家事・育児の分担は、夫婦の未来から逆算せよ【安藤哲也×土屋礼央】

家事・育児の分担は、夫婦の未来から逆算せよ【安藤哲也×土屋礼央】

男性の育休取得率の増加や、2022年4月の「育児・介護休業法」の改正。時代の変化の兆しを感じる一方、男性の育児参加を侵害する「パタハラ」の問題、慣れない家事や育児に戸惑う男性の声も聞かれる。男性の家事・育児参加について、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の安藤哲也さんと、タレントの土屋礼央さんに対談していただいた。

男性の家事・育児参加をめぐる状況に追い風が吹いている。

2019年まで一桁台だった男性の育休取得率が、2020年に初めて12.65%と二桁台に到達。2022年4月からは男性の産休取得促進のために改正された「育児・介護休業法」が段階的に施行され、これまで産休・育休を取りたくても言い出せずにいた男性も取得しやすくなる。

この時代に、男性は何を考え、家事・育児にどうコミットすれば、夫婦や家族の幸せにつながるだろう。また女性の側は、どうやって男性を家事や育児に巻き込み、どんな夫婦の未来を描けるだろうか。

父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事で、自身も3人の子どもの父親である安藤哲也さんと、著書『ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。』で夫婦間の家事育児をめぐるエピソードを発信した1児の父でミュージシャン・タレントの土屋礼央さんに対談をしていただいた。
 
右:土屋礼央(つちやれお)/RAG FAIRとして2001年にメジャーデビュー。11年よりソロプロジェクトTTREをスタート。音楽活動以外にも、執筆やラジオなど多方面で活躍中。著書に『ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。』(KADOKAWA)など。 左:安藤哲也(あんどうてつや)/出版社、書店、IT企業などを経て、2006年に父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。現在、FJの「イクボス」プロジェクトを中心に、企業・地方公共団体・一般向けのセミナーなどで全国を飛び回っている。著書に『「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)など。

「どうしたら夫が協力的になりますか?」では解決しない

――昨今、男性の家事・育児参加についてさまざまな声が上がるようになってきました。一方で、「下手に手出ししたら怒られそう」などと戸惑う声もあります。お二人は、どんなきっかけで主体的に家事・育児をするようになったのでしょうか。

安藤哲也さん(以下、安藤さん):僕は35歳で父親になり、子どもは3人います。1962年生まれだから、生まれた実家は専業主婦の母親と働く父親。そういう男女の役割分業が普通の家庭で育ちました。

僕の世代は女性の寿退社が普通だったんです。大学を出て企業で働いていても、結婚や出産で辞めちゃうのが当たり前という感覚で。でも僕の妻は共働きが多い北陸の出身で、当時から家庭を持っても働き続けてキャリアを伸ばしたいと考える人でした。

僕が家事・育児に主体的になれたのは何かきっかけがあったというより、実家も遠くて両親に頼ることもできなかったので、すべて自分たちでやるしかなかったからなんです。僕も妻も働きながら子育てもしたいという思いがあったので、自然の成り行きでした。

20~30代は出版業界でがむしゃらに働いてきたけど、子どもが生まれてからは仕事と家庭のバランスを考えるようになりました。父親になった頃は本屋の店長をしていたのですが、保育園に娘を迎えに行って、そのままお店に戻り、娘をおんぶしながらレジに立っていましたね(笑)。
 
土屋礼央さん(以下、土屋さん):僕は、36歳で結婚生活と子育てが同時にスタートしたとき、自分が家事・育児をするイメージがまったく湧かなかったんです。

でも、妻は何事もはっきり伝えてくれる人でした。「仕事と家事は分担という考え方でいいけど、二人の子どもなんだから育児はフラットに考えてほしい」と刻々と説明されたし、おかしいことは「おかしい」と問題提起する。何かあるごとに夫婦で話し合いを重ねました。

時間はかかったけれど、最初は「言われるままに仕方なく」から「妻を助けなきゃ」という思いに変わり、次第にひとりでできるようになっていきました。

ここまでできたのは、妻の考え方を素敵だなと思って結婚したこと、そして今も勉強し続けている妻を尊敬する気持ちがあるからなんだと思います。
 
安藤さん:それは僕も同じ。妻は給料のためだけに働いているわけではなく、明確なキャリアプランを持っている人で、そういう部分を含めて彼女に惹かれたので、応援するのがパートナーの勤めだと思っていました。妻を応援しなくちゃと思った先に、家事や育児があった。

