ChatGPTより明らかに仕事で役に立つ…三井不動産の新組織が作った「AIエージェント」の知られざる実力
「会議のやり方」が劇的に変わった
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AIなどを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)で、ビジネスはどう変わるのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「三井不動産が不動産企業の枠を超えて進化している。その中でも特徴的な『3つの事例』は参考になる」という。三井不動産の塩谷義・DX四部長を取材した――。(第2回/全2回)
3つの事例から見る「仕事のやり方」の再構築
【第III章】実装編――現場で生まれる“共働知”のリアリティ
三井不動産DX四部の生成AI戦略2.0は、構造を描くだけでは終わらない。それは現場で生き、働き、日々学習を重ねる「動的な知の仕組み」である。その核心にあるのが、人とAIが協働しながら“共働知”を生み出す実装群だ。
ここでは、DX四部が推進する三つの象徴的な現場――DX本部長エージェント/三井ホーム営業伴走AI/三井不動産レジデンシャルサービスFM支援AI――を通して、生成AIがどのように「仕事のやり方」を再構築しているかを見ていく。
1.DX本部長エージェント:AIが「思考の壁打ち相手」になる
DX四部の象徴的な取り組みが、「DX本部長エージェント」である。このAIは、本部員の資料作成や意思決定プロセスを支援するだけでなく、本部長自身の「思考の壁打ち相手」として設計されている。
会議資料の論点整理、提案の抜け漏れチェック、意思決定時の観点の偏り――AIがこれらを自動的に検出し、人間の思考を可視化する役割を果たす。
塩谷部長は語る。
「AIが答える時代は終わりました。これからは、AIが問いを返す時代です。DX本部長エージェントは、まさに“考えるための相棒”なんです」
AIが単に情報を処理するのではなく、思考の深さを引き出す。その結果、意思決定のスピードと精度が同時に高まり、「AIが支える組織」から「AIと考える組織」へと進化している。
【事例1】“本部長の思考”を全社員が使える知能へ
DX本部長エージェントは、DX本部長の職務、価値観、方針を学習させたAIエージェントであり、単なる業務支援ツールではなく、「思考の共有装置」として設計された存在である。目的は、DX推進の中核にある意思決定の質を標準化し、本部長の思考様式を組織全体で再現できるようにすることである。
本エージェントは、Microsoft Teams上で稼働し、社員が日常的に自然な対話で利用できるようにしている。構成は三層から成る。第一に「挙動」層では、本部長の推奨行動や判断軸を学習し、発言の“らしさ”を再現する。第二に「知識」層では、方針資料や組織計画、過去の説明指摘などを蓄積し、質問に応じて最適な参照を行う。第三に「LLM層」では、大規模言語モデルが質問の意図と感情を解析し、自然言語での回答を生成する。この三層連携によって、現場のスピードで「本部長の知的判断」を再現する。
現場での利用は、社員がTeams上で「資料をレビューしてもらえますか」「判断に迷っています」「議論が進まない」と入力するところから始まる。エージェントは発言内容を解析し、状況に応じて六つのモード――資料レビュー、判断軸提示、論点整理、突破支援、Will再点火、共感・振り返り――のいずれかで応答する。つまり、社員の“迷い”や“躊躇”の文脈を理解し、適切な助言や指針をリアルタイムに提示する仕組みである。





























