「両立できず」34.7%、不妊治療と仕事の両立が難しい理由

「両立できず」34.7%、不妊治療と仕事の両立が難しい理由

ライフスタイルやキャリアの多様化に伴い、未婚、晩婚、晩産化が進んでいる。不妊治療を視野に入れたときに、費用や仕事との両立はどうなるのか。「不妊治療を始めようと決めたものの、お金のことや、どんな治療やサイクルで進めるのかイメージが沸かない」という方へ向けて、データと体験談で解説していく。

前編では、不妊治療における経済面での負担を紐解いてきた。

しかし、不妊治療のハードルは経済面だけではない。治療へ割く時間の捻出、つまり仕事との両立が負担となり、治療を断念しているケースも少なくない。

不妊の原因はさまざまで、必ずしも女性の妊孕(にんよう)力のみが問題ではないが、いわゆる女性の「働き盛り」の時期と「妊孕性の高い時期」が重なり、妊活や不妊治療の開始が後ろ倒しになった場合、時に高度な治療を長期間受け、治療費も高額になるケースがある。

後編では、不妊治療と仕事との両立について、体験談を交えながら紹介していく。

「治療費50万以上」34.5%、不妊治療の現在地

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「不妊治療の支障」上位を占めるのは仕事との両立

経済的な問題だけでなく、通院時間の捻出や、治療タイミングの調整など、働きながらの不妊治療は時間との兼ね合いも大きな課題となっている。

 
 

最多を占める「治療のために仕事を休んだことがある」など、63.4%が不妊治療の支障として「仕事との両立」と回答していることになる。

仕事との両立が難しい理由としては、通院回数の多さが挙げられるだろう。不妊治療は、1回の治療を「1周期」として治療が行われる。治療1周期に仕事を休んだ回数への回答は次の通り。

 
 

治療1周期に仕事を休んだ回数は「1回」が29.0%、「2回」が25.0%、「3回」が19.1%と続く。生理周期に合わせた通院が必要となるため、おおよその予測はできるかもしれないが、あらかじめ通院スケジュールを立てることは難しいだろう。

経済面に加えて、ここまで見てきたように「仕事との両立」も不妊治療の大きなハードルとなっていることがわかった。

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仕事との両立「できなかった」の声、約35%

これから不妊治療を始めようとしている人の中には、仕事との両立が可能なのか不安に感じる人もいるかもしれない。

仕事をしながら不妊治療をしたことがある人に対して行った厚生労働省の調査では、以下のような回答があった。

 
 

「仕事と両立している」とした人が過半数である一方、「仕事との両立ができなかった」とした人の割合は約35%にものぼる。

さらに、仕事と不妊治療を両立できずに仕事、もしくは不妊治療をやめた、または雇用形態を変えた理由では、精神面での負担に続き、通院回数の多さ、体調・体力面の負担が挙げられている。


人知れず社内で排卵誘発剤を自己注射。むなしさと戦う日々

実際に不妊治療を経験した人から、仕事との両立で大変だったことを聞いた。

 
 

顕微受精の場合、卵子を取り出すとき・戻すとき、それぞれのタイミングで通院が必要となり、月15日以上通院することも。投薬や注射、血液検査などのスケジュール管理に神経を使いました。

 
 

土曜日は既に埋まっていることが多く、平日しか予約がとれませんでした。また、急遽休みを申請したときは、仕事で関わる方へ申し訳なく精神的につらかったです。

 
 

多い時で週3回クリニックに通う必要があり、時間調整がとにかく大変でした。

 
 

排卵誘発剤を使用していたときは、決まった時間に自分で注射を打つ必要があり、会社のトイレで打っていましたが、時々「なぜこんなことをしているのだろう……」と悲しくなりました。

iStock/Liuhsihsiang
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排卵誘発法とは、誘発剤の使用により卵子を発育させ排卵を促す方法。排卵障害の兆候が見える場合に行われるほか、妊娠率が高まるとされているため、体外受精と排卵誘発法を併用する場合もある。

排卵誘発法にもいくつか治療法があるが多くの場合、医師からの指示のある一定期間、毎日決まった時刻に注射を打つ必要があり、このために退職したという声もあった。


有休や時間休を駆使して治療時間のやりくり

不妊治療が大変だという意見が多くを占めるなかで、どのように治療にかかる時間を捻出していたのか。両立の工夫を聞いた。

 
 

ミーティングの時間を調整したり、直行直帰を利用して通院していました。治療の大半は経過観察での通院で、一回の治療時間は短く会社を休むほどではなかったので、仕事に影響の少ない半休・時間休を取っていました。

 
 

定時制ではなく裁量労働制で働いていたことから、スケジュールを自分で立てられたため、仕事の合間を縫って通院しました。

 
 

