現代は40代から骨をじわじわ劣化させる完璧な条件が揃っている…医師が警鐘「骨粗鬆症が男性に増えたワケ」
「ふつうにやっちゃってる」生活習慣で骨が老けて、もろくなる
Profile
女性に多い骨粗鬆症だが、患者の4分の1は男性だ。大腿骨頸骨折をするとその後の死亡率が高まる。医師の谷本哲也さんは「若い人には関係のない話と思われがちですが、現代は骨を早く老けさせる完璧な条件が揃っている」という――。
働く男性の「骨」が危ない:見過ごされるリスク
骨粗鬆症と聞けば、多くの人は高齢女性の病気だと考えるでしょう。しかし、骨がもろくなって起きる骨折の約40%は男性に発生しています。日本における推計1590万人の骨粗鬆症患者のうち約410万人、全体の4分の1が男性であることはあまり知られていません。
深刻なのは、股関節を骨折した男性は、同じ年齢の女性より1年以内に亡くなる確率が高いという事実です。実際、大腿骨骨折の患者の10%が骨折後1年で死亡するとされ、骨折後1年の死亡リスクは非骨折者に比べて男性で3.7倍、女性で2.9倍に高まることが報告されています。
それなのに骨の検査を受ける男性はほとんどいません。健康診断でコレステロール値や肝機能、血圧は定期的に測っても、骨の健康状態を調べる人はまれです。
と、ここまで読んだ男性読者の中には、「自分はまだ若いから、さすがに大丈夫」と思っている人が多いに違いありません。しかし、骨の衰えは30代を超えた「中年」に入ると、いつのまにか確実に進行します。長時間労働がじわじわと体を蝕むのと似ており、骨粗鬆症は決してひとごとではないのです。
再雇用や転職などで65~70歳まで働く人も増えている現代の男性にとって、骨粗鬆症は単なる骨折の問題ではありません。それは仕事のパフォーマンス、自由に動ける体、そして自立した人生そのものに関わる問題です。
予期せぬ理由で股関節を一度骨折すれば、数カ月間の休職を余儀なくされ、早期退職に追い込まれることもあります。国民生活基礎調査によれば、介護が必要となる大きな原因の一つが「骨折・転倒」であり、健康寿命と平均寿命の間には男性で約9年もの差があるのです。
何より重要なのは骨の問題の大半は予防できるということです。だからこそ、若い世代にも下記の内容をしっかり知ってほしいです。
いつの間にか進む骨の劣化
骨は石のように固まったものではありません。血液や皮膚と同じように新陳代謝を繰り返す、生きた組織です。破骨細胞が古い骨を壊し、骨芽細胞がそこに新しい骨を築く。この骨のリモデリングにより、数年で全身の骨が入れ替わります。骨の強度がピークを迎えるのは18歳から20歳ごろ。そこから緩やかに、骨を作る細胞の働きが鈍る一方で、骨を壊す細胞は働き続けます。
女性の場合、閉経後のホルモン減少がこの過程を劇的に加速させるため、60代から骨粗鬆症が急増します。一方、男性は閉経がないため骨量が急激に減ることは基本的にありません。50代ごろから減少が見られ始め、70代以降に顕著になります。
テストステロンという男性ホルモンは、自信や活力の源と思われがちですが、実は骨の形成にも欠かせません。40代半ばから徐々に減っていくこのホルモンが低下すると、骨は主要な守り手を失います。
糖尿病、脂肪肝、関節リウマチといった慢性疾患は、テストステロンをさらに減らします。喫煙、お酒の飲み過ぎ、長期的なストレスも同様です。また、男性特有の病気、前立腺がんの標準的な治療法であるホルモン療法が、骨量の減少を急速に進めてしまうことも問題です。
一方で、テストステロンを補充すれば骨が丈夫になると考えがちですが、最近の研究では、補充療法を受けた男性の骨折リスクが43%も増えたことが報告されています。体は単純な足し算では動かないのです。
ここで現代のオフィスワークと人間の体の矛盾が浮き彫りになります。人間の体は本来、体を動かし、外で太陽の光を浴び、物理的な負荷を受けつつ生きるように進化してきました。ところが今では、空調の効いた室内でパソコン画面を見つめ、カフェインで覚醒し、ストレスホルモンを常に高いレベルに保っています。ストレスが生み出すホルモン、コルチゾールは骨を作る細胞の働きを抑え込むことで骨を弱くしてしまうのです。





























