人間の耳は意外と壊れやすく元に戻らない…耳鼻科医が「これだけはやめて」というイヤホンの使い方

人間の耳は意外と壊れやすく元に戻らない…耳鼻科医が「これだけはやめて」というイヤホンの使い方

いまや音楽や動画、ゲームなどを楽しむときだけでなく、オンライン会議などでもよく使うイヤホンやヘッドホン。耳鼻科医の音良林太郎さんは「今、若くても難聴になる人が増えている。音楽や動画、映画、ゲームなどを楽しむのはよいが、イヤホンなどの使い方には注意が必要だ」という――。

「耳栓は邪道」論争の危険な勘違い

先日、SNSのX(エックス)で、興味深い論争を目にしました。「ライブで耳栓なんて邪道。爆音を全身で浴びてこそだろう」。そんな投稿に対して、すかさず反論が飛んできました。「ライブハウスのスタッフやプロのミュージシャンも耳栓を使ってるよ」と。あなたはどちらの意見に共感するでしょうか。

大好きなアーティストのステージ、推しのライブ……爆音を浴びる瞬間は最高でしょう。しかし、耳鼻咽喉科医という立場から、どうしても伝えたいことがあります。私たちの耳は思っている以上に壊れやすく、しかも一度壊れたら元に戻らないということです。

ライブ会場の音量は平均で100dB以上、スピーカー近くでは120dBに達することも。これは労働安全衛生法では「騒音職場」として扱われるレベルで、工場や建設現場で働く作業者には防音保護具の着用が義務付けられる音量です。そして100dBの音は、たった15分の暴露で騒音性難聴を引き起こすリスクがあるとされています(※1)。

ライブは通常2〜3時間、アンコールを含めればさらに長時間に及びます。その間ずっと、耳の奥にある「有毛細胞」という音を感じ取る大切な細胞が、津波に襲われた建物のように、急激かつ深刻なダメージを受け続けているのです。これが「ライブ難聴(急性音響外傷)」と呼ばれる病態です。一瞬の高揚が、場合によっては一生の後悔につながる可能性があります。

※1 DecibelPro. How Loud Is 100 Decibels|What Does 100 Decibels Sound Like. Available

毎日のイヤホン使用もリスクになる

「でも、私はライブに行かないから大丈夫」、そう思う人も多いでしょう。しかし、毎日のようにイヤホンを長時間使っていないでしょうか。通勤・通学の電車内、仕事や勉強中のBGM、ゲーム、動画視聴、オンライン会議……、気がつけば一日中イヤホンを装着しているという人も少なくないでしょう。ご自身が使っていなくても、配偶者やお子さんが頻繁に使っている場合も多いはずです。

現代のイヤホンやヘッドホンは、耳にとって危険ゾーンである100dB以上の音を簡単に出力できます。そのため知らず知らずのうちに耳に大音量を浴びせ続けてしまい、世界保健機関(WHO)が警告している「イヤホン難聴」になる恐れがあります。「イヤホン難聴」は、「ライブ難聴」と同じく「感音性難聴」の一種。WHOの試算によれば、12〜35歳の約半数、つまり全世界で10億人以上の若者が、将来的な難聴のリスクにさらされているといいます(※2)。

ライブ難聴が急性の一撃だとすれば、イヤホン難聴は慢性的に少しずつダメージが積み重なっていくイメージです。しかも症状が出るまで気づきにくい。「最近、人の話が聞き取りにくいな」と感じたときには、すでに手遅れになっているケースも少なくありません。さらに若年で加齢性難聴(老人性難聴)が始まるリスクも示唆されています(※3)。つまり、40代で70代相当の聴力になる、ということが起こりうるのです。

※2 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「あなたにもヘッドホン難聴のリスクあり!
※3 Fetoni AR, et al. Early Noise-Induced Hearing Loss Accelerates Presbycusis Altering Aging Processes in the Cochlea. Front Aging Neurosci. 2022;14:803973.

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2025.12.05

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