「子供を自分の作品」にしてはいけない…日本一の進学校教諭が見た「本当に頭のいい子の親」の意外な特徴
なぜ開成の生徒には自己肯定感の高い子が多いのか
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リスペクトされるのは自分の好きを追究する者
――本日お集まりの先生方は、みなさん開成学園のOBだとか。まずは卒業年度や部活、そして現在の活動内容などを教えてください。
【佐藤】私は1987年に開成を卒業しました。在学中は音楽部に所属していて、現在は国語を担当しながら俳句部の顧問をしています。
【鎌田】私も同じ国語科ですが、冗談抜きで、“世界一、俳句を教えるのが上手な教員”なんですよ、佐藤先生は(笑)。
【佐藤】そんなこともありませんが、開成でいちばん全国優勝しているのが俳句部ですね。通算で14回優勝しています。
【鎌田】日本一となれば世界一ですからね(笑)。私は94年の卒業生で、在学中も現在も、部活は管弦楽団です。楽器はオーボエで、今も市民楽団で演奏しています。開成管弦楽団は50~60人いるんですが、管楽器はほぼ初心者スタートで、高校入学組が初心者で入ってくることも。ですから、時々、私の市民楽団の演奏会に招待して、自分たちよりもレベルの高い演奏に接する機会をつくるようにしています。
【中﨑】私がいちばん後輩で、98年卒です。担当は数学です。在学中は数学研究部と鉄道研究部に所属していました。現在は水泳部の顧問です。開成にはプールがないので、普段はプールを借りて練習し、毎年夏には、千葉・館山にある開成の宿舎で合宿をしています。ここでは、ふんどし姿で日本泳法を練習します。
【鎌田】最近は強い選手も入ってきているんですよね?
【中﨑】そうなんです。今後に期待しています。
【佐藤】昔からの開成の風土の一つとして、勉強だけの生徒よりも、学校行事でリーダーシップを発揮するとか部活をがんばる生徒が尊敬される、というのはありますね。
【鎌田】それは本当にそうですね。何をするにしても、一つのことをつきつめようとか、一芸に秀でようとする者を応援する校風がありますね。だから、運動会や文化祭、部活などに命をかける生徒が多い。
――ピアニストとして活躍している角野隼斗さんなどは、在学中はさぞかしリスペクトされていたんでしょうね。
【鎌田】それが全然。私は6年間教えていましたが、彼がピアノを弾いている姿を一度も見たことがありません。ピアノを弾けるのを知ったのも、ショパン国際ピアノコンクールの予選で見たのが初めてで(笑)。そもそも彼、バスケ部でしたから。なんというか、開成では、何かがうまいとか、優勝したからといって評価されるわけではないんです。学校が特定の部活を優遇することもありませんし、俳句部にたくさん予算がつくわけでもない。
【佐藤】そういうヒエラルキーは、開成にはまったくありません。
【中﨑】ほかの高校で、よく「全国大会優勝○○部!」という垂れ幕を見ますが、開成では見たことがありません。結果よりも、何か自分の興味のあることを見つけ、それを追究していく姿勢のようなものがリスペクトされる校風なんです。
【佐藤】折り紙研究部なんかも、別に全国大会やコンクールがあるわけでもないのに、ただただ大好きな折り紙の世界に没頭し、ひたすら技を磨いている。彼らを見ていると、開成が目指す教育の本質と重なります。好奇心を持って、自分の好きな分野を追究し、没頭する。そのプロセスこそが本人の財産になっていく。
【鎌田】彼らの活動がベースとなって「日本中高生折り紙連盟」という組織も発足しましたし、きちんと成果も残しています。
【佐藤】開成の伝統的な行事である運動会も、生徒の個性や才能を発揮する場所の一つになっていますね。スポーツが得意で、競技で活躍する生徒だけでなく、応援歌を作って、それをみんなに指導するような音楽に秀でている生徒が活躍する場面もあるし、アーチ(巨大絵)を描いて活躍する生徒もいます。運動会一つとっても、いろいろな才能を発揮する場所があって、それを生徒たちがお互いにリスペクトしあう、というのが開成のよき伝統だと思います。
生徒も教員も余白の時間が多い
――なるほど。ところで近年、開成の卒業生たちが実にさまざまな分野で活躍していますが、その原動力は何だとお考えですか?
【佐藤】いろいろな要素があると思うのですが、まず開成の生徒たちはそもそも自己肯定感の高い子が多い。これはご家庭での育て方がいい、というのもあるかもしれません。
【中﨑】確かにそうですね。さらに言うと、開成にはそんな彼らが自由に使える“余白の時間”が多いのです。午後2時半に授業が終わった後、何をするか。生徒が自分で決めるわけです。部活でも学校行事の準備でもいいし、勉強したいことがあれば放課後特別講座もあります。学校の中にいろいろな何かが転がっていて、生徒たちは余白の時間を使って、その中から自分が熱中できるものを見つけていく。なかには何にも興味を見いだせない子もいますが、そういう環境の中で、いつの間にか何かを見つけていくんですね。
【鎌田】余白の時間というのは、我々教員にも多いですよね。
【中﨑】そうですね。ほかの学校に比べて、教員が自由に使える時間が多いと思います。最近は、部活指導は外部の方にお願いする学校も増えてきていますが、開成は自校の教員が顧問をしているし、生徒たちが仲間を募って新しい同好会をつくったときも、「顧問になってくれ」と気軽に頼みにきますし。まあ、教員は体のいい雑用係なんですけどね(笑)。それを引き受けてやれるのは、時間的な余裕があるからです。
【佐藤】生徒の関心に寄り添いたいという思いもね。
【鎌田】最近は海外大学へ直接進学する生徒も増えていますが、そういう生徒たちって、ほぼ例外なく、勉強だけでなくいろんな活動をしていますよね。ハーバード大学に進学後、シリコンバレーで起業した大柴行人くんも、在学中はいろいろな活動をしていました。
【佐藤】クイズ研究部でしたよね?
【鎌田】それとバドミントン部の掛け持ちで。
【佐藤】バンコクでの英語ディベート大会に出場して、大負けしたことで海外志向に火がついたんでしょ?
【鎌田】そうです。彼がすごいのは、そういう自分の考えや活動を、後輩たちに伝えるボランティア活動もしていたことです。確か「インスパイヤ開成」といったかな。
【中﨑】していましたね。
【鎌田】もう一人、コロンビア大学に進学した上島士和とわくん。アフリカの子供たちを支援するんだといって、自分でマグカップを作り、いろいろなところで売る活動をしていました。彼は野球部で、文化祭でも裏方の仕事をしっかりやっていましたよ。コロナ禍での開催だったので、QRコードで来場者の入退場管理をするという仕事です。忙しすぎて「頭に10円ハゲができた」と言っていましたが(笑)。
【中﨑】海外の、特にトップ大学に進学する場合、英語だけでなく、オールラウンドの学力が求められますが、みんな勉強はしっかりやりつつ、それだけの活動ができるんですから、そのバイタリティーは素晴らしい。
【鎌田】そこは開成の教育方針と合致していますよね。文理にかかわらず幅広い教科をみんなに学んでもらおうという。実際、海外に進学する生徒って古文や漢文もよくできるんです。
【佐藤】私も国語を教えているので特に思いますが、自国の文化を理解していない人というのは、結局グローバルに活躍できる人材にはならないと思うんですよ。日本人は欧米人ほど宗教心を持たないので、自分のアイデンティティーを保つのが難しい側面があります。そうしたときに、古文などの自国の文化に関する知識や感性というのは本当に大事だと思いますね。