【インドの子育て】“子どもは神様”アナログな環境でのびのび育てる

【インドの子育て】“子どもは神様”アナログな環境でのびのび育てる

さまざまな歴史や風土をもつ世界の国々では、子どもはどんなふうに育つのでしょうか。この連載では、各国の教育や子育てで大切にされている価値観を、現地から紹介。今回は、インドで出産・子育てを経験されたさいとうかずみさんに話を聞きました。

<連載企画>世界の教育と子育て
早期から算数、ITなどの授業を”英語で”行うエリート教育で格差を乗り越えようとするインドの教育。2007年からインドに在住し、出産と育児を経験したさいとうかずみさんは、上昇志向の高い教育への考え方は、子育てにも反映されていると語ります。

「子どもの将来的な可能性を広げるため、3歳未満の早期から算数やITなどの授業を英語で行うエリート教育を受けさせたい。それが叶う私立校に通わせるため、保護者は一生懸命に働きます。

また、カーストによる格差社会が根強く残っているインドでは、貧しい人々ほど上昇志向は強い傾向にあります。よりよい生活を送るため、自分たちの厳しい現状を打破するためにも子どもの教育は大切だと考えています。

インドの女性は保守的な傾向にありますが、結婚を理由に教育を諦めた女性の中には、『自分の子どもには、海外を含めた広い世界を見てほしい』と願う人もいます」
さいとうかずみ(左上)/2007年ニューデリーに移住し、インドライターとして活動。インドの教育、社会、子育て、環境、政治、ITなどについて様々な媒体に寄稿。2017年より2年間インドネシアに渡るも再びインドに戻る。インド国内で3回の引っ越しを経験。
さいとうかずみ(左上)/2007年ニューデリーに移住し、インドライターとして活動。インドの教育、社会、子育て、環境、政治、ITなどについて様々な媒体に寄稿。2017年より2年間インドネシアに渡るも再びインドに戻る。インド国内で3回の引っ越しを経験。

テクノロジーに触れさせるよりアナログ重視の子育て

Global English Editingの『2018年の世界の読書習慣』によると、インドは世界一読書時間の長い国。1週間のうち10時間42分と多くの時間を読書に費やしています。国民的に読書が習慣化しているインドでは、反対にデジタル機器に触れる時間は制限している家庭が多いとさいとうさんはいいます。

「インドは本屋さんがすごく充実していて、幼い頃から本を読む習慣があります。英語の本も多いですし、本をプレゼントすると喜ばれます。新聞や雑誌もよく読まれていて、今でもデジタルよりも紙媒体を愛しているインド人が多いように感じます。
写真はイメージです(iStock.com/Pollyana Ventura)
写真はイメージです(iStock.com/Pollyana Ventura)
読書によって培われるのは、言葉や文章表現です。インド人は多くの言葉を知っています。英語で書いてあっても『この文章はインドの方が書いただろうな』と読んでいてわかるほど表現力は豊かですね。古典的な言い回しをしたり、副詞を用いたりもしますし、論理的な説明文もしっかり書くことが得意。

英語による早期教育を考えている中流階級以上の家庭では、英語での声かけや英語で書かれた本の読み聞かせに加え3、4歳ごろのpre nurseryから英語学習も導入しています。インドでは言葉の導入が早く、就学前に覚えていく単語の導入数がとても多いんですよ。

たとえばフォニックスサウンド。同じ母音の言葉を何十個も覚えて綴り字と発音の規則性を知ることで、知らない単語の発音も容易になります。学校に上がる前からテストもあり、先生がOKを出さなければ次のレベルへ進めません。
英語のスクラブル(提供:さいとうかずみさん)
英語のスクラブル(提供:さいとうかずみさん)
また、インドの保護者たちはデジタル機器の使用よりも、読書や外遊びなどアナログな環境に身を置かせたいと考えています。テレビなどのオーディオ時間は1時間以内など制限している家庭が多く、どちらかというとゲームは嫌っている風潮を感じますね。

インド人は大人も子どももクロスワードパズルやスクラブル、 sudoku(数独)が大好き。ボキャブラリーが多く、数字にも強い秘訣はここにあるんですよ。

子どもたちは、外遊びもよくします。インドの平均最高気温は年間32℃と暑く、最も気温が高い5、6月は平均最高気温は40℃前後。ですから、公園遊びは夕方から始まります」

働く女性に不可欠なメイド文化

「インドの子育て家庭の特徴として、中流階級以上の家庭では必ずひとり以上のメイドを雇っていることが一般的。

日本の場合だと、ベビーシッターや家事代行を依頼するとしたらかなりの金額になると思います。メイドの信用度によって金額が変わってくるのですが、わが家ではひと月数百円で掃除をしてもらっていました。
さいとうさん宅で雇っていたメイドのヤショダさん。比較的裕福な家庭での仕事の多い彼女は、身支度も小綺麗。家事一般を請け負うが、料理が一番得意(提供:さいとうかずみさん)
さいとうさん宅で雇っていたメイドのヤショダさん。比較的裕福な家庭での仕事の多い彼女は、身支度も小綺麗。家事一般を請け負うが、料理が一番得意(提供:さいとうかずみさん)
出産有給休暇は、産後6ヶ月が保証されていて、保証期間の長さは世界3位。しかし、2017年にこの法案が可決されてから、企業は、これから結婚して出産をする可能性のある未婚女性を雇うことに消極的になってしまいました。

なぜなら、有給を負担するのはすべて企業側で、国からの補助がないから。休暇中に代理で働く人材を見つけ、教育し給与を支払うことを二重払いと考える企業が多いことも理由のひとつとして挙げられます。

