現代の子どもは脳に「余白」がない。「ぼーっとする時間」こそ、最強の教育投資である

現代の子どもは脳に「余白」がない。「ぼーっとする時間」こそ、最強の教育投資である

2026.05.11

Profile

成田奈緒子

成田奈緒子

小児科医師/子育て科学アクシス代表/文教大学教育学部教授/医学博士/公認心理師

小児科医師、子育て科学アクシス代表、文教大学教育学部教授。 医学博士。公認心理師。1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学、発生学、解剖学、脳科学の研究を行ったのち、2014年に子育て科学アクシスを立ち上げる。臨床医、研究医としての活動を続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。『高学歴親という病』(講談社)、『中学受験の落とし穴 ―受験する前に知っておきたいこと』(筑摩書房)、『気づいたら、親と同じことをしている 苦しかった「親の子育て」をくり返さない方法』(幻冬舎)など著書多数。

「完璧な母親にならなければ」「習い事や塾で子どもの可能性を広げたい」——。子どもの将来を想うあまり、かえって子どもの脳を疲れさせてしまっている保護者の方は少なくありません。今回は、小児科医であり脳科学の専門家でもある成田奈緒子さんに「子どもの脳を健やかに育て、本来の力を引き出すための親の関わり方」について伺いました。キーワードは「脳疲労の解消」。親が意識すべき3つの視点をお届けします。

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視点①:眠っていない子どもの脳は疲れはてている

成田:子育て中のご家庭を見ていて、親も子もあまり眠れていないという問題に気づきました。

子どもは発達の途中ですから、大人よりもずっと長い睡眠時間が必要です。教科書的には、5歳児は1日11時間の睡眠が必要とされています。夜7時に寝て朝6時に起きる、という計算ですね。でも、ほとんどの日本の5歳児はこんなに長くは寝ていません。小学生も同様で、本来は10時間寝てほしいところですが、毎日10時間眠れている子はなかなかいないのが現実です。

現代は親御さんも忙しく、帰宅も遅い。お稽古事もある。そうすると、寝るのが夜10時前後になる小学生がとても多く、睡眠不足の状態がずっと続いてしまっているんです。

睡眠は、特に発達期の子どもにとってとても大切な時間です。寝ている間に成長ホルモンが分泌されますし、学校で仕入れてきた情報や知識を整理整頓して、朝起きた時にはきちんと脳の中に収めてくれる。決して無駄な時間ではなく、脳をうまく働かせるための大切な休憩時間なんです。

それなのに、脳にいろんな情報が詰め込まれっぱなしで、大事なホルモンも分泌されない状態が続くとどうなるか。朝起きても脳がすっきりしません。子どもは「だるい、眠い、つらい」という状態になり、学校に行ってもパフォーマンスを発揮できません。これは子どもだけの話ではなく、大人も同じ。寝不足によって、脳が常に疲れ果てているんです。

イメージで言うと、机の上に毎日いろんなファイルが置かれていく状態ですね。「九九を習った」「友達と喋った」と。それを寝ている間に、「九九は前回2の段を習ったから、今日は3の段。じゃあその隣に置いておこう」とファイルを1個ずつ棚に整理し、「これはいらないな、友達と喧嘩したけど忘れよう」という感じで、レム睡眠という浅い睡眠のときに机の上を綺麗にしていく。だから朝起きたとき、また新しい情報をいくらでも入れることができるんです。

でも、ちゃんと睡眠を取らないと、ファイルが乱雑にのっかった状態のまま朝を迎えてしまう。そこに新しい情報を入れようとしても、もう入らないんです。

子どもは寝付いてから4時間ぐらいがゴールデンタイムで、その間に成長ホルモンがドバドバ出ます。ただ、寝るのが遅くてこの時間帯が夜中の2時などにずれ込んでしまうと、成長ホルモンがちゃんと分泌されません。筋肉や骨をしっかり発達させたいなら、なるべく早く熟睡の状態に持っていくのが理想です。

