そりゃ怪しげな成功哲学本が売れるわけだ…人の"劣等感"につけこむ「コンプレックスビジネス」の周到さ

そりゃ怪しげな成功哲学本が売れるわけだ…人の"劣等感"につけこむ「コンプレックスビジネス」の周到さ

「成功とは何か」といった抽象的なテーマのビジネス書が気になって買ってしまう。なぜなのか。組織開発専門家の勅使川原真衣氏は「成功哲学を扱ったビジネス書が売れ続けるのには、明確な理由がある」という――。 ※本稿は、勅使川原真衣『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

人の感情を左右する技術

何かものを売りたいとき。世のなかに広く、それを買う動機となるような価値観、危機感を植えつけたいだろう。ただ、「きれい」なものを作ろう、とか「面白い」小説を書こう、というのは難しい。人それぞれに「きれい」「面白い」「楽しい」は多様だからかもしれない。しかし、これはどうだろう?

汚い
怖い

は、「きれい」などの感覚と比するとそこまでの多様性はないのではないか。

というのも、私にはこんな原体験がある。汚い、怖いは「作れる」のだな、と思わされた若き日の経験だ。

それは、私が大学院1年生の頃。修士で就職を考える学生は、修士課程に入ったら4、5カ月で当時就活が始まった。興味本位でとある消費財メーカーのマーケティング部門の就活プロセスに乗っかっていた。結果から言うと最終面接で落選したのだが、その選考というのは、生々しいほど実践的で、その会社のコアバリューを就活生にも惜しみなく開示するような刺激的な内容だった。あれから4半世紀近く経つわけだが、私はいまだに覚えている。

「ニーズはそこにあるのではない。こちらから創出するものだ」
「それをずばり『アンメットニーズ』と呼ぶ」

と。

「あれがあったらいいな、これがないと大変だな、の多くは、本人が気づいていない。だから僕らが『あれがないから大変なのかも?』『これがあればもっと楽で素敵な毎日なのに』と思わせてさしあげる。これが僕らマーケッターの仕事です」

と。

日本人を一瞬で縮み上がらせる言葉

一体どういうことか。たとえば、こんな謳い文句を耳にしたことがないだろうか。

「ただお風呂やシャワーでしっかり体を洗っていても、でかける際に汗をかいては、においのもととなる菌を放置することになる。出先では常にこういうスプレーを脇に当てて……とやらなきゃ、人として、女性としてダメ」
「これがお出かけ前のエチケット」

といった類だ。

これはもちろん嘘ではないのだろうが、「エチケット」と言われると、はっ! とするのが人の(特に日本人の)性さがだろう。周りへの配慮を貴ぶ文化に生きる私たちを一瞬で縮み上がらせるもの。それは、

「あなた、周りに迷惑をかけてますよ」

である。

これがきれいですよ、この映画面白いですよ、なんてことより、あなたは人として成ってない、と言われたほうが圧倒的に不安と恐怖を煽られる。福祉社会学者の竹端寛氏は「迷惑をかけるな憲法」とまでこの風潮を呼ぶ。もちろん、先のマーケッターの諸先輩方が「恐怖を煽りましょう」と言っていたわけではないが、価値観をじわじわ植えつけるようなマーケティング戦略であった。

詳細を見る

この記事を読んだあなたにおすすめ

画像

https://style-cp.kidsna.com/advertisement

  • 殿堂入り
  • 公式LINE
  • ミツカン様TU

2025.12.03

ニュースカテゴリの記事

KIDSNA STYLE 動画プロモーションバナー
【天才の育て方】#25 古里愛~夢はグラミー賞。名門バークリー音楽大学に合格した、13歳のジャズピアニスト

天才の育て方

この連載を見る
メディアにも多数出演する現役東大生や人工知能の若手プロフェッショナル、アプリ開発やゲームクリエイターなど多方面で活躍する若手や両親へ天才のルーツや親子のコミュニケーションについてインタビュー。子どもの成長を伸ばすヒントや子育ての合間に楽しめるコンテンツです。
  • 保育園・幼稚園を探すなら
  • キズナシッター
  • KIDSNAを一緒につくりませんか?