【小川嶺/前編】Z世代がデジタルデバイスより大切にする「人間性」

【小川嶺/前編】Z世代がデジタルデバイスより大切にする「人間性」

1995/1996年以降に生まれ、スマートフォンやSNSが当たり前にある中で育ったソーシャルネイティブである「Z世代」は、これからの時代をどう切り拓き、どんな革命を起こしていくのか。世代のギャップを超え、親自身の考え方をアップデートするため、その価値観に迫っていく。第2回は、株式会社タイミー 代表取締役で、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を開発した小川嶺氏が登場する。

コロナ禍に注目された働き方がある。ひとつは時間や場所にとらわれずに働く“テレワーク”。そしてもうひとつが、インターネット経由で1回ごとに仕事を請け負い、空き時間を活用して手軽に働く“ギグワーク”だ。

働き方改革が推進され就業スタイルが多様化し、未曽有の感染症流行によって社会情勢が不安定になる中、気軽に始められる副業として、また人手不足解消のための一手として、ギグワークは社会に浸透しつつある。

Uber Eatsなど海外発のサービスが台頭しているこのギグワーク業界の中で、“働くインフラを作る”ことを掲げ、スキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を運営しているのが、株式会社タイミー代表取締役の小川嶺氏(以下、小川さん)だ。

「人生の時間は有限。時間の使い方に悩んだときにタイミーを使えば答えが出てくるという社会を作りたい。多くの人がワクワクして働ける社会になれば、人間はもっと豊かに生きられるはず」

働く人の時間の使い方を大きく変えようとしている小川さんは、どのような経験を経て今の価値観を身につけたのだろうか。今の子どもたちが巣立っていくこれからの社会についても迫っていく。

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小川嶺(おがわ・りょう)/1997年4月13日生まれ。高校生の時に起業に関心を持ち、リクルート/サイバーエージェントでのインターンを経験。2017年8月にアパレル関連事業の株式会社Recolleを立ち上げるも1年で事業転換を決意。2018年8月10日よりスキマバイトアプリ「タイミー」のサービスを開始。「一人一人の時間を豊かに」というビジョンのもと、様々な業種・職種で手軽に働くことができるプラットフォームを目指す。

もっと自由に働ける社会を作る

小川さんがタイミーをリリースしたのは2018年8月。応募や面接なしで働きたいときに即働くことができ、勤務終了後すぐにアプリ上のウォレットに報酬が反映されるサービスだ。

日本初のワークシェアサービスとしてユーザーの支持を集め、ワーカー登録者は2020年9月までに150万人にのぼり、25000店舗が利用している。

コロナ禍で社会における働き方の意識が大きく変わり、就業の多様化に対応できるフレキシブルな働き方が求められる中で、タイミーは在宅でできる仕事の掲載を開始するなど、社会の変化に対応した新サービスを打ち出している。

――2018年のリリース後も変化する社会のニーズを受け、柔軟に新たなサービスを展開しているタイミーですが、小川さんはどのような思いで運営をされていらっしゃるのでしょうか?

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「やはり一番は、雇用の創出をして社会のためになりたいということ。

タイミーにはユーザー(ワーカー)とクライアント(企業・店舗)がいますが、ユーザーにはコロナ禍で仕事がなくなった方や、副業を求めている方がいる。

クライアントに関しては、繁忙時に人手が足りず、それでもなんとか業務を回していかなきゃいけないので、人員確保にかなりの浪費をしたり、無理がたたって病気になってしまうという状況が多くある。

そんなユーザーとクライアントの両方に対し、タイミーを通じて“すぐに気軽に働ける” “健全で適正な人員配置”というものを実現して、人手が必要な場所にきちんと働き手がいるような状況が作れれば、働き方に多様性が生まれ、世の中がもっとよくなるのではないかと思っています」

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創業メンバーとの一枚。(提供:小川嶺さん)