僕は父親支援のNPOをやっていますが、日ごろママたちから「協力的な夫にするにはどうしたらいいですか」という質問がたくさん来ます。でも、僕は「夫に家事・育児を協力してもらう」というのは目的ではなく、手段に過ぎないと思うのです。

育児や家事の負担が重いとか、子どもがいても働きたい、いつかはまた働きたいという思いがあるのならば、それをパートナーに伝えていることがまず大事です。

言わないままだと、いつまでも夫は「妻はすべて家のことをしてくれるもの」だと思っているし、だから「自分はそのぶん大黒柱として稼がなきゃ」と思い込んで、残業代を稼ぐために遅くまで帰ってこないことが多いのです。

つまり、「目の前の家事育児をどう分担するか」だけを見ていても、根本的な解決にはなりません。

結局は「それぞれがどんな暮らしがしたいのか。どんな人生を送りたのか」があって、それを尊重し合う夫婦だからこそ、家事や育児は二人の協働作業になるんだと思いますね。

夫婦が本音で話し合わない限り、自然と古い価値観に染まり、性別役割分業に従うことになってしまうんです。それがストレスのまま続くと結局、別れてしまうことも多いのです。
 
土屋さん:「話し合う」って言葉にすると簡単そうだけど、実際には自分の抱えている葛藤を言葉にする時点でひと苦労ですよね。

うちは話したいことがあって時間を作りたい時は、シリアスな空気になりすぎないように、仕事のアポイントメントを取るテイで「〇月〇日に1時間ミーティングをお願いします」と妻にメールしたりしています。ちょっとネタっぽい要素を取り入れながら、二人で話す時間を作っていますね。

もう一つルールにしているのが、どんなに揉めても「離婚」というワードを絶対使わないこと。

一緒にやっていくことを目的として、お互い歩み寄るためであれば、ケンカしたっていいと思うんです。でも最終手段の「離婚」を口にしてしまうと、もう決裂してしまって、あとは攻撃のし合いにしかならないので。
 
※写真はイメージ(iStock.com/Comeback Images)
安藤さん:それはすごくいいルールですね。

家族という閉じたコミュニティの中で、自分の主張だけを一方的にぶつけて、受け入れられずに「こんなはずじゃなかった」ってあきらめて、離婚に至ってしてしまうケースがいかに多いか。

でも「離婚はNGワード」のルールを作っておけば、「どうやってすり合わせるか」という考え方にシフトできますよね。

「半々」でなくてもいい。canよりwillで分担すべし

――お互いのリスペクトがあるからこそ、話し合いをして家事・育児に参加されたという点ではお二人は共通していますね。一方で、女性からよく聞くのは、自分の方が収入が低いので、家事・育児の分担を言い出せないという悩みです。

安藤さん:今の時点では男性の収入のほうが多かったとしても、将来のことはわかりませんよね。

今後、夫の会社が倒産するかもしれないし、女性が才能を開花させたりして、収入が逆転することなんて普通にありえますし。社会の状況や価値観だって変化するので、現状の収入差だけで考えないほうがいい。

僕はふだん夫婦の悩みを聞くとき、顕微鏡的視点じゃなくて、望遠鏡的視点で物事をとらえ直し、「can」より「will」で話し合いをするようにアドバイスしています。

どういうことかというと、目の前の家事・育児だけを見れば、収入の低い方がより多く負担すればいい、という話になる。これを僕は、「can=顕微鏡的視点」と呼んでいます。

でも一度視点を変えて、夫婦二人の将来をどう作っていくかに焦点を当ててみる。それぞれが望みを叶えながら一緒の人生を歩むために、お互いにどうやって支え合えばいいのか考えるんです。「will=望遠鏡的視点」というのはそういうことです。

なぜなら、この先、子育ては20年くらいで終わるとしても、そのあともパートナーとは40年くらいともに生きるわけですよね。そう考えたら、長期的に夫婦の関係が安定していた方がハッピーじゃないか、と。そのために今、何をすべきかを考えた方がいいと思うんですよ。
 
