戦時中は「鬼畜米英」と叫んでいたのに…戦争に負けた日本人がマッカーサーを"英雄扱い"で迎えたワケ
「アメリカの占領政策は成功した」は本当なのか
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戦時中、日本人は「鬼畜米英」と叫び、米国を憎むよう教育されていた。ところが敗戦からわずか数カ月後、GHQ総司令官・マッカーサーを“解放者”のように迎え入れた。なぜ、これほどまでに急激な“心の転換”が起きたのか。脳科学者・茂木健一郎さんと、独立研究者・山口周さんが明治維新から続く日本人の特異な精神構造を読み解く――。 ※本稿は、茂木健一郎・山口周『教養としての日本改造論』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
明治維新の勝ち組と負け組
【茂木】先日、水風呂の中で夏目漱石の『坊っちゃん』を読んでいて、気づいたことがあるんですよ。僕は夏目漱石が大好きで、『坊っちゃん』は100回以上読んでいるはずですが、その日改めて山嵐が会津藩出身だということが、ものすごくクローズアップして意識に上ってきたんです。
【山口】たしかに、『坊っちゃん』の登場人物たちは、きれいに明治時代の勝ち組と、負け組に分かれますよね。主人公の坊っちゃんやその味方たちは全員、旧幕府方で、坊っちゃんの敵は全員、明治政府を築いた勝ち組で固められているという構図です。
【茂木】坊っちゃんの家は元旗本だから、世が世なれば、徳川幕府に仕えるお侍の家です。それが没落して、坊っちゃんも働かざるを得なくなっている設定です。そしてその坊っちゃんに献身的に仕える下女の清も、幕府に仕えていた名家が没落した設定だし、坊っちゃんの赴任先で仲間になる山嵐も、徳川家を最後まで守って悲惨な目に遭った会津藩の出身です。
【山口】要するに、明治維新でわりを食った側が、全員坊っちゃんサイドという設定です。
夏目漱石『坊っちゃん』の裏設定
【茂木】それを考えてみると『坊っちゃん』という作品自体、裏設定はかなり陰鬱としていますよね。作品自体が血みどろの明治維新を背負っている。
【山口】「明治維新」自体、勝ち組の薩長側から見れば「維新」というポジティブワードで語られますが、敗北した江戸・徳川幕府側から見れば、「瓦解」というネガティブワードで理解されています。そして江戸の牛込生まれの漱石は、明らかに明治のあの転換期を「維新」ではなく、「瓦解」と呼んでいる。つまり、坊っちゃんの悪態は完全に旧幕府側から見たルサンチマンの表れなんです。
【茂木】主人公に敵対する赤シャツなんて、完全に漱石の分身ですからね。自分で自分をあざ笑っているんだから、考えてみたらすごいよね。
【山口】赤シャツは、帝国大学を卒業した文学士という設定で、漱石そのものです。





























