになるにはこれが必須条件です。

単なる“取引先の人”ではなく、仕事を離れた“その人個人”として魅力的でなければ、大きな仕事をすることは難しく、将来的にパートナーシップも築けない。

そのために必要なのが、商談や雑談が抜群にうまいこと。つまり、雑談こそ教養なんです」

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山中俊之/株式会社グローバルダイナミクス代表取締役社長、神戸情報大学院大学教授。1990年外務省入省。エジプト、英国、サウジアラビアへ赴任し、対中東外交、地球環境問題などを担当する。外務省を退職し、2000年、株式会社日本総合研究所入社。全国の自治体改革の案件に多数関与。2009年、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にてグローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバルダイナミクスを設立し、企業研修やセミナーを多数実施。著書に『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)、『世界96カ国をまわった元外交官が教える 外国人にささる日本史12のツボ』(朝日新聞出版)などがある。

さまざまな話題の根底に宗教がある

「語学はもちろん大事ですが、ただ英語を話せるだけでは通用しません。日本人同士であれば、出身大学や企業名でなんとなくその人のバックグラウンドが分かるかもしれませんが、世界のエリートが集まる場では、それよりも『何を学んだか』が問われます。

教養とは世界で活躍するためのパスポートのようなものなので、持っていないと人の輪にすら入れません。私がそれを実感したのは、外務省で働いていた際に研修で行かせていただいたケンブリッジ大学でのランチやディナーの場。そこでの会話は相手の専門分野から始まって、芸術、文化、歴史、スポーツ、映画の話題が中心でした。
国際交流
iStock.com/Rawpixel
社交やビジネスの場でも、ビジネスの話ばかりするのではなく、私という人に興味を持ってもらい、人間関係を構築できないと新しいビジネスは生まれにくい。さらに、斬新なイノベーションは、異分野・異文化についての知見、つまり教養によって生まれるのだと思います」

――日本だけで完結するビジネスが消えつつある今、さまざまな背景を持つ人々と働くためにも、グローバルにビジネスを行うためにも、幅広い教養を養うことが大切なんですね。
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「さまざまな社会にいる人の立場になって考えて行動するには、語学だけでなく、その歴史や文化、価値観を知ることが極めて大切。その根底にあるものこそが宗教です。

なぜなら、物事のあらゆる側面には、宗教の影響があるから。たとえば、アメリカの動向は世界の政治経済に影響を及ぼすため、キリスト教についての知識がないとアメリカ人との付き合いやビジネスは難しい。

ほかにも、キリスト教を普及させ、人々を啓蒙する目的で生まれた西欧の音楽や美術、『自分とは何か』『生きる意味とは?』といった宗教の誕生や宗教観とかかわる古典文学や哲学。AIからゲノム編集、安楽死まで最先端の科学技術の捉え方も、宗教観によって変わるのです」

世界中のビジネスの場で学んだ宗教リテラシー

人がそれぞれ持っている価値観をつくる大きな要素が宗教であり、その意味では、宗教はすべての人に関わりがあるものだと山中氏。

「相手の価値観が分かることで相互理解が深まるものですが、逆に無知であることで地雷を踏んでしまうこともあります。

何十年も前の話ですが、私自身、キリスト教の宗派、プロテスタントとローマ・カトリックの違いについて知らなかったことで、失敗してしまった経験があります。

同じキリスト教でも、カトリックは、どんな罪人も巡礼や寄付、ボランティアなどの善行を積めば救われると考え、一方で、プロテスタントはどんな罪人も信仰によって救われると説きます。

また、カトリックの神父は生涯独身で、プロテスタントの牧師は妻帯が認められています。プロテスタントでは認められている離婚が、カトリックでは原則許されません。

そうとも知らず、当時の私は、カトリック教会の神父に結婚をしているかどうか聞いてしまったのです」
iStock.com/Photoboyko
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今後ビジネスやインバウンドで関係が深まるといわれる東南アジアは、宗教偏差値の高い国。マレーシアの国教はイスラム教で、インドネシアにも2億人以上のイスラム教徒がいる。IT産業で日本とのビジネスが活発なインドは、人口の80%以上がヒンドゥー教だ。

「何より日本に対して大きな影響力を持つアメリカは、世界でもトップレベルの宗教的な国家。アメリカを知るためには、ユダヤ教の知識も外せません。

インテルやグーグル、フェイスブックの創業者は実はユダヤ人。アメリカの人口3億2500万人に対して、およそ500万人いると言われるユダヤ人は、出版業界やマスメディア、エンターテイメント業界において、強い影響力を持っています」

