最高のコンテンツだけではオンライン教育は成立しない【高濱正伸】
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これまで以上に不確実な時代を生きる子どもたち。長年教育現場に携わり、多くの親子を見続けてきた花まる学習会代表・高濱正伸先生に、親子が直面するさまざまな課題に対し、親としてどう考え、どのように子どもと関わっていくべきか語っていただきました。
高濱先生:オンライン教育についてずっと言われていたのは、分かりやすい授業をする先生の動画をどう見せるかということでした。
花まる学習会も実際に2020年の春、一斉にオンラインに切り替えましたが、やってみて分かったのは「いいものを提供すればいい」というわけではないこと。コンテンツとしてどんなに優れた動画や授業であっても、子どもたちには相互交流の時間が絶対に必要だということです。
そこで私たちは、週に一度、オンラインホームルームという相互交流の時間を取り入れました。
例えば、朝の会での「先生おはよう。昨日、お母さんと買い物に行ったんだよ」というなにげない会話。その時間こそが子どもにとっては重要だということが分かってきました。
その時間ですごく自分の居場所を感じて、先生を好きになって、「この人に認めてほしい」という気持ちができあがります。
このことの奥にあるのが、子どもの「かわいがられたい」という本質です。つまり、子どもがやる気になるのは、いいコンテンツを見せることではなく、「この人が好き」とか「この人にかわいがられている」というちょっとしたところなんです。
だからこそ、「あれ髪型変わった?」とか「前髪が全然違うじゃん」というような会話ができる、マンツーマンの時間がとても重要なんです。
オンラインだけではなかなか難しい部分もありますが、持続的にやり続けることが大事です。
ーー実際に会わなくてもうまくやることはできますか?
高濱先生:できれば、半年に一回でも会えたほうがいいなと思います。大学生くらいになれば授業だけで十分になりますが、やっぱり、くっついてすりすりして、ぬくもりを感じたいのが子どもなので。
直接のコミュニケーションがとれない子どもたちは、なんらかの形でおぎなわなければいけないと思います。
例えば、複数の家庭同士をひとつの大きい家族とみて、そのメンバーで遊んだり、キャンプをしたりするとか。そうできる関係があるだけで違うと思います。
ーーコロナが終息した世界では、オンライン教育はどうなっていくのでしょう。
高濱先生:もちろんあり続けると思います。
今後大規模災害など不測の事態が生じた場合、われわれも親御さんも即時に対応する必要があります。花まる学習会では昨年9月に、対面授業が完全に不可能になったという想定で、全員一定期間オンライン授業しかおこなわない期間を設けました。
リアルな授業を行いつつ、教室に集まるのが難しくなった場合には、そのクラスだけオンラインに切り替えることも念頭に置いています。常にリアルとオンラインのハイブリッドで、どちらにでもすぐ対応できることが今後のますます重要になります。
もちろんそのためにはまだまだ進化しなければいけません。一番の課題は、生徒たちの手元が映らないことでしたが、カメラを二台置けば解決できると分かりました。
現実には家庭のWi-Fi環境の問題などで止まってしまうこともあるため、子どもがいつでも教育は受けられる状況を作るのが国全体の責任かなと思います。
2022.02.01