もう一つ大事なのが、朝の光です。朝起きて太陽の光を浴びてセロトニンを分泌させておくと、夜はメラトニンという眠くなる物質が出ます。ところが、家の中で電気を煌々とつけたり、メディアの光を目に入れたりすると、メラトニンの分泌量がどんどん下がっていく。すると、寝付きが悪く、熟睡できない脳になってしまうんです。だからこそ、特に発達期の子どもには、夜は寝る、朝は起きる、というリズムを根性でつけていただきたい。

教科書上の睡眠時間は、5歳児で11時間、小学生で10時間、中高生で9時間。とはいえ、今の日本の現実にはなかなか合いません。そこで私はその間をとって、5歳児で10時間、小学生で9時間、できれば中高生で8時間の睡眠時間を確保してほしいと思っています。大人の方は7時間。これを意識していただくだけでも、だいぶ変わると思います。

特に乳幼児期、5歳ぐらいまでの子は1週間で変わります。ここでコツがあって、遅く寝る癖がついている子を無理に8時に寝かせようとしても、寝付かないんですね。親もイライラしてうまくいきません。だから、早く寝かせるのではなく、早く起こすほうから始めてください。

今起きている時刻から、15分でも30分でも早めに起こす。最初の何日かはダメなんですが、3日ぐらい経つと、機嫌よく朝起きるようになります。それともう一つ、保育園のお昼寝をなるべく1時間程度でやめてもらって、その後は寝かせないようにしてもらう。家に連れて帰ってからも、その1週間だけは根性を入れて夕寝をさせない。そうすると自然に眠くなって早寝になり、寝かしつけなくても眠れるようになります。脳がもう作り替えられるんです。

私は生後50日から子どもを保育園に預けて、ずっと働いていました。でも、夜8時に絶対寝かせる、というのは死守していましたね。

食事は、納豆ご飯なら2分半でできます。読み聞かせは時間があるときはもちろんしますが、お布団に入ると眠くなってしまうので、さっさと電気を消して、暗闇の中で桃太郎の話を適当に喋ったりしていました。

お風呂は、夜はほぼ入らず絞ったタオルで体を拭くだけ。私はずっと朝風呂なので、朝お風呂を焚いて、子どもも一緒に入っていました。時間がないときは、お風呂より8時に寝かせるほうが優先です。

というのも、理論上、夜にお風呂で長く体を温めてしまうと寝付きが悪くなるんです。お風呂に入るなら、上がった後に1時間以上クールダウンの時間が取れる日にしないと、体温が下がらない。特に子どもは体温が高いので、寝付きが悪くなってしまう。だから理論的には朝風呂のほうが理想的です。私は何十年と朝風呂を続けていますが、体の調子がむちゃくちゃいいです。

——当時、保育園のお迎えは何時頃に行かれていたのですか?

理想は6時半ぐらいだったのですが、当時は病院の医師をしていたので、子どもが乳幼児期だった頃は、一番遅いときで7時45分頃に帰宅する日もありました。それでも、15分で寝かせることは割と可能です。

ここが大事なのですが、親子共々8時にお布団に潜り込む。大人は7時間の睡眠でいいので、朝3時に起きればいい。だから朝3時に起きて、溜まった家事やご飯の用意、お風呂などを済ませる。そして子どもは6時ぐらいに起きて、朝に団欒の時間を設ける。これがうちの基本的な生活リズムでした。

日本の方は夜に重たいご飯を食べる方が多いのですが、脂っこいものや消化しにくい食べ物を寝る直前に食べてしまうと、消化に血流が取られて体に負担がかかり、睡眠が浅くなりがちです。理論上は、朝が一番重いご飯、夜は本当に軽いご飯、というほうが睡眠もよく取れます。

人間は朝起きて日中活動して、夜は寝る動物ですから、どうしても朝の方が元気なのです。元気ホルモンと言われるコルチゾールが脳内に分泌されますし、安心や安定をつくってくれるセロトニンという神経伝達物質も、朝太陽を浴びるとドバッと出てきます。だからできるだけ家族全員、笑顔で朝ごはんをドバッと重く食べてほしい。ちなみにうちでは、朝から焼肉、朝から鍋、朝からうな丼、というのが普通にあります。

視点②:ぼーっとする時間を大切に!

