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【臨床心理士監修】子どものメンタル不調にどう気付く?SOSのサインの見極め方
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公認心理師/臨床心理士
公認心理師/臨床心理士
公認心理師、臨床心理士。名古屋学芸大学ヒューマンケア学部准教授。 幼児から学齢期の子どもに対する遊びを通した社会性発達支援、学齢期の子どもの発達特性(特に性別違和感)とメンタルヘルスや心理社会的不適応の関連に関する調査研究に取り組んでいます。
子どもを取り巻く環境が大きく変化する新学期。不安やストレスを抱える子どもの気持ちに寄り添うために、保護者はどのようなことができるでしょう。子どもの発するメンタル不調のサイン、子どものメンタルヘルスのために保護者ができることを解説します。
子どもは大人ほど自分の気持ちの変化に気づいたり言語化したりすることが得意ではなく、メンタルの不調を抱えていても、本人も気付いていない場合があります。そんな子どもと多くの時間を過ごす保護者だからこそ、子どもの発するSOSのサインに気付くことができるかもしれません。
メンタルの不調を抱える子どもの発する初期サインや児童思春期に多い心の病気、保護者ができることについて解説します 。
子どものメンタル不調のサイン
子どもの心のSOSは、睡眠や体調、食欲、行動の変化を伴います。子どもの様子がいつもと違うと思ったらメンタル不調のサインかもしれません。
睡眠
十分な睡眠は心の健康にとって大事な要素です。子どもの場合は、睡眠がとりやすくなるようスマートフォンやタブレットなどインターネット使用やゲームの終了時間などの約束を決めて一緒に実行することで、できる限り睡眠時間を確保できるよう保護者がサポートしましょう。保護者が環境を整えても、子どもが睡眠の困難を抱える場合には、メンタル不調のサインかもしれません。
- 布団に入ってもなかなか寝付けない
- 睡眠のリズムが崩れている
- 眠れずに夜更かしをする
- 睡眠時間が長すぎる
体調
メンタル不調の初期サインとして現れやすい体調の変化。特に年齢が低い子どもや、年齢・学年が高くても自分の気持ちを言葉で表現することが苦手な子供は、ストレスが体調不良として現れやすいことがあります。一時的なものではなく、継続する場合は注意が必要です。
- 顔色が悪く、元気がない
- 倦怠感を訴える
- 腹痛や頭痛、めまい、吐き気などを訴える
食欲
ストレスや心の病気の影響は、食欲となって現れることがあります。体が大きく発達する時期にある幼児期の子どもは、旺盛な食欲により急に体重が増えることがあるかもしれません。
メンタル不調のサインが食欲だけでなく、他の症状にも現れていないか、よく観察しましょう。
- 食欲が減退する
- 食欲が増進する(特にパンや米など炭水化物を欲する)
- 急激な体重増減
言葉や行動
本人よりも周囲の大人が気付きやすい言葉や行動面の変化。以前と比べ、子どもの様子にこのような変化があったらSOSのサインかもしれません。
- 感情が抑えられず暴力的になる
- 家から出たがらない
- 何もしないでぼんやりしている時間が長い
- 表情の変化が乏しく、感情面での反応が少ない
- 同じ動作や行動を何回もくりかえす
- 好きで楽しんでいたもの(遊びやゲームなど)をやらなくなった
- 急に言葉数が減った
- 自分を責めることを言う
子どものメンタル不調の種類
子どものメンタル不調といっても、その種類や状態はさまざまです。
うつ
うつには、理由が明確で一時的な気分の落ち込みから、思考機能や意欲の低下、行動・身体面にも症状が見られるうつ病まで、さまざまな状態があります。
うつ病は脳内の神経伝達物質が減少することで起こると考えられています。精神を安定させるセロトニンや、脳を活性化させ、ほどよい緊張感をもたらすノルアドレナリンが減ってしまうと、無気力で憂鬱な状態に陥ってしまいます。
日本人の場合、うつ病の生涯有病率(一生のうちにかかる割合)は15人に1人。かつては子どももうつ病にかかることがあまり知られていませんでしたが、小中学生で15%程度が高い抑うつ状態を示したという報告もあります。
うつ病の症状は、朝の調子が最も悪く、午後から夕方にかけて改善してくることがよくあります。そのため、夜には「明日は学校に行く!」とやる気を出して準備していても、朝になると布団から出てこないということがあります。あまりの変化に周囲は戸惑ったり、怠けていると勘違いしたりしてしまいますが、うつ病は怠けているわけでも、気の持ちようで何とかなるものでもありません。
高柳伸哉・伊藤大幸・大嶽さと子・野田航・大西将史・中島俊思(2012)小中学生における欠席行動と抑うつ、攻撃性との関連.臨床精神医学, 41(7), 925-932.