外回りの仕事の空き時間に予約を取りやすいクリニックに通院しました。通いやすさを重視し、業務管轄内のクリニックを選びました。

 
 

医師の判断で来院日が決まり、4〜5時間かかるため、通院の日は仕事を休むか、夕方の予約を入れて時間休をとって通っていました。

 
 

コロナ禍ということもあり、リモートに切り替えて仕事をしていました。幸い、自分で時間調整できる業種だったため不妊治療に専念することができました。また、リモートワークの夫のサポートがあったことも助かりました。

iStock/Pra-chid
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裁量労働制や自由な働き方ができる場合は、不妊治療の継続が比較的実現可能だったようだ。一方で出社しながら治療を続けた人は、有休休暇などを利用したとのことだった。

一部の企業では、不妊治療のために特別休暇を認めるケースもあるようだ。しかも不妊治療をしていることが周囲の人にわからないように、不妊治療のための休暇であっても、通常の有休休暇と同じという。

そのほか、不妊治療のために退職した場合でも、一定年数以内であれば復職を認めるという企業もあるようだ。


職場への共有「一切伝えない」が約6割

不妊治療に対して、職場の理解はあったのか。「不妊治療をしていることを職場の人に伝えたか。伝えなかった場合の理由」についても聞いた。

 
 

生死に関わる問題でもなく、うまくいくかどうかもわからないため、伝えませんでした。治療をやめると決めたときに、周囲の人に気を遣わせてしまうことも伝えなかった理由のひとつです。

 
 

転職したばかりで理解を得られそうになかったため、伝えませんでした。

 
 

社内でも重要な仕事を任せられていたため、妊娠を考えているとは言えませんでした。自分で立てられるスケジュール内で通院と仕事を両立できたため伝えずに済みました。

 
 

家族や友人には伝えましたが、仕事関係の人には伝えず……。リモートワークだったため伝える必要がなかったこともありますが、余計な心配をかけてはいけないと思い話しませんでした。

 
 

不妊治療に専念するため役職を降ろしてほしいと上司に伝えました。

iStock/kieferpix
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厚生労働省の「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」によると、不妊治療と仕事を両立している人のうち、「一切伝えていない(または、伝えない予定)」とした人が最も多い約58%、「職場ではオープンにしている(または、オープンにする予定)」とした人は、その8分の1程度にとどまる。

職場に伝えなかった理由として、「伝えなくても支障がないから」と回答した人も一定数いるものの、それを上回って「不妊治療をしていることを知られたくないから」「周囲に気遣いをして欲しくないから」「不妊治療がうまくいかなかった時に職場に居づらいから」という回答が上位を占めた。

このことから、不妊治療をしていることが受け入れられる職場環境が十分に醸成されていないことがうかがえるだろう。


まずは不妊治療に理解を。企業への望みと課題

最後に「不妊治療に配慮した制度として、会社に希望するのはどのような制度か」という質問に答えてもらった。

 
 

不妊治療に限らず、副業や趣味などで柔軟に半休・時間休をとれる制度があれば良いと思います。不妊治療に特化した休みだと、周囲に公言する必要があり、当人の気持ちが追い付かなかったり、周囲の理解がなかったりする場合もあると思うので。

 
 

不妊治療のため役職を降りたいと申し出た際に、一部の上司から傷つくことを言われたため、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント等の研修の際に、不妊治療についても取り上げてほしいと思いました。

 
 

今後のキャリアのことを考えると、妊活の宣言をしづらいため、制度があったとしても使わないかもしれません。

 
 

私はフリーランスで仕事をしているため、不妊治療に集中することができましたが、頻回な通院と長時間の拘束……会社に通いながらの治療を両立されている方は、かなり厳しいのではないでしょうか。不妊治療のために仕事を休める制度や、フレキシブルに働ける制度など、男女ともに支援が必要だと感じます。

 
 

妊活に対して社内の認知が低く、言える環境ではありません……。会社に望むというよりも、国を挙げて制度や風土づくりをすることで、妊活に対しての社会認知が広まるといいと思います。まずは、妊活を公言できる環境を作ってほしい。

iStock/metamorworks
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ふたつの壁を乗り越え、不妊治療の理解が進む社会へ

厚生労働省の「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」によれば、2017年には日本で56,617人が生殖補助医療により誕生している。これは、全出生児の6.0%に当たり、約16.7人に1人が体外受精や顕微授精などの不妊治療により生まれている計算になる。

少子化に歯止めをかけるべく、政府は現行の不妊治療の助成拡充のフェーズを経て、2022年4月からの特定不妊治療の保険適用化など対策を講じている。

また、まだまだ醸成段階ではあるものの、不妊治療に配慮した制度を取り入れている企業も増えつつある。

政府や企業の施策によって今後、不妊治療にチャレンジできる人がさらに増えるかもしれない。


<執筆>KIDSNA編集部


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2021.06.18

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