妊娠後期と出産でなりやすいいぼ痔の原因と治療法

妊娠後期と出産でなりやすいいぼ痔の原因と治療法

妊娠中や産後の痔はなかなか相談しづらく受診が遅れがちですが、実は多くの女性が妊娠・出産による痔に悩んでいます。今回は妊娠・出産でなぜ痔になりやすいのか、原因と対策、治療法について解説します。

妊娠・出産によるさまざまなマイナートラブルの中でも、人に相談しづらいお悩みのひとつが「痔」ではないでしょうか。

排便時に血が混じり、「これってもしかして……」と思ってもなかなか自分で確かめられる場所ではなく、夫やママ友に気軽に打ち明けるのにも勇気がいるものです。

しかし、実は妊娠・出産により、かなり多くの女性が痔を経験していることが分かっています。

まずは痔の種類と妊婦がなりやすい理由についてみていきましょう。

痔の原因と妊娠中になりやすい痔は?

一言で痔といっても種類は実にさまざま。実は日本人の3人に1人は痔といわれるほどポピュラーな病気ですが、自覚していない、または積極的に治療をしていない場合もあるのではないでしょうか。


痔になる原因とメカニズム

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iStock.com/RyanKing999

妊娠中は、女性ホルモンの関係で腸の働きが弱まったり、大きくなった子宮が肛門を圧迫して便秘や痔になりやすいです。また、分娩時のいきみで肛門に更に負担がかかり、痔が悪化するケースはよくあります。

そもそも痔になるメカニズムは、


  • 便秘
  • いきみ
  • 出産
  • 飲酒

などにより、肛門の粘膜の下の静脈がうっ血することでできると考えられています。


痔の症状

  • 排便時に出血がある
  • 排便のあとも便意が残る
  • 肛門からいぼのようなものが出てくる
  • 排便後や排便時に痛いと感じる
  • 腫れ
  • 下着が汚れる

痔の種類によって症状に違いがありますが、上記のような症状が現れると痔になっている可能性があります。

トイレ
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妊娠中や産後になりやすい痔の種類

痔にもいくつかの種類があります。妊娠中や産後になりやすい痔についてご紹介します。


いぼ痔

いきみや血行不良などにより、肛門にいぼができる症状で、痔核(じかく)ともいいます。痔全体の約50%がいぼ痔といわれ、肛門の外側にできる場合は痛みを伴います。

一方、肛門の内側にできた場合は痛みがなく、気が付きにくいことも特徴のひとつ。排便の際に、痔が肛門の外に飛び出す、出血などの症状があります。

妊産婦が患う痔の95%はいぼ痔といわれており、痔が悪化し、肥大した場合は手術が必要になることもあります。


切れ痔

痔ろうは、下痢などの際に肛門のまわりにばい菌が入ることで炎症を起こし、膿を出すおできができます。悪化すると、直腸と皮膚がつながるトンネルができ、排便のたびにそのトンネルに細菌が入り炎症を起こします。

薬では治療できないため、早期での受診と手術が必要です。

妊娠・出産で85%の妊婦が痔を経験!

「痔になったなんて誰にも言えない」とひとり悩んでいる方もいるかもしれませんが、妊娠中、とくに妊娠中期と妊娠後期に痔を発症する女性の割合は全体の85%を占めています。

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iStock.com/takasuu

妊娠中、出産時、出産後の痔になりやすい理由

女性が痔になりやすい理由は、妊娠後期、出産時、出産後でそれぞれ異なります。

妊娠後期

痔になる原因のひとつが便秘ですが、妊娠時は黄体ホルモンという女性ホルモンの分泌が増え、腸の動きを抑制するため、便秘になりやすくなります。

また、子宮が大きくなるにつれ腸を圧迫することで血行不良がおき、うっ血することも便秘を引き起こしています。

出産時

出産時の強い「いきみ」が肛門に負担をかけることで、急に痔になってしまうこともあります。

出産後

母乳育児をする場合、母乳を作るために大量に水分を奪われることで、水分不足で便秘がおきやすくなり、痔につながります。

意識して水分を多くとるよう心がけましょう。

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痔を悪化させないための生活習慣

妊娠や出産により痔になってしまうのは不可抗力ですが、少しでも痔になりにくい生活習慣を取り入れることは重要です。

とくに妊娠後期は、ホルモンバランスの変化により便秘と下痢になりやすく、これらが刺激となり、痔を引き起こしてしまいがちなので、まずは便秘と下痢にならないよう以下のことを心がけましょう。


  • 水分と食物繊維をしっかりととる
  • コーヒーや辛いものなどの刺激物を控える
  • 便意を感じたら我慢しない
  • 無理にいきまない
  • お尻を清潔に保つ
  • 入浴で血行を促進する
  • 同じ姿勢を続けない

これらは予防法としても有効ですが、痔になってしまった場合にも気を付けたい点です。

また、血行促進のために適度な運動も効果的ですが、妊娠中や産後は自己判断せず、医師に相談して可能な範囲で取り入れてみましょう。

痔の受診目安と治療方法

妊娠、出産による痔は一時的なもので、基本的には産褥期を経て、2か月前後で自然治癒していきます。

とはいえ、トイレに行くたびに出血したり痛みを感じたりする場合は、悪化する前に、生活習慣の改善にプラスして、薬を使って早めに治療をおこなうことをおすすめします。


受診の目安

痔があるのかどうかは自分では確かめづらいものですが、目安として、


  • 排便時の出血
  • 下血
  • 排便時以外にも痛み

がある場合は、迷わず受診しましょう。肛門科を探してもよいですが、産婦人科で処方してもらうことができるため、妊娠中であれば定期健診の際に相談してみてください。


痔の治療法

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痔と診断されたら以下のような治療を行います。

坐薬や軟膏で痛みや腫れ、出血を抑えたり、内服薬で便を柔らかくしたり、炎症を抑えます。市販薬も多く出ていますが、

・痔以外の病気である可能性

・授乳中は薬の成分の確認が必要

になるため、自己判断せず受診することが治癒への近道です。

注射

注射で痔の核を硬化させて、縮小させる方法もあります。注射は痛みを感じない部分に行うため、麻酔の必要がありません。外来で処置ができるので、入院せずに治療ができます。

ゴム輪結紮(けっさつ)療法

痔の症状が悪化したらゴム輪結紮(けっさつ)という器具を使って治療する場合もあります。

内側の痔核の根元に小さな輪ゴムをはめ込むと、輪ゴムが根元を締めつけて1~2週間で便といっしょに痔核と輪ゴムがとれます。

ゴム輪結紮(けっさつ)療法は、特別注意することはなく、普段と同じ生活が送れますが、脱肛している場合や内側にできている痔でも小さすぎたり、痔核が硬くなっている場合には適さないです。

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妊娠後期と産後の痔は多くの人が通る道

妊娠中・産後のマイナートラブルの中でもなかなか人に相談しづらく、つらい痔ですが、85%以上の妊婦が経験していることからも、多くの女性が悩んでいることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

妊娠中はホルモンバランスの変化による便秘と下痢や、うっ血などが原因でいぼ痔になりやすくなりますが、生活習慣の改善で自然治癒が期待できます。

ただし、ひどい痛みや出血が続く場合は産婦人科を受診しましょう。痔は決して恥ずかしい病気ではありせんし、妊娠・出産による痔が多いことは医師が誰より分かっているため、受診を躊躇する必要はありません。


監修:杉山太朗

Profile

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)

信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。 患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。

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2021.04.21

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