不安
不安は、うつと並んで頻繁に見られる状態です。うつと同様、日常的で多くの人が経験する不安や心配から、尋常でなく激しい不安や緊張が長く続いて日常生活に支障をきたす病的なものまであります。
生まれつき不安が強い子どももいます。たとえば、保護者と離れることに強い不安(分離不安)を感じ、保護者から離れられず、保護者が離れようとすると泣き叫ぶ、ということがあります。ほかにも、家など特定の慣れ親しんだ場所では普通なのに、学校など外に行くと話が極端にできなくなってしまう(声が出せなくなってしまう)場面緘黙(かんもく)という状態も、不安の表れと考えられています 。
そのほか不安障害は、社交不安症、パニック症、全般性不安症などがあります。
統合失調症
統合失調症とは、妄想、幻覚(幻聴など)の陽性症状と、意欲低下、感情が表に出にくくなるなどの陰性症状からなる病気を指します。思考がまとまりを欠いたり、前兆として不安やうつ、身体症状などが見られたりすることもあります。
10代後半から30代半ばにかけて出現しやすいとされますが、それ以前にうつを訴えるなど、何らかのメンタル不調が見られることも多くあります。
100人に1人くらいが統合失調症にかかり、薬物療法を中心とした早期治療を行うほど症状が重くなりにくいとされています。
摂食障害
ストレスが原因で極端に食事が喉を通らない、逆に過剰に食べすぎてしまう場合、摂食障害かもしれません。摂食障害には「拒食症(神経性無食欲症)」と「過食症(神経性過食症)」があります。思春期の女性に多いとされています。
標準体重の85%以下の状態が続く場合は、拒食症への注意が必要です。栄養が不十分な状態が続くことで、むくみや低体温になったり、女性の場合は生理がこなくなったりすることがあります。栄養失調状態がさらに進行すると、腎不全や低血糖、不整脈や感染症といった合併症を起こすケースもあります。
過食症の特徴は、(主に人目がないときに)短時間に大量に食べる、食べ始めると止められない、食べすぎた後に自分で吐き後悔して落ち込む、といったことが挙げられます。拒食症のように痩せているわけではなく、過食症の場合の体重は標準値ほどのことが多いようです。
子どものメンタルヘルスのために保護者ができること
子どものメンタル不調に気付いたとき、保護者にはどのようなことができるでしょうか。
まずは、偏見を持たず、子どもの心の病気について正しい知識を得ることが重要です。
最も気持ちが揺れ動いているのは子ども本人であることを忘れずに、保護者はできるだけ冷静に、動揺したり感情的になったりせず対応するとよいでしょう。もちろん、保護者自身の心配な気持ちは家族内で話せる大人と共有したり、信頼できる他者に吐き出してください。一人で抱え込まないことが重要です。
その上で、保護者として心配な気持ちはあるかもしれませんが、まずは保護者の意見や不安な気持ちを押し付けずに、子どもの気持ちを受容し、共感する姿勢を持って話を聴いてみましょう。
子どもの話を相槌を打ちながら聴き、「◯◯って感じているんだね」「本当は◯◯したいって考えているんだね」と、子どもが言ったことをゆっくり繰り返すことでまずは十分です。
どうすればいいかわからないときは、「調べてみるね」「お医者さん(カウンセラー)に相談するといいみたいだから、私は行ってみようと思うけど、あなたはどうする?」など、子どもの意思を尊重しつつ、保護者がどう行動するつもりか伝えていきましょう。
子どものSOSを見逃さないようにしよう
子どもの発するSOSのサインは、「いつもと何か違う……」という些細なものかもしれません。そのため、保護者が子どものメンタル不調に気付くためには、日頃からコミュニケーションがとれていることが大切です。
メンタル不調のサインを早めにキャッチして、子どもの話をじっくり聴いてみましょう。それでも子どものメンタルが気になる場合は、医師やカウンセラーなど専門家に相談してみてくださいね。
出典:こころもメンテしよう~ご家族・教職員の皆さんへ~/厚生労働省
監修:浜田恵(臨床心理士)
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浜田恵
公認心理師、臨床心理士。名古屋学芸大学ヒューマンケア学部准教授。
幼児から学齢期の子どもに対する遊びを通した社会性発達支援、学齢期の子どもの発達特性(特に性別違和感)とメンタルヘルスや心理社会的不適応の関連に関する調査研究に取り組んでいます。