――今ある働き方では解決できないところを、タイミーで変えていくと。

「“働くインフラを作る”といっていますが、要は“好きなときに好きな分だけ働ける世界があってもいいんじゃないか”ということですね。

タイミーを立ち上げる前、大学2年生のときに取り組んでいた事業を解散させてから、日雇いなどの単発アルバイトをやるようになりました。普通の大学生に戻ったんです。

それまではずっと社長として忙しい毎日を送っていたのに、それからは燃え尽きたようにやる気が一気になくなり、SNSや居眠りばかりの生活になりました。人生の時間は、ぼーっとしてるとすぐ過ぎてしまうほど短いなと感じていた。

そんなとき、『自分の時間を世の中が欲しがってくれるサービスがあれば』と。

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さらに、自分自身が宅配業者や日雇いのバイトをする中で、バイト当日を迎えるまでの説明会での登録や仕事の依頼をメールでやり取りするといったフローが非常に面倒だと感じていたので、『働きたいときに働いて、応募から入金までの手間を省いてすべてワンストップでできるアプリがあれば』と。

そこで人手が足りていない店舗とすぐ働きたい人をマッチングするというアイデアを思いついたのがきっかけです」

尊敬する祖父の死で“時間は有限”だと認識

「一人ひとりの時間を豊かにするということが会社のビジョン。

今は働くことに関するサービスしかないですが、働くことに関するサービスだけではなく、暇な時間で習い事ができたり、ニーズが合致する人と人をマッチングしたりなど、時間の使い方に悩んだときにタイミーを使えば答えが出てくるという社会を作りたいと思っています」

――それぞれに共通するのはどういったところなのでしょうか。

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「自分の中では一貫していて、“時間は有限だ”という意識が非常に強いんです。

その意識を強く持ったのは、祖父が亡くなったことがきっかけでした。将棋や囲碁を教えてくれて、知らない漢字がないほど物知りで記憶力がものすごくて、それなのにいつも謙虚さを忘れない、大好きな祖父でした。

もっといっしょに時間をすごしたかったなと思うんですけど、祖父が亡くなったとき自分はまだ18歳で、できなかったことがたくさんありますね。人生の時間は有限だということを痛いほど感じた、大きな出来事でした」

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iStock.com/Boris Jovanovic

――有限であるという前提があるからこそ、日々の時間の使い方が大切になってくるのですね。

たとえば今だと、ちょっとした時間があいたら“とりあえずSNSを見る”という方が多いと思うんです。

別に暇な時間にSNSを見るのが悪いとは思っていないし、現に自分もSNSをやっているんですけど、大事なのは『今この瞬間、SNSを見ること以外にどんな選択肢がありますか?』『その数多ある選択肢の中から選んだ結果がSNSですか?』ということを一人ひとりが自問しているかだと思っています。

自分もよく人に『すごいせっかちなんですね』って勘違いされるんですけど、それは全く違っていて、自分の中では常に一番楽しい時間を過ごしているだけなんです。

数多ある行動の選択肢の中から、毎回最善の選択をしているので、そのとき眠いんだったら普通に寝ます。それが自分にとっての幸せだから。

人生の時間は有限であるからこそ、働いている時間も、そうじゃない時間も常に“つらい時間を選択しない”。だからストレスが溜まらないし、常に一定のモチベーションを保てるので楽観主義だなと自分では思います

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スマホやパソコンより「体験」や「コミュニケーション」

――初めからアプリの形でサービスを開発しようと思われたそうですが、ご自身がデジタルデバイスを初めて持ったのは何歳くらいのときでしたか?