※写真はイメージ(iStock.com/Yuki KONDO)
安藤さん:繰り返しますが、大切なのはcanじゃなくwillなのです。

canは目の前のできる・できないの話なので、「今は仕事があるから、育児があるから無理」という話になる。でも、本当に大切なのはどうしたいかというwill。「子育てをしながらも仕事を続けたい」のか、逆に「今は子育てに重点を置いて仕事をセーブしたい」という考え方もある。

夫婦同伴セミナーでも、それぞれのwillを書いてもらって、それを見せ合いながら毎日のスケジュールを立ててもらうと、ほとんどは夫婦それぞれ見立てがずれてるんですよ。そこでケンカがはじまったりして(笑)。

でもそうやって話し合っていくうちに、だんだん夫婦が同じ方向を向きはじめる。「妻がそんなに自分のキャリアについて考えてるとは思わなかった」と知った夫もいれば、「夫には将来こんなことをしたいという夢があるんだ」と知った妻もいる。

つまり、完全に50:50(フィフティフィフティ)が正義ではないわけです。「手伝う」のではなく、「手を取り合って」やっていく。この感覚を持って、できることを主体的にやることが大事です。最終目標は、夫婦の関係をサスティナブルにし、人生をより楽しいものにすることだとすれば、今そこにある大変な家事・育児を、お互いが納得する中で協働していくことが大事なんですよ。

――家事育児の「平等」は、目の前のタスクを半々にすることだと思い込んでいました。お互いが納得のいく形になっていればいいということなのですね。

土屋さん:そういうことで言えば、僕は老後も妻に愛されたいので、自分の方が働いているからといって家事・育児をすべてやってもらうのではなく、できる限りサポートしたほうがいいと思っていて。

子どもの手が離れた途端に「はい、離婚!」とならないようにしたい。子どもが自立して僕たち夫婦の二人きりになって、その時にいきなりやさしくしても「もう遅いよ!」と愛想を尽かされてしまうでしょう。
 
土屋さん:だから、年金と一緒でコツコツ積み立てるしかない。過去の分をさかのぼって納付することはできないけど、ハイリターンでいずれ還付されるはずなので。

そのためにも、妻にはハッピーで無理のない状態でいてもらうことが大事なんじゃないかと思うんです。

最初は何もできなかった僕も、今では妻に「あなたは自分の幸せ以上に私の幸せを考えてくれてる。こんな安心なことはない」と言われるようになって、自分はちゃんと変われたんだって実感しています。

安藤さん:母親がハッピーな状態でいることは、子どもの自尊感情や精神的幸福度に直結しますしね。仲のいい両親に育てられた子どもは、ポジティブな状態で家から自立できると思います。

子どもが引きこもる、またはいつまで経っても実家から出ていかない、という問題の原因の一つには両親の不仲や家族のネガティブな生き方があると、いろんな事例を見て感じてきましたし。

まずは、子育て家庭というチームの核となる夫婦がどうやって前向きな関係性を作っていけるかですよね。
 
安藤さん:土屋さんはまさにそうだけど、追求すべきはテクニックより「関係性」です。それを楽しみながら確かなものにしていくと、おのずと家事・育児のやらされ感もなくなってくると思います。

現代は、さまざまな事情で結婚しない人もいれば、子どもを持たない人もいます。そんな中で、せっかくパパになったんだから、家族と笑顔で楽しもうぜと伝えたいですね。

男性育休は「幸せのものさし」を見直すチャンス

――そんな中、男性の産休取得促進のために改正された「育児・介護休業法」が、2022年4月より段階的に施行されます。産休育休を取得する男性への嫌がらせ(パタニティ・ハラスメント)も議論になっていますが、夫側の育休に対するマインドや、会社の理解についてはどのように期待されますか。

安藤さん:僕らのNPOでは今、人材のダイバーシティを生かした管理職の育成のための「イクボス研修」をやっています。

今では、女性は育休をほぼ100%取得できるようになったけど、今回の法改正で、男性も100%取得を達成したいという企業からの問い合わせが増えています。とある調査では、管理職の90%は男性も育休を取った方がいいと考えているという結果も出ています。
 