グローバルエリートはどう会話するか

ブリッジする会話で心をつかむ

世界で活躍するビジネスパーソンになるために、どのように相手と付き合うべきかは、原則“ブリッジする会話”、つまり自分と相手をつなぐ橋をかける会話を山中氏は勧める。
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「ブリッジする会話とは、相手の国や社会、人の価値観を踏まえた上でその長所について話したり、あるいは相手の国や文化と自分の何らかの関係について述べるということ。

たとえば、相手が演劇好きならイギリス人と話すときにはシェイクスピアを、フランス人ならモリエールを話題にするということです。

ほかにも、キリスト教のカトリックは、ボランティア活動に積極的。それに対して単に『立派ですね』ではなく、背後にある宗教的価値観について話すことが会話のブリッジになる。

ユダヤ教やイスラム教は、率先して宗教について語ろうとしませんが、機会があれば話したいし、自分たちの宗教を知って欲しいと思っています。その場合は、日本人が得意とする聞き役に回りながら会話を進めていくと関係の構築につながります。

ヒンドゥー教徒の方は、仏教に対して親近感を持っている方が多い。それは、仏教がヒンドゥーから派生したという歴史があるからです。実は仏壇やお墓に花や食べ物を備えるという私たちの習慣は、ヒンドゥー教からきているもの。そういった共通点について話すのもいいですね」
ヒンドゥー教
iStock.com/Iryna_Rasko
ほかにも、2019年12月、安倍首相がインドのモディ首相が来日したときに京都の東寺を案内したのもひとつのブリッジ。東寺にあるのはインド的な仏像なので、密教の流れを汲んでのことだと山中氏。

「こうした会話は外交シーンでよくあることですが、当然ビジネスの場や普段の国際交流でも大いに活かせるテクニック。相手の国の歴史や文化、宗教、言語などについて最低限の正確な知識を持ち、相手の価値観に合わせて会話をブリッジすることは今後のビジネスエリートにとって不可欠です」

しかし、相手の国について知らなければ、海外でそれが非常識と捉えられてしまったり、マナー違反となってしまう一方で、真っ先に学ぶべきは自国の宗教であると山中氏は話す。

まずは日本の宗教を知ること

――教養としての宗教知識がこれからのビジネスパーソンに必要である一方で、日本人は「無宗教」だとよく聞きます。
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「自分は特定の信仰を持たず、無宗教であると答える人も多くいます。日本人だけの場ならばこの答えは自然に受け入れられるでしょうけれど、外国人がいる場でこの発言をしたら、よほどの日本通か無神論者の場合でない限り、相手は間違いなく違和感を抱きます。

日本人は決して無宗教ではありません。神社で初詣もしますし、葬式のときには、お坊さんを呼んでお経を唱えます。また、『ありがとう』『いただきます』と言った誰もが日常的に口にする言葉さえ、神道や仏教といった宗教と関係しています。

日本が無宗教といわれるのにはさまざまな影響があり、まずは地理的な理由。世界5大宗教のうち、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つは中東の発祥で、それらが伝わるには日本は距離がある。

残る2つのヒンドゥー教と仏教はインドで生まれ、日本には中国経由して仏教のみ伝わりました。島国であるため、世界の宗教を信じる他民族との本格的な争いもなかったこともあります。

また、仏教が日本に伝来する前、当時の日本には自然崇拝をベースにした民族宗教、神道が存在しました。八百万の神を信じ、そのまま仏教を受け入れたことで曖昧になるのも頷けます。

さらに、日本の歴史の中で、明治時代に仏教を一時弾圧し、天皇を神のように崇める『国家神道』となったことも関係しています。

こうした背景のもと、仮に宗教偏差値なるものがあるとすれば、日本は低いと言わざるを得ません。

――外国人の方と話す際は、やはり日本について聞かれることも多いのでしょうか。
日本の文化
iStock.com/SAND555
「海外の方は、自分たちがよく知らない仏教や神道、あとは海外で人気が高まっている禅や瞑想、つまりマインドフルネスについて『日本人なら教えてくれるだろう』という期待を持っています。

それ以外にも、日本には、浮世絵 、歌舞伎、 能、茶道など、独自の文化が豊富にありますが、日本人でさえ難しくてよくわからないという方は多いのではないでしょうか。

もちろんさまざまな国について学ぶことは大切ですが、その前に自国の宗教や文化を知り学ぶのは、実はとても大切なこと。

せっかくブリッジする会話で自分と相手に橋をかけても、どちらかの一方通行になってしまっては会話は弾みません。両方通行するためにも、海外はもちろん、自国について学び、教養を深めていくことで会話力は格段にアップします」

後編では、実際に子どものグローバルリテラシーを育むためにどんなことをするとよいか、具体的な方法を聞いていく。

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

<連載企画>学校では教えてくれない バックナンバー

2020年06月18日

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