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「ガラケーは連絡手段として、小学校の2年生か3年生くらいのときから持っていましたね。

iPhoneにしたのは中学生のときだったかな。私立校に通っていて周りにお金持ちが多かったので、周りがスマホ使ってると自分も使わざるを得ないじゃないですか。なのでiPhoneは自分から買ってほしいといった気がしますね。SNSも同時期くらいに始めたと思います」

――インターネット上に溢れている情報に触れる中で、小川さんはどのような点を重視して情報を取捨選択しているのでしょうか。

「Twitterに関していえば、まずそのツイートが自分が信頼してる人のポストかどうかというのは見ています。

あとは、そのツイートに対しての反応も参考にするのですが、いいねの数が多かったり、トレンドに上がって話題になっているツイートでも、自分がその情報を見たときに根拠を知りたいなと思ったら、google検索で一次情報を探すこともあります。

とはいえSNSに割く時間は多い方ではないと思います。スマホやパソコンは好きじゃないので、プライベートではそんなに見たりしていません」

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iStock.com/Zephyr18

――プライベートでスマホをあまり見ないというのは、意外でした。

「IT会社なので普段はいじっていますけど、本当は自然の方が好きなので、シャットダウンしたくなる。今以上の量の情報はいらないと思っているし、利便性も求めていない。もう十分だなと。

ゲームもしないですし、スマホに入っているアプリもほとんどないですよ。自分たちの世代としては珍しいタイプだと思います。

自分ではわりと昭和なタイプの経営者だと思っていて、インターネットを介してSNSでやり取りするよりも、対面のコミュニケーションの方が好きなんです。

今は画面上の文字や映像でなんでも完結できる世の中になっていますが、だからこそ人と会ってワクワクする話をしたり、社内でもコロナが流行する以前は合宿や旅行によく行っていました。

こういった“体験”すること自体に価値を感じますし、今後は対人コミュニケーションができるということが重宝されていくと思います」

――対面でシェアする”感情”の部分を大切にしていると。

「そうですね。人間的・情緒的な部分は、自分の中で重要視しているところです」

世代が違っても目指す景色は同じ

――そんな小川さんが、学生起業家として仕事をしている中で、ジェネレーションギャップを感じたことはありますか?

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「人生経験がそもそも違うので、話や感覚が合わないことは普通にありますが、根本は大きくズレていなくて、“世の中をどうよくするか”ということをお互い同じように考えているんだなと感じています。

あとは、自分たちの世代ってもうお酒を飲まない世代で、毎日飲んだり仕事のために飲むのは考えられない世代だと思っているのですが、上の世代は家でもお店でも毎日飲むと聞いて、『飲みニケーションって本当にあるんだ』と驚くことはありました」

――世代間での価値観の違いを超えて協力していくためにどのような方法をとっていますか?

「相手を尊敬することですね。相手が持っている価値感や経験には自分にはないものがあって、自分が見たことのない景色を相手は見てきている。

その人を構成している要素というのがたくさんあって、その中に自分が尊敬できるポイントが必ずどこかにあるので、この人の場合はどこなんだろうと思って話を聞いていると、うまくコミュニケーションができるんじゃないかなと思っています。

そうして相手と接していると“慕われているな”と感じてくれて、気持ちよく話しているうちに心を開いてくれる。なので人と話すときはいつも尊敬できるポイントについて考えながら聞いていますね」

――10年後や15年後には小川さんが上の立場として、私たちの子どもの世代と社会で接することになると思いますが、そんな未来に大切なことは何だと思いますか?

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「間違いなく今とは違う世界があると思うけれども、そんな中でも、結局は世の中にあるサービスは、それを使う『人』に向けて作られています。

企業向けのサービスもユーザー向けのサービスもありますが、どちらも『人』が決裁者で、『人』に向けてさまざまなものが考えられ、『人』が使うものがつくられていくことに変わりはないですよね。

だからこそ、対人コミュニケーション力や人と話す力は、15年後の社会においても必要とされる普遍的なもの。

テクノロジーは進化していくので、ITスキルも大切ですが、それと同じように対人コミュニケーション力も備えた人材であれば、世の中に取り残されることはない。

この能力がある人が結果的にはいろんな企業からオファーをもらえるし、選択肢も広がると思います」

後編では、小川さんがどんな両親のもとで育ってきたのかを、大学在学中の起業エピソードとともに聞いていく。

【小川嶺/後編】“時間は有限” 革新的な時間の使い方を生み出すZ世代

【小川嶺】“時間は有限” 革新的な時間の使い方を生み出すZ世代

<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2020.10.26

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