※写真はイメージ(iStock.com/petrunjela)
安藤さん:管理職の多くがそう考えるのはなぜかというと、男性育休はボウリングの1番ピンのようなもので、男性育休が当たり前になると、それによって家庭が安定して児童虐待が減ったり、子どものいる女性も社会で活躍出来たり、働き方改革が進んだり、介護による離職問題が改善されたり、男女平等が進んだり、最終的には社会全体の出生率が上がったりする。

1番ピンが倒れたことで次々とその後ろのピンも倒れ、いろんなことが良い方向に変わっていくと思うのです。

こういうことを経営者に伝えると、「男性育休を増やすことは、社会を変える最初の切り札なんだ」とすとんと腑に落ちる方が多い印象です。

――男性育休で1カ月職場を離れることを企業の「損失」と捉えず、会社が変わるチャンスだと捉える企業が増えることも大切なのですね。

安藤さん:僕は、育休は夫婦で半々で取るのがいいんじゃないかと思っています。

男性が「自分だけで稼がないと」というプレッシャーを感じながら働いたり、女性が「自分は夫より収入が低いんだから家事育児をやらなきゃ」と追い詰められるより、長い目で見たら、状況によってどっちのエンジンを使うか選べる「ハイブリッドエンジン」のようなやり方の方が、結局燃費もいいし遠くまで行けるわけですよ。
 
※写真はイメージ(iStock.com/recep-bg)
安藤さん:二人で稼げば家計収入が増えて子どもにも投資ができるし、自分たちが将来やりたいことや住みたい場所への資金が貯まる。なかなか増えない給料に嘆いて、毎日夜遅くまで働いて「子どもに会えない」と言っているのはもったいなくないですか。

子育ては期間限定なんだから、仕事だけに生きちゃうとあっという間に子育ては終わってしまいますよ。

会社の中で子育てを楽しみ、家族との良い関係を保っている男性の多くが「産後に育休を取っていた」となれば、「そんなに成果が出るなら自分も育休を取ってみようかな」と増えてくるんじゃないかな。一回そういう経験をして、その良さに気づけば、男性は案外すんなり変わるものですよ。

土屋さん:「自分の喜びはなんなのか?」を考えましたね。実際、僕も仕事について思うことはあって。

 僕はミュージシャンであり、ラジオパーソナリティであり、コラムニストでもある。やりたいことがたくさんありすぎて時間が足りません。そこに家族も出来た。

今まで以上に一つ一つにかける時間は少なくなった。追求しきれない葛藤もあります。それで失う仕事もあると思う。

ただ妻と色々話し合っているうちに、家族があっての仕事なんだと思えるようになった。「困ったら私も稼げばいいんだから」と妻が言ってくれるのも心強い。

今の僕は子育て、夫婦関係、仕事、そのすべてを楽しみながら毎日を過ごしています。これが僕なんだと思える毎日です。

僕のようなマルチな生き方をしているパパも、楽しそうだと伝わるといいなと思います。
 
安藤さん:そうですね。パパは同僚に負けじと会社で出世すること、住宅ローンを返し、子どもを大学まで行かせることを目標にしてしまう。ママもママで家事育児に追われながら、「なんであそこのパパはやっているのに、うちの夫は出来ないんだ!?」って他の家庭と比較してしまうと、それはやっぱりしんどいですよ。

そういうときは、「これが本当に自分たちの幸せなのか?」と検証してほしいですね。自分の中にある“幸せのものさし”が、昭和の時代のままだとしんどくなるばかりだから、「アップデートできているかどうか」をまず疑ってみてほしいですね。転職や副業はもう当たり前だし、男性育休だってもうすぐニューノーマルになりますよ。

土屋さん:「男なんだから」「女なんだから」という固定観念に縛られたり、ほかの家族と比較しない方がいいと思うんです。

比較や競争で楽しめる人はいいのかもしれないけど、終わりがないからやっぱり疲れるんじゃないかなって。比較じゃない喜びを見つけられると強いですよね。戻る場所がそこにある。

安藤さん:本来は一人ひとりの人生があって、なにかの縁で夫婦になって、チームを組んで子育てしたり、働いたりして、何十年も一緒に生きていく。今はその道の途中であってまだまだ先が長いんだから、今は自分たちなりの“幸せのものさし”をもって、家族全員がそれに向かって毎日を笑顔で暮らしていけるといいよね。canじゃなくてwillで!
 
<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2021年11月26日

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