今、お子さんたちを育てている親御さんは、とにかく子どもを少しでも良い方向に育てたいという願望が強いので、次から次へといろんなタスクを子どもに埋め込みます。お稽古事、習い事、塾もそうですし、いろんなところに遊びに連れて行かなければいけない、とか。さまざまな「〜しなければならない」を一生懸命やっていらっしゃるんですが、一方で、ぼーっとさせていないんですね。

むしろ、このぼーっとしている時間にこそ、一番大切な脳のパーツである前頭葉が活性化しているということがよく知られています。

これはデフォルトモードネットワーク、DMNと略して言われるものです。脳の中には、これまで蓄積された知識や情報があります。例えば「3×3=9」とか、「ネズミの尻尾はくるっととなっている」とか、いろんな情報が詰め込まれている。ぼーっとしていると、その情報がポン、ポンと前頭葉に浮かんできたりするんです。そして浮かんできたときに、「あ、じゃあ象の上にネズミが乗ったらどうなるんだろう」みたいな、新規のアイデアが浮かびやすい状況になる。これがデフォルトモードネットワークと言われる状況なんですね。

だから、このぼーっとする時間を人間の生活の中で、意図的にでも作ったほうが、創造力、クリエイティビティは高まると思います。

大人の方も皆さん、そういう経験があると思います。

私は朝お風呂に入るんですけど、お風呂に本とカフェオレを持って入りまして、ちょっと本を置いて、「あ、そうだ、今日のスケジュール……」とか浮かんできて、「あれ、あのレジュメこう書いたかな? いや書いたな。でもあそこちょっと気に入らないところあるよな。……あ、そうだ、今読んでたこの本のここのところ入れたらめっちゃよくない!?」とか、思いつくのって本当に朝の時間なんですよ。

この朝のぼーっと時間が、私のクリエイティビティの根源です。これを子どもに作ってあげないことは、ものすごく損失だと思います。そして、無駄に子どもの脳を疲れさせている。

——テレビを見ている状態は、ぼーっとに含まれますか?

ならないですね。メディアの刺激はすごく強いので、その強い刺激がどうしても脳を奪ってしまう。脳の中に自発的に出てくるパチパチとした火花のようなDMNは、なかなか起こりにくいなと思います。

なのでおすすめは、何もかもを手放して、子どもと一緒にお散歩。お散歩は何も持たないので、私もお散歩は結構アイデアが閃くチャンスなんです。メディアが入ってくると難しいのはよくわかるんですけど、意外と子どもたちはメディアより親が好きです。公園に行ってぼーっとおにぎりを持って、「あ、鳥の声可愛いね」とか言っているだけでも、非常に楽しいと思うので、意図的にぼーっと時間を作っていただきたいなと思います。

ご自身のお子さんがぼーっとする子だったら、そこで親は焦らずに、「思いっきりぼーっとしているな、この子」と見ていてあげてください。「何か考えていたの?」と聞いて「ただぼーっとしていただけ」と言われても、焦らないで。そこから、学校で知識が入ってきたときや、本を読んだり漫画を読んだりしたときに、火花を散らして創作意欲に繋がったりすることは、本当にあるので。

視点③:教えすぎない、伝えすぎない、そして待つが親の仕事

悪気があるわけではないんですけど、どうしても「子どもに何かさせなきゃ」「うちの子ができないことを代わりにやってあげなきゃいけない」という「〜しなきゃ」の気持ちが強い方が多くて、子どもが何か困って言葉が出てこないときに、「こういう風に言うんだよ」「こうするんだよ」とどんどん伝えてしまう。待てない親御さんが多いなと思います。

これは過干渉といって、残念ながら子どもの脳を疲れさせます。いろんな言葉が次々と入ってくると、自分で考えるという力を減らしてしまうので、子どもの脳はキャパいっぱいになって働きにくくなり、疲れてしまうんです。

あとは、それだけいつも親御さんに心配されている子どもは、「あ、私はなんかできないんだな」という不安も抱えてしまいます。不安な脳というのは、常に不安が脳の中で渦巻いて休まることがなくなってしまうので、これもまた疲れる原因になってしまいます。

