「香りも色もない入浴剤」なのに大ヒット…東京の五つ星ホテルが採用する"別府温泉の結晶"の正体
"深呼吸したくなる湯"の秘密
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香りも色も、泡もない。なのに、いま東京の五つ星ホテルで採用され、人気ギフトにも選ばれている入浴剤がある。原料は、大分県別府市の職人が40日以上かけて育てる“温泉の結晶”。一風変わった入浴剤はなぜ生まれ、ヒット商品になったのか。フリーライターのサオリス・ユーフラテスさんが女性起業家の挑戦を追った――。
別府温泉発の“異色の入浴剤”
箱を開けるとやさしい色のグラデーションが並ぶ。筒状に巻かれた紙にはエッセイのタイトルが記されている。
『年を重ねて』
気になる言葉を選び取り、風呂場へ向かう。
湯船に身を沈め、包み紙をほどくと、ずっしりと重みを感じる小袋が現れる。封を開けると白い粉。
ザラリとした感触を指で確かめ湯に落とす。みるみる溶けて、湯がうっすらと白濁する。手でかき混ぜると、ぬるりとろりとした感触。
いつもの入浴剤に慣れた鼻は匂いを探す。深く息を吸ってみても何の匂いもしないーー静かな湯。いい意味で、裏切られた。
包み紙を広げると、短いエッセイ。解き放たれた空間で、見知らぬ誰かの言葉で綴られた日常に思いを馳せる。気づけば指先はしわしわにふやけていた。
その名は『HAA for bath 日々』。大分県別府市の小さな温泉街で生まれた入浴剤だ。
2021年にクラウドファンディングで発売すると、1日足らずで目標額の50万円を達成。口コミが広がり、東京にある五つ星ホテルのスイートルームのアメニティにも採用された。
歩いて1時間ほどで回れる鉄輪かんなわ温泉。この小さな温泉街から、なぜこのような製品が生まれたのか。その背景には、東京でキャリアを積み、地元で新たな一歩を踏み出した、ひとりの女性の物語があった。





