インド商工会議所連盟の調査によると、第1子の出産で25%の女性が会社を辞めてしまうことも分かっているようです。若い女性は雇いたくないという企業の本音を耳にしますし、そもそも育児休暇が認められているのは公務員のみ。

育児休暇のほかに、インドでは授乳のための育児休息が認められていて、産後15週までは、15分の育児休憩を2回まで取れる規則があります。授乳が必要な女性に対して、在宅労働を認める規定もありますが、実際に取っている人は少ないのではないでしょうか」

国家による育児支援がなかなか整わない大きな原因は、インドで長く続く”メイド文化”にあるとさいとうさん。新型コロナウイルスによるロックダウンの影響で、働き方がリモートワークに変わり、働く女性の問題が浮き彫りになりました。
ベンガルール(旧名バンガロール)の街並み(提供:さいとうかずみさん)
ベンガルール(旧名バンガロール)の街並み(提供:さいとうかずみさん)
「今まで家事の大部分を担ってきたメイドがロックダウンで家に来れなくなり、働く女性たちはパニックです。祖父母に家事の一部をお願いしたくとも、祖父母もメイドのいる生活に慣れているため、家事の多くは母親が負担することになりました。

もともと男性が家事や育児に関わってこなかったインドでは、『そもそも家事は妻の仕事』『妻のことはメイドが手伝うのだからなぜ私がやらなければいけない』と考えている方が未だに多くいます。

父親がリモートワークで家にいても、家事や育児の手助けになりません。そのため、仕事、家事、育児を一手に担うことになった女性は、リモートでの仕事が順調に運ばず、辞めざるを得ないことも。

今回のコロナ禍によって、働く女性の問題が明らかになった反面、これだけメイドのいる生活が当たり前になっていて、文化として確立されてたものになっているということも改めて認識させられました」

メイド文化は、悪いことばかりではないとさいとうさん。母親たちは掃除、洗濯、料理などの家事をメイドに委託することによって、家にいる間はゆとりを持って子どもと向き合うことができます。
仕事を終えて一休みするメイドたち。1日の拘束時間が長い人や掛け持ちをする人も多く、重労働。(提供:さいとうかずみさん)
仕事を終えて一休みするメイドたち。1日の拘束時間が長い人や掛け持ちをする人も多く、重労働。(提供:さいとうかずみさん)
「私は、子育ては自分ひとりですべてやらなくていいということをインドで学びました。他人に何かを頼むことが当たり前というメイド文化の背景があるため、育児にゆとりが生まれ、子どもとの関係にも余白が生まれます。

メイド文化もそうですが、私はインド人の友人にたくさん甘えて子育てをしました。インド人は信頼関係が強く、お互い助け合って生きている印象があります。彼らは、『私たちはひとりでは生きていけない。誰かに助けてもらいながら生きているのだから、他人にも出来るだけ親切に』と考えています。

加えて、インド人は全般的に子どもや赤ちゃんが好き。赤ちゃんが泣けば、知らない人まであやしに来ますし、私自身も飛行機の中で助けてもらったこともあります。子どもに対して寛容な社会のため、公共の場で子どもが騒いでも、自粛を求める大人の視線を気にする必要がありません。私自身も、のびのびと奔放に子育てをすることができたと感じています」

「子どもは神様」のびのびと育てる親の価値観

さいとうさんは、慣れない地で初めての子育てに奮闘していたときに助けてくれた近所のインド人女性の言葉を今でも大切にしながら子どもたちに接しているといいます。

「そのときにかけられた『子どもには神様が宿っているから、大切に扱うこと』という言葉が今でも忘れられません。
写真はイメージです(iStock.com/lakshmiprasad S)
写真はイメージです(iStock.com/lakshmiprasad S)
娘たちが遊びに行くと神様を拝むようなポーズをして、温かく接してくれました。子どもが騒ぎ始めたら『静かにしなさい』と言ってしまいそうになりますが、『注意する代わりに、子どもたちをいつも忙しくしておくのよ』とよく言われましたね。

インドの母親は、子どもの呼びかけにも丁寧に返事をします。あまり小言を言わないし、頭ごなしに怒りません。まずは子どもの話を聞こうという姿勢があります。理不尽で一方的な『静かにしなさい』という言葉を言われずにのびのびと過ごせる子どもたちは、自尊心を育み、自分に対して正直にいることができます。
常に渋滞しているベンガルール市内のあちこちで見かける牛たち。(提供:さいとうかずみさん)
常に渋滞しているベンガルール市内のあちこちで見かける牛たち。(提供:さいとうかずみさん)
また、インドでは何らかの問題を抱えている人が、お金を恵んでもらい生活のために道路に座り込んでいるといった光景を目にすることが少なくありません。娘たちも、インドならではの深刻な格差を目の当たりにして、『ものすごいお金持ちがいる一方で、貧しい人がたくさんいる』『人は生きるためにいろんなことをする』といったことを自然と学んでいきました。

インドで生活するなかで、自分はたまたま恵まれた環境にいるけれど、世界はさまざまな人々が共生しているということを体感し、どれが正しくて、どれが間違っているなどと単純に判断できないということを、子どもたちなりに学んでいました。

引っ越しのため一時期インドを離れたときも、娘はインドに戻りたがっていたんです。日本人というマイノリティーであっても、見た目で判断せず対等に接してくれる寛容さに居心地の良さを感じていたんでしょう。

インドの『なんでもあり』という懐の大きい雰囲気が、『自分もあり』という自尊心を育んでいるのかもしれません」
<取材・執筆>KIDSNA編集部
<連載企画>世界の教育と子育て バックナンバー

2020年09月30日

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