とはいえ、私もよくわかります。子どもに正しいことを教えたい。だけれども、そこをグッと下腹に力を込めて我慢して、口チャック。ただ見るだけ。「あー、やっぱり失敗したか」というのを見て、失敗したときに叱らない。笑顔で「あーあ、じゃあ今度はどうする?」と。このやり方をして失敗したから今度はこうしよう、と考えるときに脳はぐんぐん育っていくので、そのチャンスを子どもに与えてほしい。これに尽きます。

今、失敗させない親御さんが多いですよね。無駄が嫌なのかな。何か到達目標があったら、そこに最短距離で到達させたい、回り道はダメ、と思ってしまう。でも、回り道がいいんです。三歩進んで二歩下がるの、この二歩下がるがいい。これが脳を育てるので、下がらせてください。あえて失敗させてほしい。

特に首都圏は小学校受験や中学校受験がものすごく熱心じゃないですか。それで親御さんが教えすぎ、伝えすぎになるケースがとても多いのですけど、それと同じくらい子どもが道半ばでガタッと挫折してしまうケースも増えています。挫折というメンタル面だけじゃなくて、本当に体の症状が出てしまったりすると、もう四の五の言わず「これは手を引くしかないな」と親御さんもわかりやすくなる。

塾を辞めて、親子一緒に寝るという生活をきちんとするようにすると、あっという間に子どもが元気になるどころか、以前よりも伸びていくんですよね。脳がいつも疲れ切っていたので、新しい情報も知識も入らず伸び悩んでいた子が、一気にやめて生活を整えたら、今まで見たことないような能力を発揮しだす。結局、塾に行かずに受験をする子のケースも結構あるんですよ。

——睡眠時間を削って合格する子については?

短期的には、それで脳の学習能力が伸びたように見えるんですけれども。ただ、私たちがとても大切にしているのは、ペアレンティングトレーニングというメソッドで、子どもの脳を長期的に、本当に大人になったときに社会で役立つ脳を育てるということです。もちろん夜遅くまで勉強して小学校・中学校受験に成功して、エリートの階級を登っていく人もいるでしょうし、そこに異論を唱えるわけではないんですけれども。

社会で成功している人というのは、どうしても人と人との関係性が伴ってきます。例えば、人に助けてもらうことに対して「ありがとう」と言えたり、自分ができないことを「できない」と言って「ごめんなさい、手伝ってください」と言えたり。人と人との調和、関係性も伴って初めて、能力が活きてくる。

ただ知識を詰め込むだけの、いわゆる私たちが言うところの「お利口さんの脳」、大脳新皮質に知識を溜め込むだけじゃダメなんです。プラスして、前頭葉という高度な脳が、知識や情報を使いながら人と関係を築くスキルを身につけなくちゃいけない。そこがうまくできていない方が、最終的に社会には出たけれどもうまくいかなくて、早期退職するというケースも、実際に私のところにたくさん来るんです。

絶対とは言いませんけど、そういうリスクが高くなる。小児科の医師、脳の勉強をしているものとしては、あまりリスクを溜めないように、睡眠時間を基本に生活を考えながら、受験をするとしてもその範囲内で、受かるところ、いけるところ、自分に合うところを探していくのをおすすめしたいなと思います。

受験を私は否定しません。私も私立ですし、娘も私立、夫も私立でみんな受験しています。でも、身の丈に合ったところを選んでいますね。都内は本当にいい学校がいっぱいあるんですよ、偏差値にこだわらなければ。

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だからこそ、まずはその年齢に応じた十分な睡眠時間を取らせましょう。これは絶対です。その上で、自分の脳で子どもが思考する時間、つまりぼーっとする時間を与えてあげること。そして何かトラブルがあったり、親御さんが気になること、声をかけたいなと思っても、そこをグッと我慢して、子どもが自発的に言葉を出すまで待つという時間を取ること。

そうすることで、子どもは思考して、問題があったとしてもその問題を考えて、自分の考えを言葉としてアウトプットする。それによって、ごちゃごちゃしていた脳がスッキリして、次の刺激が入れられるような状態になります。脳疲労がなくなるのです。

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出版:日本文芸社

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